ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 シロを自作抱っこひもで抱え、ミミと一緒にユーイさん家を訪問した。
 開口一番にユーイさんが言った。

「あら、この子が例の」
「オレまだ何も説明していないのに」
「兄さんが教えてくれたわ。キムランがママになったって」
「その言い方ヤメテェ!」

 どうりでここまで来る道中、アニィたちにキムランママって呼ばれるわけだ。
 このぶんだとすでに村人全員に『キムランはミニドラゴンのママ』って話が伝わっている。
 レイたちに宿のスライムステーキを奢ってもらわないと割に合わん。

「言い方を変えてもドラゴンの親になった事実は変わらないんだから、諦めなさいな」
「うむ。そしてわたしはおばあちゃん」
「そうねぇ。ミミはキムランの保護者だもの。キムランの子ならミミの孫」

 ユーイさんは面白がってミミの発言を肯定する。オレ、泣いちゃうよ。
 気を取り直して会いに来た目的を話す。

「ユーイさん、ミニドラゴンの生態について知っていることがあれば教えて欲しいんだ。ユーイさんはたくさん本を読んでいるし、何か知らないかな」
「宿の特製ブレッドケーキのセットで手を打ちましょう」
「……おごります」

 世の中は等価交換である。知識の提供にも相応の対価が必要、って【ハガレソ】で言ってたよ。ハハッ。

 リビングに場所を移して、ユーイさんが分厚くて古びた本を持ってきた。
 ワインの味がするハーブティーと、お茶請けにアケビのような果実を出してくれた。形はラグビーボール、色はピンク×紫のグラデーション。

「これ何?」
「モリベリー。かわも、たねも、たべられる」
「へー。これが」

 割ってみると、たしかに中身はモリベリー。厚くてやわらかい皮のなかに粒がたくさん入っている。ひと粒食べると甘酸っぱくて美味。
 料理せずとも、素材のままでかなり美味しい。

「きゅぴい」
「シロもたべたいといってる」
「え、ドラゴンって肉食じゃないの?」

 ミミの翻訳どおりなら、シロは肉も果物もイケるクチ。

「この種のドラゴンは雑食よ」
「へー、世界って広いなぁ」
「ちなみに文献によると、ポチと同じくらいまで大きくなるらしいわ」
「ドラゴンなのに割と小型」

 競走馬サイズなら良かった。レクサスサイズ(大木並み)になられたら抱っこできないなぁ。
 ユーイさんが引き続き本を読み上げる。

「空を飛ぶことができて、飛行速度はノーシスまでなら半日で往復できるほど……と書かれているわ。実際に飼い慣らした人がいないから、推測の域を出ないみたい」
「え、飼いならせないの?」
「自分より強いと認めた相手にしか服従しない性質を持ち、その気性は獰猛。手練の魔法使いでも手を焼くほどである」
「きゅーぴぃ」

 マヨネーズのパッケージにいる全裸のやつだねー。
 声に出さず脳内ツッコミ。この世界の人に、某マヨネーズはわからないから。

「獰猛って、こいつが?」
「ぴー?」

 口のまわりを果汁まみれにしながらモリベリーを食べている、このシロが獰猛とな。暴れ回るどころか、テーブルの上にどっかり座っている。

「シロは孵化するとき、キムランの顔を見たんでしょ。|親《キムラン》の行動を模倣しているんじゃないかしら。小鳥が母鳥のあとをついて回るようなものよね」
「……つまり、シロが凶暴になるか大人しい子に育つかはオレ次第ってこと?」
「そういうことね。がんばんなさいな、ママ」

 ポンと本を閉じて、ユーイさんはモリベリーを食べはじめる。

 オレはたしかにゲーム実況ユーチューバーだけど、基本やるのはRPGか、どうぶつの堀みたいな町づくりゲーム。
 ポケモ○でモンスターにキャンディをあげるモードがあったけれど、あれはパラメータ調整のオマケ要素。
 育成ゲームは専門外なんだよ……!!
 リアルで未婚だから、赤子に食事をやるタイミングやらトイレのしつけもなにもわからん。

 
 みんなの力を借りて、試行錯誤しながらやっていくしかなさそうだ。


image
62/66ページ