ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 宴会の翌朝。
 今日も早よからレクサスが鳴く。
 そしてコトリさんが村で暮らし始めてからは、鍛錬に励む声も聞こえてくるようになった。

 ジョウロを持ち外に出ると、木の大剣を振るうコトリさんの姿が横目に映る。

「せい! はっ! とう! てや!」

 広場にはビリーとビリーの師匠が手作りした、訓練用の木偶人形20号(すでに過去の19体は壊れている)が据えられていて、コトリさんが20号に斬りかかっていた。
 
「コトリさんおはよー」
「おはよう、キムラン殿。精が出るな。ヤァ!!」

 バキ、ドシュ、ザシュ!
 挨拶している合間も20号に木の刀身が勢い良く食い込む。
 村の若手メンズが数人、挨拶もそこそこに、青い顔をして通り過ぎていく。明日は我が身。気持ちはわかるよ。
 コトリさんは袖で汗を拭い、爽やかに言う。

「そうだ。キムラン殿。前にミミが水魔法具を欲しがっていただろう。そのことで兄上から返事の手紙が来たんだ」
「お、もしかして用意できるのか!」
「………ああ。朝食のあと話を聞いてほしい。村長と、あとはジョウロ制作に携わったみんなを呼んでもらえないか」
「ん、わかった。みんなに声をかけておくよ」

 なんだか言いにくそうだ。
 村長とビリーとユーイさん、ミミにもそのことを話して、食後すぐドロシーばあちゃんの家に向かった。

 オレとミミが家に行くと、みんなはもう先に待っていた。
 ユーイさんのとなりの席が2つ空いていたからそこに滑り込む。

「待たせてごめん。それで、水魔法具のことはどうなったって?」
「ああ。家族だからといって甘やかすつもりはない。商売として申し込むならきちんと魔法具を必要としている当人を話し合いによこせ、と書かれている」
「あー、そりゃそうだよな。ってことはオレが行かないといけないか」

 妹さんづてに手紙を出して譲ってもらえないかな〜、と言ってホイとプレゼントしてくれるなんてむしのいい話あるわけない。
 なぜ必要なのか、どう利用するのか、いくら出せるのか。
 予算と用途の提示は売買で大事なことだ。

 ミミは首をかしげ、難しい顔をしている。

「むー。キムラン、どういうことだ? まほうぐ、もらえないのか」
「オレたちが直接コトリさんのお兄さんに会って、魔法具を売ってくださいってお願いしないといけないんだよ」
「それはとおいのか?」
「私の出身地はウェストワースの北にあるノーシスだ。ここの隣町のヴェヌスから羊車なら片道10日ほどかかる」

 片道でも最低10日かぁ。けっこうな長旅だ。村長はオレのセナカヲバシバシ叩く。

「俺ぁ別に構わねぇぜ。交渉に行くかどうか決めるのはキムランだ。金はこれまで稼いだ分でなんとかしろヨ」
「お、おう。蒸し器の売上げほとんど手を付けてないからなんとかなる……かな」

 魔法具を買えるほどの額かどうかは不明だが、足りないなら道中でバイトして稼ぐしかないだろう。
 オレがノーシスに行く方向で話がまとまったところで、ユーイさんが提案する。

「ねぇキムラン。せっかくならこれを村の目玉商品にしちゃえばいいんじゃない。ファクターが他の町で見たことがないって言っていたからチャンスだと思うの。なんならあたしも交渉に同行するわ。キムランは魔法具の知識ないんでしょ」
「お! やったー。オレまだウェストワース語うまくないから、来てくれると助かる」
「わたしもいく。キムランのおもりひつよう」

 ミミも手をあげて、行商メンバーが決定した。

 
 翌日の昼過ぎにファクターが村を発つ。
 オレたちもファクターと一緒に旅立つことにした。
 昨日決まって今日出発の強行軍なのに、ユーイさんはさくさく荷物をまとめてもう集合場所にいた。気が早い。
 コトリさんは村に来たときとそう変わらない旅装。
 オレも食料や毛布を縛って担いで準備オーケー。ミミは水筒だけ抱えている。(なんか持ちたいって駄々こねるから一番軽いやつを渡した)

 いざ出発、というところでリュックを背負ったナルシェが追いかけてきた。

「キムランさん。ぼくも連れて行ってください」
「ナルシェ。けっこうな旅になるけど大丈夫か?」

 ほぼ日帰りのモンスター討伐やアーティファクト収集とは訳が違う。野宿もあるだろう。
 ナルシェは心を決めた目で頷く。

「ええ。ぼくもあまり戦闘向きではないから、何か役に立てる方法はないかなって考えていたんです。キムランさんのように商品開発や、ファクターさんのような行商人。自分の見て勉強したいんです」
「そっか」

 見送りに来たオリビアさん、顔がぐしょぐしょになるほど泣いている。

「えぐ、えぐ。早く帰ってきてね、ナルシェくん。ハンカチ持った? 水筒は? お金は? ああ、大丈夫かしら。生きて帰ってこれるの? わたしもついていったほうがいいのかしら」
「ほんの一月ていどなのに、大げさだなぁ姉さん……」

 どっちが保護者かわからない。
 
「たのしみだなキムラン。ノーシスいくのはじめてだ」

 不安に押しつぶされそうなオリビアさんと反対に、期待に胸膨らませているのがミミだ。
 足取り軽くスキップスキップ。
 遠足にいく子みたいなノリで、見ていて自然と笑ってしまう。

「ああ。楽しみだな、ミミ。うまくいくといいな」

 ファクターの羊車がカロカロ音を立てて進む。
 こうしてオレたちは、水魔法具を求めて旅に出た。



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