ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜
秋になり、サイハテ村初の宿が完成した。
完成したら最初に泊まってもらうと決めていた、大工の皆さん、アントニウスさん、そしてカズタカさん。
「ほう。ここがサイハテか。話に聞いていたとおり、ひなびているな」
羊車の客車から降りてそうそうに、カズタカさんは言った。
大都市ノーシスに比べたら、ここは確かになんにもないど田舎だもんね。
歯に衣着せない正直な感想に、村長のこめかみがピクリとした。
「ふふん。サイハテはこれからどんどん発展していくからな。次に来たときにゃそんな事言えないくらいにギヤなところになっている」
「魔法具を出資した身として、そうなってもらわなければ困る」
「まーまー、村長もカズタカさんもそんな怖い顔しないで。笑顔笑顔! オレの故郷では、『笑う門には福来たる』って言うんだ。笑顔が大事だよー」
せっかくの完成祝いでピリピリバチバチは勘弁してくれ。オレはユーチューバーやっていて鍛えたスマイルで二人の肩を叩く。
客車からもう一人降りてきて、オレに同意してくれる。
「そうだよ〜。笑顔はダイジ。私も宿の主やっていていつも思うよ。怖い顔をしていたらお客様は安心して休めない」
「おう、すまねぇなアントニウス。つい熱くなっちまった」
頭をかいて、村長は謝る。村長の奥さんもそっとフォローに入る。
「うちの人は言い方がきついところがあって。ごめんなさいね、お気を悪くされたでしょう」
「お、おいネリス。そりゃねえだろう」
奥さんに頭が上がらないんだなぁ。オレは口に手を当てて笑いを隠す。
「そんなことはいい。早く案内してくれないか。こちらは長旅で疲れているんだ」
「それならオレにお任せを。こちらです」
お客様二人の先導をして、オレは村の奥に作られた宿へ向かった。
宿の前ではオリビアさんとナルシェが待っていた。
「いらっしゃいませ、カズタカ様、アントニウス様。わたしは宿の主を務めることになりました、オリビアと申します。どうぞゆっくりしていってくださいね」
「僕は料理番を任されています。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を交わしたら、次は宿内の案内だ。
客室と食堂、テルマエの場所を伝え、休んでもらう。
カズタカさんとアントニウスさんがそれぞれ用意された客室に入り、大工のみんなも宿にやってきた。
「同じ村の中でも家とは違うところに泊まると、小旅行みたいで楽しいもんだな」と言葉をかわしあう。
「食事はこれから作りますので、先にテルマエを楽しんでください」
「おお! テルマエの足場を作るのは儂がやったんだ。一番乗りできるのが楽しみだ」
ビリーの師匠である大工トカクさんがアゴ髭をなでなで満足そうに笑う。ビリーなんて、「自分の作った家でオリビアさんにお世話されるなんて俺、超幸せ! 幸せすぎて死ぬ!」と小躍りしている。
みんなを案内したし、これでオレの役目は終了。
案内しかしていないのにどっと疲れた。
オリビアさんとナルシェのほうがよっぽどやることが多いし緊張するんだろうけれど、『村を発展させるために宿を作ろう!』と発案した人間として心配だ。
テルマエ付きの宿は気に入ってもらえるだろうか。
明日感想を聞くのが楽しみなような怖いような。そわそわしながら家に帰った。
「ただいま〜、ミミ」
「キムランおつかれ」
帰ると同時に、テーブルの上にドンと用意されるスープボウル。
湯気の立つオレンジ色のスープの中に、たくさん具が見え隠れ。
バターをたっぷり塗ったトーストも添えられている。
「すっげーいいニオイ! これなんて料理? 何が入っているんだ?」
「ふぃすくすっぱという。キバさかなと、ボールネギ、ニンジャ、イモ」
ようは魚と野菜のスープなのね。
1センチ角に細かくなった野菜の上には細いハーブが散りばめられている。
席についたらお祈りして実食!
スプーンですくい上げるとそれだけでハーブとバターの香りが鼻に通る。
「うま!! 魚の臭みを打ち消すこのハーブはなんだ。なんと美味いのだ。ラベンダー、いや、ローズマリー? ハーブのおかげで魚の香りが臭みではなく芳香に昇華されている。そしてこの柔らかな口当たり」
「キムラン、うるさい」
「ごめんなさい」
美味さのあまりに料理評論系ユーチューバーみたいなことを口走ってしまった。うるさくしないと決めていたのになぁ。ミミのメシが美味すぎるのがいけないんだ、きっとそうだ。
いい焼き加減のパンも2枚おかわりして満腹だ。
食後、食器を洗っているとナルシェがやってきた。
「キムランさん、ミミちゃんも。よかったらテルマエを使ってよ。お客様はもうみんな上がって食事をしているところだから」
「え、いいの!?」
「はい。キムランさんやミミちゃんにたくさん手伝ってもらったから、そのお礼です」
「やったーー! サンキュー、ナルシェ!」
「キムランうるさい」
村でテルマエに入れる日が来るなんて、テンション爆上がりだぜ。タオルを抱えて、いざテルマエ!
心ゆくまでテルマエを堪能して、両手足を伸ばして温まる。宿を作りたいって提案して良かったと心底思う。
こんなふうに、村に少しずつ楽しみが増えたらきっと賑やかなところになる。
そのうち服屋や雑貨屋ができて、ユーイさんが楽しみにしている本屋もできていくんだろう。
一度くらい日本に帰りたいって思ってもいいだろうに、オレは村のみんなと暮らす日々がとっても楽しい。帰る方法でなく、村をもっと賑やかにする方法を考えている。
日本にいる父さん母さん、薄情な息子でごめんよ。
アントニウスさんやファクターみたいに、この世界に居場所を見つけてしまったから、まだ当分帰れないや。
完成したら最初に泊まってもらうと決めていた、大工の皆さん、アントニウスさん、そしてカズタカさん。
「ほう。ここがサイハテか。話に聞いていたとおり、ひなびているな」
羊車の客車から降りてそうそうに、カズタカさんは言った。
大都市ノーシスに比べたら、ここは確かになんにもないど田舎だもんね。
歯に衣着せない正直な感想に、村長のこめかみがピクリとした。
「ふふん。サイハテはこれからどんどん発展していくからな。次に来たときにゃそんな事言えないくらいにギヤなところになっている」
「魔法具を出資した身として、そうなってもらわなければ困る」
「まーまー、村長もカズタカさんもそんな怖い顔しないで。笑顔笑顔! オレの故郷では、『笑う門には福来たる』って言うんだ。笑顔が大事だよー」
せっかくの完成祝いでピリピリバチバチは勘弁してくれ。オレはユーチューバーやっていて鍛えたスマイルで二人の肩を叩く。
客車からもう一人降りてきて、オレに同意してくれる。
「そうだよ〜。笑顔はダイジ。私も宿の主やっていていつも思うよ。怖い顔をしていたらお客様は安心して休めない」
「おう、すまねぇなアントニウス。つい熱くなっちまった」
頭をかいて、村長は謝る。村長の奥さんもそっとフォローに入る。
「うちの人は言い方がきついところがあって。ごめんなさいね、お気を悪くされたでしょう」
「お、おいネリス。そりゃねえだろう」
奥さんに頭が上がらないんだなぁ。オレは口に手を当てて笑いを隠す。
「そんなことはいい。早く案内してくれないか。こちらは長旅で疲れているんだ」
「それならオレにお任せを。こちらです」
お客様二人の先導をして、オレは村の奥に作られた宿へ向かった。
宿の前ではオリビアさんとナルシェが待っていた。
「いらっしゃいませ、カズタカ様、アントニウス様。わたしは宿の主を務めることになりました、オリビアと申します。どうぞゆっくりしていってくださいね」
「僕は料理番を任されています。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を交わしたら、次は宿内の案内だ。
客室と食堂、テルマエの場所を伝え、休んでもらう。
カズタカさんとアントニウスさんがそれぞれ用意された客室に入り、大工のみんなも宿にやってきた。
「同じ村の中でも家とは違うところに泊まると、小旅行みたいで楽しいもんだな」と言葉をかわしあう。
「食事はこれから作りますので、先にテルマエを楽しんでください」
「おお! テルマエの足場を作るのは儂がやったんだ。一番乗りできるのが楽しみだ」
ビリーの師匠である大工トカクさんがアゴ髭をなでなで満足そうに笑う。ビリーなんて、「自分の作った家でオリビアさんにお世話されるなんて俺、超幸せ! 幸せすぎて死ぬ!」と小躍りしている。
みんなを案内したし、これでオレの役目は終了。
案内しかしていないのにどっと疲れた。
オリビアさんとナルシェのほうがよっぽどやることが多いし緊張するんだろうけれど、『村を発展させるために宿を作ろう!』と発案した人間として心配だ。
テルマエ付きの宿は気に入ってもらえるだろうか。
明日感想を聞くのが楽しみなような怖いような。そわそわしながら家に帰った。
「ただいま〜、ミミ」
「キムランおつかれ」
帰ると同時に、テーブルの上にドンと用意されるスープボウル。
湯気の立つオレンジ色のスープの中に、たくさん具が見え隠れ。
バターをたっぷり塗ったトーストも添えられている。
「すっげーいいニオイ! これなんて料理? 何が入っているんだ?」
「ふぃすくすっぱという。キバさかなと、ボールネギ、ニンジャ、イモ」
ようは魚と野菜のスープなのね。
1センチ角に細かくなった野菜の上には細いハーブが散りばめられている。
席についたらお祈りして実食!
スプーンですくい上げるとそれだけでハーブとバターの香りが鼻に通る。
「うま!! 魚の臭みを打ち消すこのハーブはなんだ。なんと美味いのだ。ラベンダー、いや、ローズマリー? ハーブのおかげで魚の香りが臭みではなく芳香に昇華されている。そしてこの柔らかな口当たり」
「キムラン、うるさい」
「ごめんなさい」
美味さのあまりに料理評論系ユーチューバーみたいなことを口走ってしまった。うるさくしないと決めていたのになぁ。ミミのメシが美味すぎるのがいけないんだ、きっとそうだ。
いい焼き加減のパンも2枚おかわりして満腹だ。
食後、食器を洗っているとナルシェがやってきた。
「キムランさん、ミミちゃんも。よかったらテルマエを使ってよ。お客様はもうみんな上がって食事をしているところだから」
「え、いいの!?」
「はい。キムランさんやミミちゃんにたくさん手伝ってもらったから、そのお礼です」
「やったーー! サンキュー、ナルシェ!」
「キムランうるさい」
村でテルマエに入れる日が来るなんて、テンション爆上がりだぜ。タオルを抱えて、いざテルマエ!
心ゆくまでテルマエを堪能して、両手足を伸ばして温まる。宿を作りたいって提案して良かったと心底思う。
こんなふうに、村に少しずつ楽しみが増えたらきっと賑やかなところになる。
そのうち服屋や雑貨屋ができて、ユーイさんが楽しみにしている本屋もできていくんだろう。
一度くらい日本に帰りたいって思ってもいいだろうに、オレは村のみんなと暮らす日々がとっても楽しい。帰る方法でなく、村をもっと賑やかにする方法を考えている。
日本にいる父さん母さん、薄情な息子でごめんよ。
アントニウスさんやファクターみたいに、この世界に居場所を見つけてしまったから、まだ当分帰れないや。