マリオネットは契約結婚で愛を知る。
優一の様子がおかしい。
帰ってきてからずっとそわそわしていて、食事中も心ここにあらず。
パソコンの講習前に、静は意を決して、この一週間気になっていたことを聞いた。
「優一さん。明日はどこに行く予定なんですか。もう聞いてもいいですよね」
「あ、え、えーと、うん。そうだね」
優一は何度も深呼吸してから、口を開く。
「静ちゃん。君を、愛している。僕と、本当の夫婦になってほしい。静ちゃんがうんと言ってくれるなら、明日、一緒に結婚指輪を買いにいきたいんだ」
優一は静の左手を取って、まっすぐ静を見つめる。
夢を見ているのかと思った。
少しひんやりした指先、大きな手のひら。あの夜のことが頭をよぎってしまい、顔が熱くなる。
「ま、また酔って…………いるんですか。いつの間にお酒を」
「あああ、僕のせいでそんなふうに……。まずそこから、だね。僕、ちゃんと覚えているから」
「へ……?」
覚えていた。優一も。
言っている本人もだいぶ恥ずかしいようで、声がうわずっている。
顔を赤くしながら、言葉を続ける。
「男の僕のほうが力があるんだから、静ちゃんは嫌でもはねのけられなかったと思うんだ。……酔っていたとはいえ、初めての女の子に配慮できなくてごめん。ただ、その……好きだっていう気持ちは、嘘じゃない。父親思いで、頑張り屋で、健気で、小さい子にも優しくて……静ちゃんの全部が好きだよ」
優一の眼差しはとても真剣で、そらすことができない。
「静ちゃんと夫婦になりたいんだ。来年も、その先も、ずっと、一緒にいてほしい。静ちゃんの答えを聞きたい。静ちゃんの気持ちを尊重するから」
好きになった人に好きだと言ってもらえて、こんなに嬉しいことはない。
でも優一はいつも静に選択権をくれる。
静がなにをしたいか、どこにいきたいか。
それが逆に不安でもある。
「私の気持ちを尊重するって、もし私が嫌ですって言ったら、諦めて離婚するんですか」
「諦めたくない。僕を選んでほしい。でも、静ちゃんが別れたいと思っていた場合、ここに留まるように強要するのは、叔母さんとキララがしてきたことと同じになってしまう。未来を選べないようにさせるなんて、そんなの羽をもいだ鳥を籠に閉じ込めるようなものだ。だから選んで。静ちゃんが選びたい道を」
静の心はもう決まっていた。優一の手を握り返し、答える。
「私……私も好き。本当の奥さんに、してください」
優一に抱きしめられて、静も優一の胸に手を添える。
涙が静の頬をつたう。
口づけをして、目を閉じて、優一の匂いと温かさを感じる。
(優一さんも、どきどきしてる……)
布団に体を沈めて、覆いかぶさる優一を見つめて、幸せな気持ちで言葉を紡ぐ。
「ずっと、一緒にいてください」
「もちろんだよ。静ちゃんの願いは、僕の願いでもあるから」
電気を消して、衣擦れの音がして、優一が静のブラウスに指をかける。
「……いい? 嫌なら嫌って言って」
言葉にならなくて、黙って頷く。
体を重ねて思いを確かめ合う。
何度か交わり、もう休もうかというころ。
優一は後ろから静を抱きしめて、寂しそうにいう。
「今日ね、職場の前に、前妻が来たんだ。今さら、よりを戻したいって。もちろん断ったけれど。なにも話し合えないまま終わるのはもう嫌だから、静ちゃんも、不安なことと、嬉しいこととか、全部言ってね。僕もこれからは、気持ちをちゃんと言葉にするよう心がけるから」
「…………はい」
まわされた腕に触れて、静は目を閉じる。
静がずっと、最初の約束に縛られて気持ちを言えなかったように、優一も、形だけの結婚だから夫婦にはならないという自分の言葉に縛られていた。
ちゃんと伝えないと、思いあった夫婦だって簡単に壊れて終わってしまう。
だからもう、我慢せずに思いを伝える。
「優一さん、愛しています」
静を抱く腕に、力がこもる。
「うん。僕も、愛してる。静……。君が行きたいなら、どこにでも連れて行く。ずっと、一緒に行こう」
静の頬に口づけをして、そのまま二人で眠りについた。
帰ってきてからずっとそわそわしていて、食事中も心ここにあらず。
パソコンの講習前に、静は意を決して、この一週間気になっていたことを聞いた。
「優一さん。明日はどこに行く予定なんですか。もう聞いてもいいですよね」
「あ、え、えーと、うん。そうだね」
優一は何度も深呼吸してから、口を開く。
「静ちゃん。君を、愛している。僕と、本当の夫婦になってほしい。静ちゃんがうんと言ってくれるなら、明日、一緒に結婚指輪を買いにいきたいんだ」
優一は静の左手を取って、まっすぐ静を見つめる。
夢を見ているのかと思った。
少しひんやりした指先、大きな手のひら。あの夜のことが頭をよぎってしまい、顔が熱くなる。
「ま、また酔って…………いるんですか。いつの間にお酒を」
「あああ、僕のせいでそんなふうに……。まずそこから、だね。僕、ちゃんと覚えているから」
「へ……?」
覚えていた。優一も。
言っている本人もだいぶ恥ずかしいようで、声がうわずっている。
顔を赤くしながら、言葉を続ける。
「男の僕のほうが力があるんだから、静ちゃんは嫌でもはねのけられなかったと思うんだ。……酔っていたとはいえ、初めての女の子に配慮できなくてごめん。ただ、その……好きだっていう気持ちは、嘘じゃない。父親思いで、頑張り屋で、健気で、小さい子にも優しくて……静ちゃんの全部が好きだよ」
優一の眼差しはとても真剣で、そらすことができない。
「静ちゃんと夫婦になりたいんだ。来年も、その先も、ずっと、一緒にいてほしい。静ちゃんの答えを聞きたい。静ちゃんの気持ちを尊重するから」
好きになった人に好きだと言ってもらえて、こんなに嬉しいことはない。
でも優一はいつも静に選択権をくれる。
静がなにをしたいか、どこにいきたいか。
それが逆に不安でもある。
「私の気持ちを尊重するって、もし私が嫌ですって言ったら、諦めて離婚するんですか」
「諦めたくない。僕を選んでほしい。でも、静ちゃんが別れたいと思っていた場合、ここに留まるように強要するのは、叔母さんとキララがしてきたことと同じになってしまう。未来を選べないようにさせるなんて、そんなの羽をもいだ鳥を籠に閉じ込めるようなものだ。だから選んで。静ちゃんが選びたい道を」
静の心はもう決まっていた。優一の手を握り返し、答える。
「私……私も好き。本当の奥さんに、してください」
優一に抱きしめられて、静も優一の胸に手を添える。
涙が静の頬をつたう。
口づけをして、目を閉じて、優一の匂いと温かさを感じる。
(優一さんも、どきどきしてる……)
布団に体を沈めて、覆いかぶさる優一を見つめて、幸せな気持ちで言葉を紡ぐ。
「ずっと、一緒にいてください」
「もちろんだよ。静ちゃんの願いは、僕の願いでもあるから」
電気を消して、衣擦れの音がして、優一が静のブラウスに指をかける。
「……いい? 嫌なら嫌って言って」
言葉にならなくて、黙って頷く。
体を重ねて思いを確かめ合う。
何度か交わり、もう休もうかというころ。
優一は後ろから静を抱きしめて、寂しそうにいう。
「今日ね、職場の前に、前妻が来たんだ。今さら、よりを戻したいって。もちろん断ったけれど。なにも話し合えないまま終わるのはもう嫌だから、静ちゃんも、不安なことと、嬉しいこととか、全部言ってね。僕もこれからは、気持ちをちゃんと言葉にするよう心がけるから」
「…………はい」
まわされた腕に触れて、静は目を閉じる。
静がずっと、最初の約束に縛られて気持ちを言えなかったように、優一も、形だけの結婚だから夫婦にはならないという自分の言葉に縛られていた。
ちゃんと伝えないと、思いあった夫婦だって簡単に壊れて終わってしまう。
だからもう、我慢せずに思いを伝える。
「優一さん、愛しています」
静を抱く腕に、力がこもる。
「うん。僕も、愛してる。静……。君が行きたいなら、どこにでも連れて行く。ずっと、一緒に行こう」
静の頬に口づけをして、そのまま二人で眠りについた。