六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

「今日はお洗濯について教えようかの」
「うむ、指南を頼むぞトメ」

 バイトが休みのとある日曜日。
 魔王はリュウをおんぶし、溜まった洗濯物のかごを抱えて、トメさんから洗濯のなんたるかを学びます。

 のどか荘は風呂無しで、キッチン・トイレ・洗濯機が共用です。
 一階の共用スペースに置かれた洗濯機の前で、トメさんはかごの中からズボンを一枚取って手本を見せます。

「まずはポケットにティッシュや小物が入ってねぇか確認するんだ。これを忘れると洗濯物が紙くずまみれになるし、ペンも入れっぱなしにすると、インクが他の洗濯物に移っちまうからな」
「ふむふむ」

 教えられた通りポケットの中身を出して、洗濯槽にいれていきます。

「赤ちゃん用のくつしたみてえに細々したもんは、なくなっちまわねぇようネットに入れるんだ。何枚かあるすけ、一枚登呂さんにやるわ」
「助かるのう」

 洗濯物の分量を確認して洗剤を入れ、フタを閉めてスイッチをオン。
 
 ごうんごうんといい音を立てています。

「30分くれーしたら洗濯が終わるすけ、そしたら表にある物干し場に干すんだ。シワにならねえようにこう、広げながらな」

 洗濯が終わるのを待つ間、ちょうどいいのでケルベロスの散歩に出ました。
 季節はもう夏。
 よく晴れているので、リュウも気持ちよさそうに寝ています。

 爺やはケルベロスの頭にとまって、どこか不満そうです。

『ううぅ、本来なら下々の者に任せるべき雑用を、魔王さま自らがしなければならないなんて』
「そう言うな爺。この世界には“敵を知り己を知れば百戦危うからず”という格言がある。人間の事情に詳しくなれば、得た知識は必ず儂らの役に立とう」
「ワンワン!」

 ケルベロスも人々を観察し、知識を得る努力をすると息巻いています。

「人間の事情と言えば、先日爺が警戒しろと言っていたあの若者」
『ま、まさかアヤツに何かされたのですか魔王さま! 許すまじ人間!』
「落ち着け爺。今のところは何もされておらぬ」

 ただ、初めて会ったとき、翻訳スキルを通さなくてもユウという若者が何を言っているかわかったのです。
 この世界に来てからずっと、翻訳スキルを通して人々と会話をしていたのに。
 あのあと何度か銭湯に来ましたが、やはり何度声を聞いてもスキル無しに彼の言葉がわかる。

 それはつまり、魔王がもといた世界の者であるということ。

 ピコハンでなにかできるとは思いませんが、確かに爺やの言うように警戒はしたほうがいいのかもしれません。



image
20/45ページ
スキ