アルティナ・ノーキンは病弱王子様を支えたい。
アルティナ・ノーキンの趣味は筋トレだ。
毎朝10キロン(日本でいうところの㎞)のランニングをして、途中で遭遇したモンスターは拳でけちらし朝食の材料にする。
村の自警団団長をつとめる父、チョー・ノーキンのように強くなるのが目標だった。
まずは国一番の強い女になるべく、16歳の誕生日、王都の騎士団に志願した。
しかしアルティナの暮らしているグランスティング王国の教訓は、男はたくましく、女はつつましく。
女が騎士になりたいなんて前代未聞の出来事だった。
建国以来初めての騎士志願女子。しかも入団の体力試験を軽々突破してしまった。
仕事を与えないわけにはいかず、割り振られた任務は第一王子の護衛だった。
グランスティング王国には三人の王子がいて、三人とも成人している。
第二王子と第三王子はすでに国政で国内外を飛び回っている。
が、第一王子は病弱で月に二回は熱を出して寝込む。
臣下たちから吹けば飛びそうと評されている。
そんなわけで、次期国王になるのは第二王子か第三王子だと、国王と王妃も思っていた。
着任初日。
夏の日差しが照りつけ、水たまりも瞬時に干上がりそうな暑さの中。
アルティナは支給された軽鎧に身を包んで登城した。
そして自分の主となる第一王子、サリーの前に通された瞬間……胸の中に電撃が走った。
銀髪に青い瞳、白い肌。細身の美青年。
天使が地上に舞い降りたのではないかと錯覚するような美しさだ。村の男はマッチョな農夫や自警団しかいないので、こんなにも繊細で美しい男と対面するのは初めてだった。
「お初にお目にかかります、サリー様。私はアルティナ。本日からあなたの護衛を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしく……」
密林に住むというモンスター、ゴ・リラのようなムキムキ女子が現れたので、サリーもまた衝撃を受けた。
城で働くメイドたちはこんなにマッスルじゃない。母や貴族の娘たちはしとやかで、ドレスや装飾品で美しく着飾っている。
アルティナはアクセサリーなど一切つけず、まとうのは鎧と剣、そして闘気。髪は耳に少しかかるていどに短くしている。
これまで出会ったどんな女性とも違う存在に、圧倒された。
挨拶を済ませたアルティナは、早速護衛の任務に就く。
「サリー様、本日のご予定は」
「事務の後は書庫で本を読もうかと思っていた。けれどアルティナは城が初めてだよね。案内しないといけないかな」
「臣下が主の手を煩わせるなんてこと、いけません。私、自分の足で探索します」
毎日のランニングのおかげで足に自信があるので、一日あれば全貌を把握できる。
「明日のご予定は」
「明日以降もずっと。僕に割り当てられている領地からの書類に目を通して、必要なら現地に人を派遣する。噂で聞いているだろうけれど、僕は体が弱くてね。あまり外に出る仕事はできないんだ」
弟たちは視察や表敬訪問などで国中を巡れるのに、サリーは旅程の途中で寝込んでしまいかねない。だから城の中でできる仕事だけをしていた。
臣下に「吹けば飛ぶ」と評されていることも知っているし、メイドたちに「こんなひょろひょろでよくこの年まで生きてこれたわね」と陰でささやかれていることも知っている。
悔しいが事実だ。
「そんなのもったいないですサリー様。私の育った村はとても自然豊かで、空気もおいしくて、特にこれからの時期に採れるサンフルーツがとってもおいしいんです。いつかはサリー様に直接見ていただきたい」
「アルティナ。僕は体が弱いから……」
「体を鍛えれば、筋肉をつければ大体のことは解決します!」
アルティナはグッと拳をかため、力説する。
ご病気で臥せるなんてサリー王子お可哀想にと言われたことは数あれど、鍛えようと言われたのは初めてのことである。
「き、鍛えるって、僕が?」
「はい! なんならこれから騎士団の訓練所で素振りでもしましょう」
「…………え?」
うむを言わないうちに物理的に担ぎ上げられ、サリーはあっという間に騎士団の訓練所まで運ばれた。
騎士たちもあまりの光景にざわついている。
大の大人一人を担いできたのに、アルティナは汗一つかいていない。
サリーを地面に下ろすと、広々した訓練所を手のひらで示して笑う。
「さあ、私と一緒に筋肉をつけましょう」
「あー、うん、きみのような女性は初めてだよ」
サリーは驚かされてばかりで、いっそすがすがしかった。
騎士たちは「どうせ病弱王子じゃ一日で根を上げるし、アルティナの方もしょせんは女。すぐへばる」と思っていた。
弱音を吐くサリーを叱咤激励しながら、アルティナは隣で同じメニューをこなしていく。
一日10分の素振りからはじめ、三日目には走り込み5分を追加、五日目はスクワット3分を追加……という風に少しずつ筋トレメニューが増えていった。
アルティナは、メイドや城を訪れる貴族の令嬢たちから「女の身で剣を振り回すなんて野蛮な」と言われても、ひたすらトレーニングを続けた。
アルティナの理想とする強い女というのは、筋力だけでなく心も強い人間だ。
笑われても、信念を貫く。
サリーに健康体になってほしい一心だった。
かつて吹けば飛びそうと揶揄されていたサリーだったが、一年経つ頃には、アルティナの10キロンランニングにつきあえるくらいになっていた。
体幹がしっかりして声も前より張りがある。以前は自信なさげにうつむいてばかりだったが、今ではまっすぐ前を向いている。
熱を出して寝込むこともなくなった。
筋肉をつければ大体のことは解決する。まさにである。
これには国王と王妃も驚いた。
もともと病弱なこと以外は完璧だったサリーだ。見目麗しく、頭がいい上に性格も優しい。そこに強靱な体力が加わったので、王位継承候補筆頭になった。
貴族の子女がほうっておくわけがなく、毎日山のような婚約打診のお手紙が届く。
サリーが病弱だったときは見向きもしなかった、それどころか「頼りなくて結婚相手にはなりえない」とまで陰で笑っていた娘たちだ。みんな、国王主催のパーティーでサリーに挨拶以外で声をかけてきたことがない。
それくらい軽視されていた。
なのにいきなり結婚しましょうなんて、手のひら返しもいいところ。
そんな折、グランスティング城で舞踏会が開催されることになった。
王子は三人とも出席する。
国内外の王侯貴族も招かれて、会場はきらびやかなタキシードやドレスを着たものたちでいっぱいになる。
サリーのそばには護衛であるアルティナも控えている。騎士としての職務のためにここにいるので、いつもと変わらず鎧と剣を装備する。
「アルティナはあんな風にドレスを着たいと思ったことはないかい?」
「いえ。私は騎士なので。舞踏会より武闘会に出たいです」
髪の先まで筋肉でできていそうな発言をさらりとする。それがアルティナだ。
私もきれいなドレスで踊りたい、なんて天変地異が起きても言いそうにない。
「騎士団長には、剣を振る方が楽しいなんて女として終わってるって言われましたよ。あはは」
「アルティナはそのままでいいよ。騎士の格好がとても似合っている」
「ありがとうございます。最高の褒め言葉です」
騎士になることを夢見て田舎から出てきた娘だ。一年王城にいても一切貴族の令嬢たちの考えに染まらずにいる。
舞踏会の開会前に、主催として国王が挨拶をする。
「今回この会を開いたのはほかでもない。長子のサリーが見初めた人をみなに知らせたいと言うのでな」
国王の視線がサリーの方に向き、会場に集まっていた貴族がざわめく。これまで後継者として立つことすら危ぶまれていた王子が、未来の王妃になるかもしれない人を決めた。その事実に緊張が走った。
一部の令嬢からは甲高い悲鳴があがる。「きっとわたくしに違いないわ!」なんて声がそこかしこからする。
グランスティング王国は一夫一妻制なので、そんなに何人も婚約者候補がいるわけがないのだが。夢見るお年頃なのだ。
アルティナも、一年サリーのそばに仕えていてそんな話を初めて聞いたので、驚いている。
サリーは令嬢たちには目もくれず、隣に立つアルティナに手を差し出した。
「アルティナ。生涯を共に歩めるのはきみしかいない。主人と護衛ではなく、パートナーとしてそばにいてくれないか」
サリー、一世一代のプロポーズだ。
なんであんなゴ・リラが! という声があたりから聞こえるが、みんなアルティナの良さを知らないのだとサリーは怒鳴りたい気持ちになった。
いつも勇ましくサリーを守っているアルティナだが、予想外のことを言われて動転した。
「もしかしてそうなると私はもう騎士をできなくなるんですか!? 一生サリー様をお守りするつもりでいましたのに。そんな……」
「ショックを受けるところがそこなんだね。大丈夫。結婚した後も騎士でいていい。言っただろう。アルティナにはその格好がとても似合う」
騎士で王族の妻なんて前代未聞だ。はなからサリーの好きな相手を知っていた王と王妃、弟たちは拍手をするが、貴族の娘たちは阿鼻叫喚。
「なんでわたくしじゃなくてゴ・リラなんですの!?」
「わたしのほうがぜったい頭もいいし美しいのに!」
とまあ、すごい声が飛び交っている。
結婚後もそばにいて騎士をしていていいと言われたら、もう断る選択肢なんてなかった。
アルティナも聡明で努力家のサリーを素晴らしい人だと尊敬していたのだ。
「よろしくお願いします、サリー様」
「ああ。よろしく、アルティナ。次は舞踏会でなく、きみの好きな武闘会でも開こうか」
「ぜひ!」
グランスティング王国初の女騎士・アルティナがサリーの伴侶となったことで、「男はたくましく、女はつつましくあれ」という風潮は変わりつつある。
機知に富んだ男性がいてもいいし、先陣を切って戦う女性がいたっていい。
数年後、サリーが玉座を継いでからもアルティナは騎士の訓練を怠らずにいた。
ドレスでいる時間より、鎧を着ている時間の方が長い。
田舎育ちの騎士と王子がなぜ結婚に至ったのか。なれそめを聞かれたら、サリーとアルティナは決まって答える。
「筋肉を鍛えた結果です」
おしまい
毎朝10キロン(日本でいうところの㎞)のランニングをして、途中で遭遇したモンスターは拳でけちらし朝食の材料にする。
村の自警団団長をつとめる父、チョー・ノーキンのように強くなるのが目標だった。
まずは国一番の強い女になるべく、16歳の誕生日、王都の騎士団に志願した。
しかしアルティナの暮らしているグランスティング王国の教訓は、男はたくましく、女はつつましく。
女が騎士になりたいなんて前代未聞の出来事だった。
建国以来初めての騎士志願女子。しかも入団の体力試験を軽々突破してしまった。
仕事を与えないわけにはいかず、割り振られた任務は第一王子の護衛だった。
グランスティング王国には三人の王子がいて、三人とも成人している。
第二王子と第三王子はすでに国政で国内外を飛び回っている。
が、第一王子は病弱で月に二回は熱を出して寝込む。
臣下たちから吹けば飛びそうと評されている。
そんなわけで、次期国王になるのは第二王子か第三王子だと、国王と王妃も思っていた。
着任初日。
夏の日差しが照りつけ、水たまりも瞬時に干上がりそうな暑さの中。
アルティナは支給された軽鎧に身を包んで登城した。
そして自分の主となる第一王子、サリーの前に通された瞬間……胸の中に電撃が走った。
銀髪に青い瞳、白い肌。細身の美青年。
天使が地上に舞い降りたのではないかと錯覚するような美しさだ。村の男はマッチョな農夫や自警団しかいないので、こんなにも繊細で美しい男と対面するのは初めてだった。
「お初にお目にかかります、サリー様。私はアルティナ。本日からあなたの護衛を務めます。どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしく……」
密林に住むというモンスター、ゴ・リラのようなムキムキ女子が現れたので、サリーもまた衝撃を受けた。
城で働くメイドたちはこんなにマッスルじゃない。母や貴族の娘たちはしとやかで、ドレスや装飾品で美しく着飾っている。
アルティナはアクセサリーなど一切つけず、まとうのは鎧と剣、そして闘気。髪は耳に少しかかるていどに短くしている。
これまで出会ったどんな女性とも違う存在に、圧倒された。
挨拶を済ませたアルティナは、早速護衛の任務に就く。
「サリー様、本日のご予定は」
「事務の後は書庫で本を読もうかと思っていた。けれどアルティナは城が初めてだよね。案内しないといけないかな」
「臣下が主の手を煩わせるなんてこと、いけません。私、自分の足で探索します」
毎日のランニングのおかげで足に自信があるので、一日あれば全貌を把握できる。
「明日のご予定は」
「明日以降もずっと。僕に割り当てられている領地からの書類に目を通して、必要なら現地に人を派遣する。噂で聞いているだろうけれど、僕は体が弱くてね。あまり外に出る仕事はできないんだ」
弟たちは視察や表敬訪問などで国中を巡れるのに、サリーは旅程の途中で寝込んでしまいかねない。だから城の中でできる仕事だけをしていた。
臣下に「吹けば飛ぶ」と評されていることも知っているし、メイドたちに「こんなひょろひょろでよくこの年まで生きてこれたわね」と陰でささやかれていることも知っている。
悔しいが事実だ。
「そんなのもったいないですサリー様。私の育った村はとても自然豊かで、空気もおいしくて、特にこれからの時期に採れるサンフルーツがとってもおいしいんです。いつかはサリー様に直接見ていただきたい」
「アルティナ。僕は体が弱いから……」
「体を鍛えれば、筋肉をつければ大体のことは解決します!」
アルティナはグッと拳をかため、力説する。
ご病気で臥せるなんてサリー王子お可哀想にと言われたことは数あれど、鍛えようと言われたのは初めてのことである。
「き、鍛えるって、僕が?」
「はい! なんならこれから騎士団の訓練所で素振りでもしましょう」
「…………え?」
うむを言わないうちに物理的に担ぎ上げられ、サリーはあっという間に騎士団の訓練所まで運ばれた。
騎士たちもあまりの光景にざわついている。
大の大人一人を担いできたのに、アルティナは汗一つかいていない。
サリーを地面に下ろすと、広々した訓練所を手のひらで示して笑う。
「さあ、私と一緒に筋肉をつけましょう」
「あー、うん、きみのような女性は初めてだよ」
サリーは驚かされてばかりで、いっそすがすがしかった。
騎士たちは「どうせ病弱王子じゃ一日で根を上げるし、アルティナの方もしょせんは女。すぐへばる」と思っていた。
弱音を吐くサリーを叱咤激励しながら、アルティナは隣で同じメニューをこなしていく。
一日10分の素振りからはじめ、三日目には走り込み5分を追加、五日目はスクワット3分を追加……という風に少しずつ筋トレメニューが増えていった。
アルティナは、メイドや城を訪れる貴族の令嬢たちから「女の身で剣を振り回すなんて野蛮な」と言われても、ひたすらトレーニングを続けた。
アルティナの理想とする強い女というのは、筋力だけでなく心も強い人間だ。
笑われても、信念を貫く。
サリーに健康体になってほしい一心だった。
かつて吹けば飛びそうと揶揄されていたサリーだったが、一年経つ頃には、アルティナの10キロンランニングにつきあえるくらいになっていた。
体幹がしっかりして声も前より張りがある。以前は自信なさげにうつむいてばかりだったが、今ではまっすぐ前を向いている。
熱を出して寝込むこともなくなった。
筋肉をつければ大体のことは解決する。まさにである。
これには国王と王妃も驚いた。
もともと病弱なこと以外は完璧だったサリーだ。見目麗しく、頭がいい上に性格も優しい。そこに強靱な体力が加わったので、王位継承候補筆頭になった。
貴族の子女がほうっておくわけがなく、毎日山のような婚約打診のお手紙が届く。
サリーが病弱だったときは見向きもしなかった、それどころか「頼りなくて結婚相手にはなりえない」とまで陰で笑っていた娘たちだ。みんな、国王主催のパーティーでサリーに挨拶以外で声をかけてきたことがない。
それくらい軽視されていた。
なのにいきなり結婚しましょうなんて、手のひら返しもいいところ。
そんな折、グランスティング城で舞踏会が開催されることになった。
王子は三人とも出席する。
国内外の王侯貴族も招かれて、会場はきらびやかなタキシードやドレスを着たものたちでいっぱいになる。
サリーのそばには護衛であるアルティナも控えている。騎士としての職務のためにここにいるので、いつもと変わらず鎧と剣を装備する。
「アルティナはあんな風にドレスを着たいと思ったことはないかい?」
「いえ。私は騎士なので。舞踏会より武闘会に出たいです」
髪の先まで筋肉でできていそうな発言をさらりとする。それがアルティナだ。
私もきれいなドレスで踊りたい、なんて天変地異が起きても言いそうにない。
「騎士団長には、剣を振る方が楽しいなんて女として終わってるって言われましたよ。あはは」
「アルティナはそのままでいいよ。騎士の格好がとても似合っている」
「ありがとうございます。最高の褒め言葉です」
騎士になることを夢見て田舎から出てきた娘だ。一年王城にいても一切貴族の令嬢たちの考えに染まらずにいる。
舞踏会の開会前に、主催として国王が挨拶をする。
「今回この会を開いたのはほかでもない。長子のサリーが見初めた人をみなに知らせたいと言うのでな」
国王の視線がサリーの方に向き、会場に集まっていた貴族がざわめく。これまで後継者として立つことすら危ぶまれていた王子が、未来の王妃になるかもしれない人を決めた。その事実に緊張が走った。
一部の令嬢からは甲高い悲鳴があがる。「きっとわたくしに違いないわ!」なんて声がそこかしこからする。
グランスティング王国は一夫一妻制なので、そんなに何人も婚約者候補がいるわけがないのだが。夢見るお年頃なのだ。
アルティナも、一年サリーのそばに仕えていてそんな話を初めて聞いたので、驚いている。
サリーは令嬢たちには目もくれず、隣に立つアルティナに手を差し出した。
「アルティナ。生涯を共に歩めるのはきみしかいない。主人と護衛ではなく、パートナーとしてそばにいてくれないか」
サリー、一世一代のプロポーズだ。
なんであんなゴ・リラが! という声があたりから聞こえるが、みんなアルティナの良さを知らないのだとサリーは怒鳴りたい気持ちになった。
いつも勇ましくサリーを守っているアルティナだが、予想外のことを言われて動転した。
「もしかしてそうなると私はもう騎士をできなくなるんですか!? 一生サリー様をお守りするつもりでいましたのに。そんな……」
「ショックを受けるところがそこなんだね。大丈夫。結婚した後も騎士でいていい。言っただろう。アルティナにはその格好がとても似合う」
騎士で王族の妻なんて前代未聞だ。はなからサリーの好きな相手を知っていた王と王妃、弟たちは拍手をするが、貴族の娘たちは阿鼻叫喚。
「なんでわたくしじゃなくてゴ・リラなんですの!?」
「わたしのほうがぜったい頭もいいし美しいのに!」
とまあ、すごい声が飛び交っている。
結婚後もそばにいて騎士をしていていいと言われたら、もう断る選択肢なんてなかった。
アルティナも聡明で努力家のサリーを素晴らしい人だと尊敬していたのだ。
「よろしくお願いします、サリー様」
「ああ。よろしく、アルティナ。次は舞踏会でなく、きみの好きな武闘会でも開こうか」
「ぜひ!」
グランスティング王国初の女騎士・アルティナがサリーの伴侶となったことで、「男はたくましく、女はつつましくあれ」という風潮は変わりつつある。
機知に富んだ男性がいてもいいし、先陣を切って戦う女性がいたっていい。
数年後、サリーが玉座を継いでからもアルティナは騎士の訓練を怠らずにいた。
ドレスでいる時間より、鎧を着ている時間の方が長い。
田舎育ちの騎士と王子がなぜ結婚に至ったのか。なれそめを聞かれたら、サリーとアルティナは決まって答える。
「筋肉を鍛えた結果です」
おしまい
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