六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 日本に飛ばされて一週間。
 ケンとショウが案内してくれたおかげで、魔王はすっかり村の地理に明るくなっていました。

 そしてトメさんがテレビという魔法のような道具でニュースやドラマを見せてくれたので、日本の事情も徐々に飲み込めてきました。

 日本の社会は町内会長、町長、市長、県知事、総理などなど各地を支配する長がいる。
 
 日本の支配者は総理大臣。
 リュウを総理大臣にまで育て上げれば日本は魔王の支配下も同然。

 そう考えて、働いてお金を貯めることにしました。
 子どもを大学まで行かせるには、すごくお金がかかります。

 のどか荘の近所にある銭湯の番台が腰を悪くして、入院しなければならぬという。
 そこで魔王が臨時雇いで番台になったのです。
 番台の横に置いたゆりかごで、リュウはおひるね中。

 入り口にのれんを下げて、開店準備完了。

「ぬははは。計画は順調だの、爺。リュウを立派な総理大臣にするのだ」
『くっ。幼体を支配者にするためとはいえ、魔王さまが人間のように働かねばならないなんて。ドラゴンのままなら三日もあればこんな小さい島国圧倒できるのに……』

 爺やが嘆きます。

「いいや爺、儂がドラゴンとして支配すれば、きっとまた人間が結束して儂らを狩ろうとする。あちらと同じことを繰り返すだけだからの」

 異界にいた頃、魔物は人間たちに狩られ、武器防具の材料や薬の材料にされていました。
 魔物が率先して人間を害したわけではないのです。
 仲間が理不尽に狩られるままで居られないと、魔王は魔族を率いて人間に反旗を翻し……その結果が現在です。

「人として、正攻法で統治して、理不尽に儂らが狩られることがないようにするのだ。爺も普通に生きたいだろう」
『ああ、魔王さまにはそのように深いお考えがあったのですね……。爺は感動しました。これからも魔王さまについていきますゆえ!』

 ワンワン、とケルベロスも吠えます。
 私も一生ついていきます! と言いたいようです。

「ぬははは。爺、ケルベロス、任せるがよい。このバルトロメウス、統治を成し遂げてみせようぞ!」

 開店してすぐ、カラカラと銭湯の引き戸を開けてトメさんが入ってきました。

「トロさんや、差し入れを持ってきたすけ食べなせ。仕事中は忙しくて食べる暇がなくなるろ」
「おお、すまんのうトメ」

 トメさんが届けてくれた特製シャケのにぎりめしと煮菜のお弁当をもらい、番台の仕事を開始しました。



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