六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 魔王が番台に座っていると、ケンがおじいさんと一緒にやってきました。

「あー! トロじゃん! なに、なんでここにいんの。大家のばあちゃんのアパート追い出されたのか?」
「これ、ケン。年上の人相手に失礼なこと言うんでねぇ。すまねぇなあ登呂さん、うちの孫が生意気で」
「ふぎゃぁ!」

 ケンの頭にげんこつが降りました。

「よいよい。儂は追い出されたのでないぞ、ケン。生活費を稼いでおるのだ。リュウに大きくなってもらわないとならんからの」
「うぅ、自分の記憶も定かでないのに、見ず知らずの子を引き取って育てるなんて……。聞いとったとおりの人物じゃな。あんたのバイト代が上がるよう、入院しとる千頭せんとうのじいさんにはよう言うとくからの」
「ぬぅ。よくわからんが、泣かずともよい」

 おじいさんはケンと別の意味で涙を拭いました。涙もろいお年ごろなのです。

「あんたのような人が国のおえらいさんになったら、未来は安泰じゃろうなあ」
「ふむ」

 リュウを総理大臣にするとばかり考えていたので、自分が偉い役職に就くという考えがありませんでした。

 けれどおじいさんの言うとおり、魔王が就くほうが早いでしょう。今の魔王は、人間的見た目年齢から言って政治に参加できるのですから。

「ぬははは。弱きを守る令和の水戸黄門になれたらいいの」
「おお、登呂さんも黄門様の良さがわかるのけぇ。今週も最高じゃった」

 おじいさんと好きなドラマトークが盛り上がり、時代劇を見ないケンはぶーたれます。

「なぁじいちゃん、風呂はいるんだろ? いつまでケツ穴の話してるんだよ!」
「肛門じゃなくて黄門さまじゃよ。ケンにはまだわからんかぁ、はははは」

 おじいさんとケンはお代を払って脱衣場に入っていきます。

『あの老体の言うとおりですよ魔王さま! 魔王さまが地位を得てリュウを跡取りにすれば、治世は安泰でございましょう!』
「それはいいのぅ。それに、村長が言うに、このままリュウを捨てたもとの親が見つからぬ場合には、村長がコセキを作ってくれるそうだ。助かるのぅ」

 魔王だけでなく、リュウがこの地で生きていくための基盤も着実に整っているのです。

 番台でインコに話しかけているトボけた顔の男が日本侵略を企んでいる魔王だなんて、誰が思うでしょうか。
 人知れず密かに、魔王バルトロメウスの日本侵略計画は進んでいるのです。


image
10/45ページ
スキ