六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 魔王がリュウを育てるようになり、はや三ヶ月。
 村のお医者さん、石谷に定期健診してもらい、順調に育っていると太鼓判をおしてもらいました。

「うんうん。首も座ったね。家でのリュウくんの様子はどうだね」
「よく寝てよく飲む。力も強くなったみたいで、儂の指を掴めるのだ」
「そりゃぁーよかった」

 カッカッカッと笑いながら、カルテに書き込み看護師さんに渡します。

「登呂さん自身の方は大事ないかね」
「飯もうまいし問題はないぞ」
「そうかそうか。お前さんの記憶に関してはな、ふとした瞬間に戻るモンがいりゃ何年もかかるモンもいる。焦らず待とうな」
「すまんのう」

 村のみんな“リュウを助けたとき頭を打って記憶喪失になった”と思いこんだままなので、魔王は話を合わせます。

 本当は何も忘れてないし、人間でもないのです。
 良くしてくれるひとたちに嘘をつくのは心苦しいですが、『異界人がいる以上ばれたらキケンです!』と爺やが警告するので、記憶喪失のまま訂正していません。


 リュウを連れてのどか荘に帰ると、ケンとショウが遊びにきました。

「トロー。来たぞ!」
「トロさんこれあげるー」

 どうぞと言わないうちにサンダルを脱いで魔王の六畳間にあがりました。

『おおお、おのれ小さき種族め! 魔王さまの城に許可なくあがるなど。しかもまた呼び捨てに! 聞いているのか人間!』
「今日もジーヤは賑やかだねー。あとで遊んであげるから静かにしてね」

 爺やがかごの中でわめくけれど、子供にはぜんぜん通じません。
 人間の姿をしていたなら今、悔しすぎて唇を噛んでいたことでしょう。
 ワンワンとケルベロスが慰めました。

 ケンとショウはちゃぶ台に次々おもちゃを乗せます。

「俺のはガラガラとお風呂で泳ぐアヒル」
「ぼくが持ってきたのはガラガラと、あとハガタメってやつなんだって。あと肉じゃが作りすぎたから食べてっておばあちゃんが言ってた」
「ありがたいのう」

 おばあちゃんはどれだけ作ったのか、魔王が受け取ったタッパーにはざっと見て二人前入っていました。

「リュウ、はやくでかくなれよ。俺らの秘密基地に連れて行ってやるからな」
「そうだよ。ぼくたちの秘密基地、すっごいんだから。見たらびっくりしすぎて、町内会長のおじちゃんみたいに髪の毛ずれちゃうよ」

 ケンがゆりかごで寝そべるリュウの手にガラガラを持たせてやると、興味深そうに持ち手を掴んでカランカランと動かします。

 つぶらな瞳が大きく開いて、「あ〜、だう!」となんだか嬉しそうです。

「気に入ってくれたようだの」
「へへん。俺がやったんだからトーゼンだ!」
「ぼくのも使ってよリュウ」

 得意げに胸を張るケン。ショウも負けじと柔らか素材のガラガラを出します。
 
 こんなに面倒みが良くて頼りになる兄貴分が二人もいるなら、リュウはこの先もすくすく育っていけそうだと魔王は思いました。



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