百合に挟まる犬になった話

 やぁみんな。柴犬のシバ子だよ!
 百合は学校に行っているから、犬は家で留守番だ。

 聞いてくれ。さっき出された朝飯がカリカリだったんだ。
 体は犬でもメンタルは人間。
 人としての最後のプライドで食うのは無理だと思ったが、体は正直だった。

 カリカリはバリうめぇ。

 
 親父さんは海外赴任で百合が高校出るまで帰ってこないご都合主義さ!
 お母さんは仕事に行っているから俺一人。

 柴犬生活もはや一週間がすぎて、意外と馴染んじゃっている俺がいた。



「ただいまー! シバ子、散歩行こ!」
「お邪魔します」

 百合ともう一人女子の声がした。
 迎えに出ると、髪を太い一本の三つ編みにした委員長タイプのメガネっ娘が律儀にお辞儀してくれた。

「この子がシバ子ちゃんですか? かわいいですね」
椿つばきちゃんありがとう。そうなの、シバ子はかわいいの!」
「な、撫でてもいいですか?」
「もちろん!」

 俺は大人しく椿になでられる。
 人間のままで女子高生に全身なでなでされていたら、ロリコン呼ばわりでおまわりさん呼ばれていたね。
 

【隣の席の赤木椿ちゃん、いつも一人で本を読んでいたから声をかけた。そしたらびっくり。椿さん犬好きなんだって。お母さんがアレルギーだから飼えない、って言うから家に来てもらった。シバ子とすぐに仲良くなって嬉しいな】

 今日も説明ありがとう、モノローグさん。

 出会って一週間で家に連れてくるって、うちの飼い主コミュ力高い。
 俺には真似出来ないよ。

 椿は本当に犬好きなんだろう。
 ずっと、嬉しそうに俺を見ている。

「椿ちゃんもお散歩してみる? 一緒に紐持とうよ」
「い、いいんですか? でも、白井さん一人じゃないと逃げちゃうんじゃ」
「大丈夫。よくお母さんともするもの」

 あ、ユリタイム突入ですね。
 俺は大人しく空気になります。

 恐る恐る百合と手を重ねる椿。

「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「はい!」
「それと、白井さんじゃなくていいよ。百合って呼んでほしいな」

 とまどいながらも、椿は百合を呼ぶ。

「ゆ、百合、ちゃん」
「うん、椿ちゃん!」

 何この子たち、尊い。
 新しい扉が開く音がするぜ。
 今日も|邪魔者《おとこ》がいない中、ユリが咲き乱れている。


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