ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 ラビィを連れて会いに行くと、村長は珍しく酔っていなかった。例によってハメを外しすぎて酔いどれてるのかと思った。
 明日は雪が降るかな。

「ほうほう、村の医者になってくれるのか。そいつぁいいナ。医院の建設をしないとな」

 レクサスのリブロース丸焼きを食いながら、二つ返事でラビィの移住を許可した。

「完成するまでは……そうだな。宿の一室を仮の診療所にしヨウ。オリビアとナルシェに話しておかないと」
「そんなに良くしてもらっていいのかい。助かるよ」
「こっちこそ助かるぜ。ありがとうよ、ラビィ。うちの村に医者はいないし、治癒魔法の使い手もいない。手遅れになることも多かったからナ。これもアマツカミのお導きかもしれんな」
「ふふふ。そこまで言われると照れるじゃなぃか」

 ラビィがぴょんこぴょんことはねて喜びをあらわにする。
 うさぎの獣人ってみんなこんなふうなのかな、ウサ耳と尻尾がよく動いている。毛がふかふかしていて気持ちよさそう。

 ミミはおとなしく二人のやり取りを見ていた。と思ったら、ラビィの揺れる耳に両手を伸ばし……。
 
「ミミ。だめ。気持ちはわかるけど掴んじゃだめ」
「なぜだ。ふかふかもふもふなのに」
「たぶんすごく痛いから」

 オレも小さい頃、近所で見かけた子猫を掴んでばあちゃんにすごく怒られた。
 子猫はとても弱いんだから、強い力で触ったら傷つけてしまうって。

 子猫とは違うけれど、ミミよりも小さな獣人さんだから、気をつけないと。

 ラビィにもきちんと聞こえていたらしい。
 オレたちの方を向いてうなずく。

「そうさ。あちきたち獣人は、とても神経が過敏だ。人間にとってはたいした力でなくても、あちきたちにはとても痛いというのはよくある。だから軽率に掴んでくれるなよぅ」
「むぅ……ごめんなさい」

 しょぼくれるミミの頭にもふもふの手がポンと乗せられる。

「わかってくれればいいのさ。それより、時間があるならこの村を案内してくれないかい。初めてくるから何もわからなくてね」
「あ、それなら適任がいるから連れてくるよ」

 祭の間案内人を務める子どもたち。誰か一人くらい手が空いていると思う。
 ちょうどアニダとトトゥが、カノムモーゲン片手にやってきた。

「どうしたんだ、こんなとこに集まって」 
「なんか新しいことはじめるの?」
「アニダ、トトゥ。この人はお医者さんのラビィ。今度から村に移住してくれるんだって。村をひととおり案内してくれるか」
「ほんと!? やったー!」

 兄弟は急いでカノムモーゲンを平らげると、ラビィを間にはさむ形で手を繋いで走り出す。

「ラビィ先生、行こう。こっちがおれたちの家で、あっちが……」
「あとドロシーばあちゃんにもあいさつしないとね!」
「そ、そんなに急がないでおくれよぅ」

 兄弟に任せておけば大丈夫だ。
 

「ふー、食った食った。俺はオリビアとナルシェにラビィのことを伝えてくル」
「オレとミミはどうしましょう」
「うーん、一度にあれもこれもできるわけじゃないからな。今日のところは祭を楽しんで、明日は祭の片付けをしたあとみんなでラビィの歓迎会をしよう」
「はい」

 そんなわけで、オレとミミは再び祭に繰り出す。

 カノムモーゲンをゲットしたあとは、一座の雑技を堪能してリンリンにもあいさつする。
 みんなが準備するところを一から見ていたから、全部の屋台をまわった。
 野菜も買って両手に袋を抱える。

 日本にいた頃でも、ここまで祭を楽しみ尽くしたことはない。
 シメに、村長が食べていた肉と同じのを買って、かぶりつきながら帰路につく。


「明日は歓迎会をするのかぁ。せっかくだし、ラビィの好きそうなもの作るか」
「うむ。ラビィ、ニンジャたくさんたべてた。ニンジャでごはんつくる」
「いいな、それ! ニンジャ尽くし」
「てつだえキムラン」
「もちろんだとも」

 帰る道すがらミミと話し、明日にそなえて眠りにつくことにした。
 歓迎会、ラビィが喜んでくれるといいな。



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