ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 キムランさん発案の無限ジョウロを村の名産品にする、という試みは着実に進んでいる。
 第一弾の三十個は完売。今は第二弾を増産して、村にテルマエ付きの宿屋を作っているところ。
 その宿屋の主が姉さん。そして食事担当を任されたのが僕、ナルシェだ。

 この食事が村の印象を左右するんだから責任重大。
 そんなわけで、僕は今日も村の広場でノートを広げ、献立作りに頭を悩ませている。
 サイハテだからこそ食べられるものがいいと思うんだけど、食材確保の関係もあってメニューは日によって変わってしまう。

 外の町まで買いにいかないといけない食材をメインにしてしまうと経営を圧迫するし……。
 う〜ん。まともに料理をできない姉さんに相談なんてもってのほかだしなぁ。

「ナルシェ、なにしてる」
「あ、ミミちゃん。おはよう」

 ポチに乗ったミミちゃんがやってきた。
 ふかふかの背中から滑り降りると僕の前に陣取る。

「すーぷ、パン、にく……やどのごはんか」
「うん。参考にしたいから、印象に残っている食べ物があったら教えてほしいな」
「うまいごはん」

 ちょっと考えこんで、ミミちゃんは手をぽんと打って答える。

「昨日キムランがつくった、ぷでぃんぐみたいなやつ」
「プディングみたいなもの? プディングとは違うの?」
「うむ。あまくなかった。ぐだくさんで、おいしい」
「へぇ〜、キムランさんに聞いてみようかな」

 ミミちゃんの家に住んでいるキムランさんはナガレビトで、この世界のものではない料理や文化に詳しい。
 確かにキムランさんの知る料理なら他では食べられないし、村の名物料理にできるかも。
 身近なもので作れる料理ならいいな。

 農作業を終えたキムランさんが、汗をふきふきミミちゃんを迎えにくる。

「ミミ〜。昼ごはんはオレが作るぞ。何食べたい?」
「ぷでぃんぐみたいなやつ」
「え、茶碗蒸し? 昨日と同じでいいのか?」
「ナルシェもたべたいって」
「どゆこと」

 僕はノートを立てて、ミミちゃんに話したのと同じことを説明する。それから、キムランさんの故郷の料理を取り入れてみたいということも。

「茶碗蒸しは難しくないからかまわないけれどさ、オレはメニューにスライムステーキがあったら嬉しいな。ここに来て初めて食べたのがスライムステーキなんだ。スライム肉美味い。スライム肉をメニューに入れよう。な?」
「わかりました。スライムステーキなら、材料さえあれば一度にたくさん作りやすいし、お客様も満足してくれると思います」
「やっりぃー!!」

 よほどスライムステーキが好きなのかな。
 自分の食卓にのぼるわけではないのにキムランさんは子どもみたいにバンザイしている。

 ちょくちょくこういう行動するから、あんまり大人って感じがしないんだよね、キムランさんて。一つ二つ年上のお兄ちゃんみたいだ。
 

『せっかくだから実演する』と、キムランさんは屋外用の火魔法具をセットして蒸し器に井戸水を注ぐ。

 大きな器にコケトリスの卵を溶いて、乾したキバ魚の粉末と水を加え、滑らかになるまでかき混ぜる。

 隣町で買ってきた陶器のカップに液を注いで、化けきのこやコケトリスの肉を小さく切ったものを入れる。
 それを蒸気のあがってきた蒸し器に入れる。

「あとは蒸し上がるのを待つだけ」
「わぁ。コケトリスの卵なら森でよく採れるし、メニューに入れやすいですね」
「へへへ。そうだろ〜。よく母さんが作ってくれたんだ。卵をお出汁で溶いた液にキノコや魚のすり身、木の実なんかを好きに入れて蒸す。卵が固まったら完成。熱いうちに食べるのが美味いんだよ」
「そうなんですね」

 メモメモ。チャワンムシは好きな具を使う。
 季節ごとに食材を変えれば、夏以外はお客様の舌を楽しませてくれそうだ。
 できたものをさっそく三人で食べる。

 器が熱くなっているから、ミトンをつけて小ぶりのスプーンを差し込む。一口食べて感動した。

「おいしい!」
「フー、フー、うまうまうま、フー、フー、うまうま」

 ミミちゃん、キムランさんの分までもりもり食べている。
 
「最近涼しくなってきたし、茶碗蒸し良いだろ」
「ええ、とっても」

 帰ったら姉さんにも作ってあげよう。宿の経営について村長やドロシー先生と毎日話していて、疲れているだろうし。美味しいものを食べて元気になってほしいな。
 それから村の人たちにも一通り聞いてまわり、宿で提供するメニューが決まった。


 二月かけて建設が行われ、秋の終わり、ついに宿が完成した。
 
 建設でお世話になった村の大工さんと、テルマエ用の魔法具を作ってくれたカズタカさん、そしてテルマエの設計を教えてくれたアントニウスさんを招いて、宿の開業初日を迎えた。




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