六畳一間の魔王さまの日本侵略日記
ユーシャが店の品出しをしていたところ、ここにいるはずのない人物が現れました。
「まあ! ユーシャ。なんて姿なの。鎧は? 剣はどこにいったの?」
「ね、姉さん!? なんで日本に!」
見間違うはずもありません。
そこにいたのは姉マージョでした。
ケンとショウが一緒にいます。
「二人は知り合いなの? でも姉さんってなに」
「なんだ、ユウとねーちゃん知り合いだったのか」
「知り合いも何も、この子はわたくしの弟です。わたくしはマージョ。よろしくお願いしますね、みなさま」
うやうやしくお辞儀するマージョ。
レジ打ちしていたハドウ、そして客として来ていた近所のおばさまたちがこの光景にざわめきます。
「おいおい。十才くらいの女の子をお姉ちゃんと呼ぶなんて、大丈夫かユウさん。疲れてんのか? 仕事させすぎたか?」
「ま、まさかそういうプレイ? 愛の形はいろいろあるけどね。ロリコンは良くないと思うのよ」
マージョは見た目十才前後の女の子。そしてユーシャの容姿は年齢相応、二十才すぎの青年です。
異界では魔法使いが若い姿を保っているのが当たり前。ですが、日本において、姉と弟だと言って理解してもらうほうが無理というもの。
大人たちに疑惑の視線を向けられ、ユーシャはいたたまれなくなりました。
「あ、えーと、はははは。ハドウさん。ちょっと、十五分でいいので、休憩もらっていいでしょうか。話をするので!」
「あ、ちょっとユーシャ!」
姉の手を掴んで店の勝手口にまわり、冷や汗たらたらで話をします。
「ユーシャ。これはどういうことなの。魔王退治を遂行しているのではなかったの?」
ユーシャは日本に来てからのこと、日本のことを姉に説明しました。
「というわけで、魔王の居所が掴めないんだ。だからこうして生活費を稼ぐ傍ら、情報を集めている」
「そう。魔王の手に落ちたのでなくて良かったわ」
「心配させてすまない。姉さんはなぜこちらに」
「陛下から、魔王退治の補佐をするように命を受けましたの。でも……」
マージョが杖を振ってみせますが、何も起こりません。
「見てのとおり。なぜかこちらに来てから魔法が使えないのです。一時的なのか、ずっと使えないままなのか、それはわかりませんが」
「そう、か。姉さんの魔法に頼れないのは残念だが、姉さんがいるのは心強い」
日が経てば魔力が回復すると信じるほかありません。
「ユーシャ。わたくしも魔王を倒すまで帰れません。あなた、今はどこで生活しているの? そこで一緒にお世話になっても構いません?」
「私の一存では決められないので、小田さんに聞いてみないと」
バイトが終わってから、小田宅にマージョを連れていくと小田はびっくり仰天。
驚きはしたものの、「エルフや魔女が不老って異世界の鉄板だよね! ほんとにあるんだ!」となんだかすごく楽しそうです。
二つ返事で、マージョが小田宅に住まうことを承諾してくれました。
「でもマージョさん、日本にいる間は姉と弟ではなく、兄と妹のふりをしていたほうが賢明だよ。近所の人から、ユーシャさんがそういうプレイが好きなロリコンだと思われちゃうから」
実はとっくにロリコン疑惑が広まったあとだとは知らない小田でした。