マリオネットは契約結婚で愛を知る。
新年会の翌朝。
目覚めた優一は昨日のことを思い返して、いたたまれなさで枕に突っ伏した。
酔って判断力がなくなっていたとはいえ、「静ちゃんのかわいいところ百選」を披露してしまった。
そればかりか、静に好きだと連呼して、あまつさえ押し倒してしまったのだ。
枕に顔を埋めたまま声にならない声を出してしまう。
夫婦の営みはしないという約束をしたのに、抑えがきかなかった。
目に涙をためて優一を呼ぶ声が愛おしくて、もっと聞きたいと思ってしまった。
毒親の手から逃れたら手放すつもりだったのに、自由になってもらおうと思ったのに、この恋心を静本人に告げるつもりなんてなかったのに。
それに、静も好きだと言ってくれた。
酒に飲まれた自分をひっぱたきたい気持ちと、静の気持ちを聞けた嬉しさがまざりあう。
静はもう起きているようで、味噌汁の香りがしている。
頭を左右に振って両手で頬を叩いてダイニングキッチンに行く。
静はいつもどおりの挨拶をしてきて、普段通りに見える。
(もしかして僕は、酔い過ぎて自分に都合のいいを夢に見てしまったのか。……だとしたらかっこ悪すぎる。どこからが現実で夢だったんだろう)
昨夜のことが現実だったかどうか、自信がなくなってきた。
でもなんだか、静は視線をさまよわせて優一を直視しないようにしているように見える。
「……えーと、昨日、僕はどうやって帰ってきたのかな」
「だいぶ酔っていたので、私が迎えに行ってタクシーで帰ってきたじゃないですか」
静が迎えに来てくれたところまでは現実だった。
さらに職場のみんなにからかわれる覚悟もしたほうがいいとまで言う。
静ちゃんのかわいいとこ百選も現実だった。職場に顔を出したくない。
弁当を受け取って玄関を出る前に、静を見る。
緊張気味に優一を見上げる静の首筋には、痕がついていて……昨夜のことも夢ではなかったと気づく。
優一が最初に「静をあの家から出すために表向き婚姻届を出しただけで、夫婦関係はなし」と言ってしまったから、静は昨夜のことをなかったことにしようとしている。
酔っていたから昨夜の記憶がないというのはドラマや漫画でよくある展開。
そっちの可能性に賭けて、知らぬふりをしているんじゃないかと思った。
酔った勢いとはいえ、優一が告げた気持ちは本心。
静の好きも夢でなく、本当に本心から言ってくれていたなら最高に幸せなのに。
なかったことにされたくはなくて、静の額に唇を落とす。
家を出てから、自分のやらかした行動を振り返って頭を抱えた。
ごみ捨てから帰ってきたらしい隣家の母親とエレベーター前で会い、不思議そうな顔をされる。
「四ノ宮さん、おはようございます。かぜでもひいたんですか? 顔が真っ赤ですよ」
「な、なんでもないですよ、珠妃さん。おはようございます、あははははは……」
嫁の可愛さを再認識していたなんて、恥ずかしすぎて言えるわけがない。
学校について事務所の扉を開けると、すでに出勤していたメンバーの視線が優一に集中した。
鳩羽が勢いよく寄ってきて、ガシっと優一の肩に腕を回し、ペンをマイク代わりにインタビュアーのまねごとをはじめる。
「うへへへ、四ノ宮さん、奥さんすんごく可愛かったですねえ。かわうぃーところが百選もあるってのも頷けますよー、うんうん。昨日聞けなかった、かわいいところその三十六以降も教えてもらっていいでしょうかー?」
「なんのことでしょう、覚えていません」
「またまたぁ。忘れたなら思い出させてあげましょうか。ねー、先輩。一からカウントしたら思い出すんじゃないですかね」
「いいねぇ。ストイックな顔してして実は嫁さんのこと超大好きって、ねー! オレも残り六十五選を聞きたいなぁ」
鳩羽と先輩職員が悪い顔で笑う。
「うああ、やめてください忘れてください、ほんと、お願いします!」
「遠慮しないでくださいよう。自慢したい嫁なんでしょう」
外せない用事で新年会に参加できなかった人にまで昨夜の話が伝わっていて、一日中からかわれる羽目になった。
目覚めた優一は昨日のことを思い返して、いたたまれなさで枕に突っ伏した。
酔って判断力がなくなっていたとはいえ、「静ちゃんのかわいいところ百選」を披露してしまった。
そればかりか、静に好きだと連呼して、あまつさえ押し倒してしまったのだ。
枕に顔を埋めたまま声にならない声を出してしまう。
夫婦の営みはしないという約束をしたのに、抑えがきかなかった。
目に涙をためて優一を呼ぶ声が愛おしくて、もっと聞きたいと思ってしまった。
毒親の手から逃れたら手放すつもりだったのに、自由になってもらおうと思ったのに、この恋心を静本人に告げるつもりなんてなかったのに。
それに、静も好きだと言ってくれた。
酒に飲まれた自分をひっぱたきたい気持ちと、静の気持ちを聞けた嬉しさがまざりあう。
静はもう起きているようで、味噌汁の香りがしている。
頭を左右に振って両手で頬を叩いてダイニングキッチンに行く。
静はいつもどおりの挨拶をしてきて、普段通りに見える。
(もしかして僕は、酔い過ぎて自分に都合のいいを夢に見てしまったのか。……だとしたらかっこ悪すぎる。どこからが現実で夢だったんだろう)
昨夜のことが現実だったかどうか、自信がなくなってきた。
でもなんだか、静は視線をさまよわせて優一を直視しないようにしているように見える。
「……えーと、昨日、僕はどうやって帰ってきたのかな」
「だいぶ酔っていたので、私が迎えに行ってタクシーで帰ってきたじゃないですか」
静が迎えに来てくれたところまでは現実だった。
さらに職場のみんなにからかわれる覚悟もしたほうがいいとまで言う。
静ちゃんのかわいいとこ百選も現実だった。職場に顔を出したくない。
弁当を受け取って玄関を出る前に、静を見る。
緊張気味に優一を見上げる静の首筋には、痕がついていて……昨夜のことも夢ではなかったと気づく。
優一が最初に「静をあの家から出すために表向き婚姻届を出しただけで、夫婦関係はなし」と言ってしまったから、静は昨夜のことをなかったことにしようとしている。
酔っていたから昨夜の記憶がないというのはドラマや漫画でよくある展開。
そっちの可能性に賭けて、知らぬふりをしているんじゃないかと思った。
酔った勢いとはいえ、優一が告げた気持ちは本心。
静の好きも夢でなく、本当に本心から言ってくれていたなら最高に幸せなのに。
なかったことにされたくはなくて、静の額に唇を落とす。
家を出てから、自分のやらかした行動を振り返って頭を抱えた。
ごみ捨てから帰ってきたらしい隣家の母親とエレベーター前で会い、不思議そうな顔をされる。
「四ノ宮さん、おはようございます。かぜでもひいたんですか? 顔が真っ赤ですよ」
「な、なんでもないですよ、珠妃さん。おはようございます、あははははは……」
嫁の可愛さを再認識していたなんて、恥ずかしすぎて言えるわけがない。
学校について事務所の扉を開けると、すでに出勤していたメンバーの視線が優一に集中した。
鳩羽が勢いよく寄ってきて、ガシっと優一の肩に腕を回し、ペンをマイク代わりにインタビュアーのまねごとをはじめる。
「うへへへ、四ノ宮さん、奥さんすんごく可愛かったですねえ。かわうぃーところが百選もあるってのも頷けますよー、うんうん。昨日聞けなかった、かわいいところその三十六以降も教えてもらっていいでしょうかー?」
「なんのことでしょう、覚えていません」
「またまたぁ。忘れたなら思い出させてあげましょうか。ねー、先輩。一からカウントしたら思い出すんじゃないですかね」
「いいねぇ。ストイックな顔してして実は嫁さんのこと超大好きって、ねー! オレも残り六十五選を聞きたいなぁ」
鳩羽と先輩職員が悪い顔で笑う。
「うああ、やめてください忘れてください、ほんと、お願いします!」
「遠慮しないでくださいよう。自慢したい嫁なんでしょう」
外せない用事で新年会に参加できなかった人にまで昨夜の話が伝わっていて、一日中からかわれる羽目になった。