ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 北へ向かう街道は、整備されていてきれいだ。
 ヴェヌスと北の都市ノーシスは交易が盛んだから、羊車や騎羊が通りやすいようされているのだとか。
 ていうか騎馬でなく騎羊なところがこの世界って感じ。
 歩きやすいのはいいことだ。オレたちの暮らすサイハテ村の周辺は足元ガッタガタ。
 ど田舎だから、お国から『僻地は整備する必要なし』って放置されていそうな気がする。

 途中何度か休憩をはさみながら歩き続けた。モンスターが出てもコトリさんが一撃で片付けたので安全も安全。オレとナルシェも剣を装備しているけど、出る幕がなかった。

 夕暮れ前に道から逸れた場所にある、旅人向けの屋根付き休息所で野営することになった。日本で言うならコテージがいくつかあるキャンプ場ってところか。
 最低限の雨風をしのげるカーポートみたいな感じ。

 カーポートもどきのうち数個には、旅人が休息していた。
 オレたちも空いているところに拠点を置く。
 扉がないから外から丸見え。モンスターが来たらすぐにわかる構造なんだ、コトリさんが教えてくれた。

 火魔法のミニコンロでミミがスープを作ってくれて、ヴェヌスで買ったパンを食べつつスープを飲む。

 輪になって座り、真ん中にはルースフローを置いている。ランタンみたいにポワンと白く光っていて、異世界の神秘を感じちゃうよ。

「あー、これこそまともな野営って感じだな。メシがうまい!」
「まともでない野営ってどんなのですか……」

 ナルシェが小さく笑う。
 オレがこの世界に来て早々、真っ裸で吹きっ晒しの森の中寝ていたなんて、知らないほうがいいだろう。ハッハッハ。オレとしてもあれは黒歴史だ。
 服を着ていてご飯がある。まともな野営とはこれだよこれ。

 日が落ちて、あとは寝るだけという時間帯、見張り番の役回りの相談をする。
 采配を振るうのはコトリさんだ。

「では、キムラン殿とナルシェ殿、私とユーイ殿の2組で交代で見張り番をしよう」
「むー。わたしのばんはないのか」

 見張り交代の役に自分が入っていなくて、ミミがほほをふくらませる。

「いいか〜、ミミ。ミミの役目はご飯を作ることだからな。代わりにオレたちはミミが安心して寝られるように見張り番をするんだ」
「そうか。わたしはごはんのやくめ」
「うん。だからミミは寝てていいよ。その分美味しい朝ごはんよろしく」
「まかせろ」

 ちっちゃくても、子ども扱いされるのは腹立つもんな。
 毛布をかけてやって、背中を撫でているとしばらくして寝息が聞こえてきた。
 見張りしたいと言ってもまだ5才。1日歩き通しで疲れきっているはずだ。
 みんなも優しい目で、そんなミミを見守っている。

「そういえばユーイさんは、なんでこの旅についてきてくれたんだ。コトリさんがいてくれるから危険は少ないけど、モンスターも出るし。無限ジョウロを商品化したいだけでそこまでできるのか?」
「あたしはね、あの村を町にしたいの。あそこは寂れているから、買い物ひとつまともにできないじゃない。知名度を上げて、食品店や雑貨屋、宿屋や本屋を誘致したいのよ。本屋でだめなら図書館ね。今のサイハテ村は過疎化の一途を辿っているからなんとかしたいの」
「たしかに、ヴェヌスまで行かないと買い物できないもんな」

 サイハテはいい村だけど、あまりにも小さな村だ。村の中では自給自足と物々交換で日々が成り立っている。
 食料が足りないなら森に入って採る。
 村の将来を憂うユーイさんに、ナルシェも同意する。

「仕事と呼べる仕事もないから、村を出てしまう人も多いんですよね。リンリンさんも旅の一座についていっちゃったでしょう……って、キムランさんは知らないですよね。リンリンさんっていうのは」
「あ、知ってる。前に蒸し器売りにヴェヌスに行ったとき会ったよ。旅の一座が来ていてさ。スライムで玉乗りしてた。すごいんだね、リンリンさんて」
「あの子、身体能力高いものね〜。天職だと思うわ」

 馴染みの友だちの話が出て、ユーイさんは懐かしそうに笑う。
 
「……羨ましいな。昔話をできる友がいるというのは。私は昔から剣術の修行に明け暮れて、友だちを作ろうなんてしてこなかった」

 寂しそうにつぶやくコトリさんに、ユーイさんは言う。

「ひどいなぁ、コトリ。あたしたちのことは友だちと思ってなかったの? あたしはもう同じ村の仲間で友だちだと思っていたけど。キムランのこともね」

 オレもナルシェも、手を上げて話に乗る。

「オレもオレも。コトリさんのこと友だちと思ってるよ。こうして野宿してるのだって、ふり返って語れる思い出じゃん」
「ぼくも。すごく頼りになるし、コトリさんのこと村の仲間として、尊敬してるよ」
「ユーイ殿、キムラン殿、ナルシェ殿……。そうだな。私たちは友だちだ」

 指先で目尻の涙を拭って、コトリさんは笑った。




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