ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 カズタカさんともう一人、テルマエ宿を作るのに貢献してくれたアントニウスさん。

 アントニウスさんはテルマエと食事を堪能して、とても喜んでくれた。
 これまでこの国では、お風呂って陽の目を見ていなかったから。見知らぬ異文化を受け入れるってなかなか時間がかかることだから。

「ありがとう、キムランさん、サイハテのみなさん。生きているうちにテルマエ宿の支店を出せる日が来るなんて夢のようさ。何度でもお礼を言わせてほしい」
「こちらこそありがとう。サイハテにテルマエを作れたのは、アントニウスさんが協力してくれたからだよ」
「これからも兄弟店としてよろしく。うちにも、いつでも泊まりに来てほしいね」

 アントニウスさんは村人みんなにお礼を言って、羊車で帰っていった。


 村長は宿屋が大盛況でにやけっぱなし。

「ふふふ〜。宿ができたら次なる計画ダナ。店を出し、祭を開いて観光客を呼ブ」
「ならあたしたちもなんかしたいよ! ナルシェばっかお仕事できてずるい!」
「なーに言ってやがる、せめてアーティファクト収集に行けるくらいになってからイエ」

 村の子どもたちが村長に訴える。
 ちなみに村の子どもは、年上の子から順に
 12才のラン、10才のナルシェ、8才の男の子アニダ、そのひとつ下の弟トトゥ。
 そして最年少のミミ5才だ。

 ナルシェが若くして宿屋の料理長なのは、料理の腕と……オリビアさんを止められるのは身内のナルシェくらいだからである。

 ランのお願いを軽くいなされて、アニダとトトゥも怒る。

「なんだよケチー!」
「しごとくれよケチー!」
「あー、あー、ケチじゃなくて、力のいる仕事や難しい仕事は子どもにゃできねぇだロ。キムラン。俺は祭の準備があるからあとは任せタ」
「え、オレ?」

 逃げた。息子がいるのに小さい子どもの相手はあんまり得意ではないらしい。
 三人が一斉にオレの方を向く。

「キムランまであたしたちが約立たずなんていわないよね!」
「言わない言わない。オレも子どものときなにかしたかったからな」

 子どもたちを見て、できそうなことを考える。ランは子どもの中でも年長だから統率力がある。ランが指示を出せばアニダとトトゥは言うことを聞く。連携プレーが得意である。

「観光ガイドなんてどうだ。みんなオレより長くこの村にいるから、お客さんが来たときどこが景色を見るのにおすすめの場所だとか、ここは危ないから行っちゃだめとかわかるだろ。ランたちが頼りなんだ」

「よくわかんないけど、お客さん案内するの、ガイドっていうのか」
「いいなそれ! おれ、いいひるねの場所あんないする!」

 よかったよかった。どうやら乗り気になってくれている。
 サイハテのような場所は、大人の目線だとどうしても、何もない面白みのない場所に見える。
 毎日遊び回っている子どもの目線だからこそ、新しい発見があるというもの。

 三人はスキップしながら、観光ルートを決めよう、と走り出す。
 オレは結果報告のため、村長宅にお邪魔する。
 
 村長はカズタカさんと二人でティータイム中だった。
 わー、祭の準備で忙しいって言ってたくせに、のんびり茶を飲んでるよこの人。

「というわけで村長〜。祭のときは三人にガイドを頼むことに決まったよ」
「おー、わかっタ。キムランは子どもを丸め込むのがうまいなあ。立派な詐欺師になれるぞ」
「ひでえ」

 オレたちのやり取りを見ていたカズタカさんは、クックッと喉を鳴らして笑う。

「子どもにガイドを頼むとは、考えたな、キムラ殿。大人がガイドすると利権が絡む、堅苦しくてつまらないものになってしまいがちだ」
「ははは。それで、カズタカさんは? 村長と祭の準備について話し合い……ってわけじゃなさそうだけど」
「初代村長のことを聞きに来たんだ。もしかしたら我が家のような、直系の子孫がいるかもしれないから」
「なるほど」

 やっぱり、もしここにいるなら会ってみたいよな。自分と起源を同じくする人。シノミヤ家とは違う形で何か伝わっているかもしれない。

 奥さんがオレの分のお茶を出してくれたから、一緒に話を聞くことにした。

 村長は腕組みして切り出す。

「サイハテの初代村長は、トモキという。トモキ村長の意向で、その家の長男にはトモキという名前をつけてきた。亡くなったとき子どもが名前を継ぐように。兄と生き別れになってしまったそうで、いつか兄や兄の子が会いに来たらすぐわかるようにってことらしい」
「あれ。でもオレが初めてここに来てあいさつ回りしたとき、そんな名前の人と会わなかったよ?」

 何ヶ月もここで暮らしているけれど、いまだトモキさんに出会っていない。この村の住人のはずなのに。
 その答えはすぐにわかった。

「ミミの親父がそうだったのサ。ミミは女の子だからな。弟がいたなら、その子がトモキになっていただろうし、ミミが大人になって子どもが男の子だったなら、トモキという名になる」
「えええええっ」

 子々孫々で血が薄まったせいで日本人の色を持っていないけれど、ミミの遠い遠いご先祖様は日本人だったのか。
 意外すぎるほど身近にいたんだ。

「ん? キムランはミミから聞いてなかったのカ」
「村に来た初日に『先月死んだ』って聞いたきりだよ。ミミが思い出して辛くなると思って、それ以上聞かなかった」
「賢明な判断だな」

 カズタカさんが同意してくれる。

「ふふふ。それにしても、とっくに弟君の子孫に出会っていたなんてな。面白いものだ」

 ミミは年齢から言って、ご先祖様の話を知らないだろう。それでも、確かに四ノ宮の血は息づいているのだ。


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