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六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

「よー、トロ!」
「元気そうだのう、ケン」

 買い物に行くと、ケンが店の前でポチ郎とボール遊びをしていました。
 ポチ郎は直径10cmくらいの黄色いゴムボールをくわえてきて、自慢げにケンの前に置きます。


「こら、ケン。登呂さんだろ。相手は大人なんだから呼びしてにしちゃだめだ」
「なんだよ父ちゃん! トロは怒ってねーのになんで父ちゃんが怒るんだよ」
「人様に対する礼儀ってもんだ馬鹿」

 トメさんのことを無意識に呼び捨てにしていた魔王はちょっと罪悪感が芽生えました。

「今日はベロ連れてねーのか?」
「クゥン」

 散歩コース内で他に犬を飼っている家はないから、なんだか寂しそうです。

「すまんな。今は散歩ではなく、おむつやおしりふきを買いに来た」

「おお、登呂さんお給料が入ったんですね。ご自分のものは買わないんですか」

「欲しいと思うものがリュウのためのものというだけだ」

 魔王が買い物メモを見せると、ケンの父ハドウは千頭さんと同じよう空を見て鼻をすすります。

「くっ。雨が降ってきた」
「何言ってんだ父ちゃん。今日は晴れだぞ」
「いいや雨だ」

 ハドウは店の引き戸を開けて魔王を中に招き入れました。

「登呂さん。おれたちにできることは少ねぇが、特別割引するからどんと買っていってください」
「いや、正規価格でよいのだが」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら言うものだから、魔王は心配になってしまいます。

 店のレジカウンターには、店のロゴ入りエプロンをつけピコハンを腰に結わえ付けたユウがいました。

「ユウさん、教えたとおりにレジをするんだよ」
「はい」
「もうパン潰すなよ」
「は、はい」

 レジ打ち練習のとき、握力が強すぎてパンをぺしゃんこにしてしまったらしく、レジの後ろにはいくつか指の跡がくっきりついたパンが積んでありました。

 トメさんに聞いて買い物の仕方を予習したからバッチリです。
 メモをもとに買うものをカートに乗せていき、レジで支払いをします。

 隣でハドウが見守る中、ユウがたどたどしい手つきでレジを打ち、お会計を終えました。

 他にいた買い物客は、口を揃えてこのときの様子を語ります。

 危なっかしくてハラハラした。
 親のような気持ちで見守った。

 手に提げきれないものはおんぶ紐でくくって背負い、帰路につきます。
 大荷物の登呂を迎えてトメさんは労ってくれます。

「すまねかったね。こんなに大荷物になるなら、おれの自転車貸せばよかったなぁ」
「ぬぅ。借りても乗り方がわからぬ」

 自転車に乗ったことはないし車の免許はないし、バスも電車も乗り方を知りません。

「ならおれの自転車、前に使ってたやつまだ乗れるすけ、それで練習するとええ」

 こうして魔王ははじめての買い物を無事に終えて、自転車修行の日々がスタートしました。




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