六畳一間の魔王さまの日本侵略日記
『魔王さま、魔王様さま!』
ある日の朝食、爺やが鳥かごの中で羽をパタパタさせて声をあげています。
「今日もジーヤちゃんは賑やからねぇ」
「すまんのうトメ。日中かごの中でストレスが溜まっておるのだろう。あとで“部屋んぽ”させたら静かになるはずだ」
トメさんと魔王は朝のニュース……の合間にあるジャンケンタイムから目を離しません。番組マスコットの時計ちゃんが勢い良く手を後ろに回して歌います。
『おのれ時計ちゃん! ジャンケンなんかより爺の話を聞いてくださいませ!』
「今回はグーだと思うのだがどうだ」
「じゃあグーにしてみようね。もし当たったらカニ鍋セットらよ〜!」
「カニというのは美味いのか」
「そうらよ、このサラダに乗ってるニセモンのカニカマなんてメじゃない美味さなんよ」
「ほー!」
わんわん、と尻尾を振るケルベロス。カニを食べたいようです。爺やを慰める気は1ミクロンもありません。
ジャンケンはあいこ。勝てませんでしたがちょうどポイントが貯まったので、トメさんがリモコンで応募ボタンを押します。
「ふむ、今日は雨の予報か。出勤するときは傘を持っていかないといけんの」
魔王は箸でサラダをつまみます。少し前に、トメさんが【塗り箸で大豆掴み】という修行をさせてくれたので、箸の使い方をマスターしたのです。
『くわ! 魔王さま!』
いつの間にか爺やが魔王の肩に乗っていました。
「爺や。どうやってかごから出たのだ」
『扉は持ち上げるだけの構造だと気づきましたゆえ、クチバシと足でちょいとすれば簡単に出られるのです! しょせんは小さき種族が作ったもの』
「さすがだのぅ」
気分は刑務所から脱獄を果たした虜囚。晴れ晴れした気持ちで胸を張っていた爺やでしたが。
「あれあれ、ジーヤちゃん脱走を覚えちまったのかい。お客さんが来とるときに逃げられたらかなわねえすけ、向井さんに鳥かご用の鍵もらってこようか」
『おのれ、余計なことをするな人間めぇぇええ!』
トメさんの善意が爺やを絶望のフチに叩き落としました。
「おおい大家さん、おるか」
「どうしたね」
「回覧板持ってきた」
農家仲間のじいさまが玄関を開けて入ってきました。
「昨日、夜まで男衆で林の周辺を探してみたんだろも、あのでかい刃物持った不審者は見つからなかったんじゃよ。焚き火のあとが残ってたんで、そう遠くには行ってねぇはずなんだろも」
「まだどこかに隠れてるってことかい、怖いねぇ。子どもたちが襲われたらかなわん」
大家さんだけでなく、魔王も気が気じゃありません。危ない人が潜んでいたら、リュウが健やかに育つことができません。
「登呂さんも気いつけるんらよ。お父さんがいねなったらそん子が泣くよ」
「ああ、気をつける」
忠告を受けて魔王は深くうなずきました。
ある日の朝食、爺やが鳥かごの中で羽をパタパタさせて声をあげています。
「今日もジーヤちゃんは賑やからねぇ」
「すまんのうトメ。日中かごの中でストレスが溜まっておるのだろう。あとで“部屋んぽ”させたら静かになるはずだ」
トメさんと魔王は朝のニュース……の合間にあるジャンケンタイムから目を離しません。番組マスコットの時計ちゃんが勢い良く手を後ろに回して歌います。
『おのれ時計ちゃん! ジャンケンなんかより爺の話を聞いてくださいませ!』
「今回はグーだと思うのだがどうだ」
「じゃあグーにしてみようね。もし当たったらカニ鍋セットらよ〜!」
「カニというのは美味いのか」
「そうらよ、このサラダに乗ってるニセモンのカニカマなんてメじゃない美味さなんよ」
「ほー!」
わんわん、と尻尾を振るケルベロス。カニを食べたいようです。爺やを慰める気は1ミクロンもありません。
ジャンケンはあいこ。勝てませんでしたがちょうどポイントが貯まったので、トメさんがリモコンで応募ボタンを押します。
「ふむ、今日は雨の予報か。出勤するときは傘を持っていかないといけんの」
魔王は箸でサラダをつまみます。少し前に、トメさんが【塗り箸で大豆掴み】という修行をさせてくれたので、箸の使い方をマスターしたのです。
『くわ! 魔王さま!』
いつの間にか爺やが魔王の肩に乗っていました。
「爺や。どうやってかごから出たのだ」
『扉は持ち上げるだけの構造だと気づきましたゆえ、クチバシと足でちょいとすれば簡単に出られるのです! しょせんは小さき種族が作ったもの』
「さすがだのぅ」
気分は刑務所から脱獄を果たした虜囚。晴れ晴れした気持ちで胸を張っていた爺やでしたが。
「あれあれ、ジーヤちゃん脱走を覚えちまったのかい。お客さんが来とるときに逃げられたらかなわねえすけ、向井さんに鳥かご用の鍵もらってこようか」
『おのれ、余計なことをするな人間めぇぇええ!』
トメさんの善意が爺やを絶望のフチに叩き落としました。
「おおい大家さん、おるか」
「どうしたね」
「回覧板持ってきた」
農家仲間のじいさまが玄関を開けて入ってきました。
「昨日、夜まで男衆で林の周辺を探してみたんだろも、あのでかい刃物持った不審者は見つからなかったんじゃよ。焚き火のあとが残ってたんで、そう遠くには行ってねぇはずなんだろも」
「まだどこかに隠れてるってことかい、怖いねぇ。子どもたちが襲われたらかなわん」
大家さんだけでなく、魔王も気が気じゃありません。危ない人が潜んでいたら、リュウが健やかに育つことができません。
「登呂さんも気いつけるんらよ。お父さんがいねなったらそん子が泣くよ」
「ああ、気をつける」
忠告を受けて魔王は深くうなずきました。