ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 秋も深まった頃、ネリスさんの言ったとおりファクターが来た。冬籠りのため、海ヒツジが引く荷車はいつもよりも大荷物だ。
 ファクターは村長宅で二時間ほど話し込んだ後、露店を出すために広場に荷物を広げはじめた。

 ノートを買いたいから、ミミと一緒に挨拶しに行く。黒い翼がパタパタしている背中に呼びかける。

「おっすファクター! 村長からあの話聞いただろ。やってくれるか?」
「やぁキムラン。自分の店を持てるなんて嬉しいけどさ、オイラでいいのかな?」

 ファクターは嬉しさ半分戸惑い半分、複雑そうな顔をしている。

「いいに決まってんじゃん。『村で最初の商店を開くなら、店長はファクター以外に考えられない』って、村人全員の満場一致だったんだよ。なあミミ」
「うむ。ファクターのみせ、いつもあるとうれしい」
「あはは。そう言ってくれると嬉しいなぁ。オイラもそろそろ、一か所に落ち着いて暮らしてもいいのかもしれない」

 空を見上げながら、しみじみと言う。
 オレよりも先に流されてきて、何年も旅ぐらししていたと聞いている。ファクターの胸の中は、いま色んな気持ちがぐるぐるとまわっているように思えた。

「そうだ。ファクター、日記帳ってないかな。あとペンとインク」
「あるよ。お得意様だから安くしとくよ〜」
「あ、定価でいいよ。値引きなんてしたらファクターの実入りが減るじゃん」

 きちんと定価でお支払して、ハードカバーのかっこいい日記帳と羽ペン、ガラス壺のインクセットをゲットした。
 これまで食べ物と下着くらいしか買わなかったからか、意外そうに聞かれる。

「キムランは日記をつけることにしたのか?」
「ああ。フォトつきで村のこと書こうと思う。ファクター、あとで村のみんなと一緒に集合写真撮リたいから、ファクターも来てくれよな」
「オイラも一緒?」
「そう。今年からずっと、毎年撮りたいな」

 ばあちゃんが二十歳の頃からずっと、毎年の誕生日に撮っていたアルバムを見せてもらったことがある。
 結婚してじいちゃんが隣にいる一枚、赤ちゃんの伯母さんと親父が増えた写真、親父たちが小学生になった写真。
 家族の成長記録にもなっていて、子供ながらに感激したんだ。
 伯母さんと親父が大人になったあとの写真には、赤ちゃんのオレや従姉も登場している。

 そんな風に、この村の今日を残しておきたい。
 来年、再来年、10年後、20年後。

 20年後なんて、ミミが誰かと結婚して本当のお母さんになっているんだろうなぁ。そんな日が来たら息子《オレ》、嬉しくて泣いちゃうよ。


 ファクターの店が一段落してから、村人みんなで広場に集まって写真を撮った。
 それから村長にカメラマンを頼んで、ミミ母さんちの家族写真。オレとミミ、ポチとシロ。

 家に帰って、さっそく日記帳とペンを使う。
 最初のページには自己紹介と、ここに来たときのことを記す。


 ☓☓↑☆(ウエストワースの年号)
 オレは木村セイヤ。27歳の日本人だ。
 令和2年まで、キムランって名前でユーチューバーをやっていた。
 風呂に入っていたらこの異世界に転移しちゃって、今はサイハテ村の一員として暮らしている。

 いきなり流されて、右も左もわからない中、村に住む女の子ミミに拾われたんだ。
 キムランのお母さんになるって言われたときには驚いたけれど、本当にお母さんらしい子で頼もしい。
 料理上手で、スライムのステーキを作っておもてなししてくれた。(最初はメチャメチャびびった)
 
 ネコのモンスターを手なづけてオレの弟にしちゃうし、オレはミニドラゴンを拾ってママになっちゃうし。
 この世界にいると本当に面白いことだらけで飽きない。



 転移して2日目、スライムにボロ負けしたことはオレの名誉のために書かずにおこうか……しかし記録というのは正しく書いてこそ……。悩ましい。

 日記帳を前にうんうん唸っていると、ミミがおたま片手にオレを呼ぶ。

「キムラン、ごはんできた」
「わー、ありがとうミミ。いいにおいがするな」

 今日の夕飯も、ミミ母さんが腕によりをかけた逸品のようだ。魚ベースの薫りが食欲をそそる。

「今いくよ、ミミ」

 インクがまだ乾かないから、風でめくれてしまわないよう重しを乗せてペンとインクを片付ける。
 インクが乾いたら今日撮った写真を貼ろう。
 みんながいい笑顔で映っていて、本当に後世に残したい一枚だ。

 日記のタイトルはそうだな。みんなにキムランは常に何か食っていると言われるから、
【ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ】とでも名付けるか。



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