六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

「ごきげんよう登呂さん。わたくしがリュウを見ていてさしあげますわ! 少しお休みになったらいかが?」

 昨日丁重にお断りしたのに、マージョはめげることなくやってきました。

「遠慮しておく」
「遠慮はいりませんわ! 常にリュウのお世話ではつかれるでしょう。さあさあ。ベロちゃんのお散歩をゆっくりするなりなんなり好きになさって。父親をいたわるのも母親のつとめですわ!」

 話を聞かない人の扱いなど知るはずもなく、魔王は頭を抱えてしまいます。

「銭湯に入る目的で来たのでないなら、家に帰って宿題をしているといい。おぬしは小学生。いま小学校は夏休み中だろう」
「大丈夫ですわ。学校はあちらで卒業しております」

 あちらとはどちらなのか。
 意味がわかったのは魔王たちだけ。他の客たちはざわついています。

「まさかアメリカでよくあるっていう飛び級!? こんな小さいのに大卒を?」
「超天才児ってこと?」

 いくら言っても引こうとしないマージョ相手に、鳥かごの中の爺やが羽を広げていかくします。

『ぬおーー! こやつは天災だ! 帰れ帰れ! 邪魔じゃーー!』
「あらジーヤちゃんまでわたくしを天才と。お利口さんにはクッキーをあげましょうね」

 マージョが頬に手を当てながら取り出したのは平たく小さな炭。
 炭でなければ冷蔵庫に貼るマグネット。
 恐る恐る聞いてみる魔王。

「……それはなんだ?」
「見てわかりませんの? クッキーですわ」

 炭だろう、とその場にいた全員の脳内ツッコミが炸裂します。

『キャベツならともかく炭なんぞいらんわーーーー!』
「あらジーヤちゃんご機嫌ナナメなんですの。じゃあベロちゃんにあげ……」
「ガルルル」

 わりと何でもイケる口のケルベロスですが、さすがに炭なんか出されて喜ぶわけありません。

「なら登呂さんに。この袋にたくさん作ってあるんです」
「あー、はははは、儂はトメが作ってくれた弁当を食べるからの」

 炭回避成功、かと思いきや。

「お弁当。そうですね。リュウを育てる登呂さんの補佐をすればリュウを育てる一環になりますわ。明日を待っていてくださいませ。渾身のお弁当を作って差し上げます!」
「いや、トメの弁当がうまいからこれが一番……」
「遠慮はいりませんわ!」

 お菓子で炭なら弁当はどうなるのか。
 考えることを放棄しそうになる魔王であった。



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