ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 オレたちはカラカラの枝を収集して村に帰った。
 おまけに解体したレアレクサスの尻尾肉、それとマンドラゴラも持ち帰った。
 カラカラの枝は、いったん大工の作業場に保管しておく。

「さあってと。キムランお望みのジョーロとやらの制作着手する前に、肉とマンドラゴラを分けないとな」
「肉は俺が切り分けてやるよ」

 レイが刃のぶ厚いナイフを刺し、器用に骨を除いて小分けにしていく。
 レクサスはデカイからいいとして、問題はマンドラゴラだ。

「持ってきたはいいけど、マンドラゴラって料理できる人間が少ないんだよなー。毒抜きしないとだから」
「毒抜き!?」

 やはりというかなんというか、この世界でもこいつは毒持ちのモンスターなんだ。毒抜きすれば食えるって、まあフグみたいなもんか?

 村長の奥方、ネリスさんが笑顔でガラス鍋を取り出す。

「なら、マンドラゴラはうちで調理してから、各家に分けるってことでいいかしら?」
「おお、頼むゼ。ネリス」
「じゃあ集会所の火魔法台を使うわよ」

 ネリスさんがさっそくマンドラゴラを持っていく。
 そわそわと所在なさげにしていたコトリさんが、その背中に声をかける。

「ネ、ネリス殿。その、ええと、料理を……手伝っていいだろうか。生家にいたときやっていたから、マンドラゴラ処理の心得がある」
「ありがとう。助かるわ、コトリさん」

 ネリスさんに笑顔で言われて、コトリさんはホッと安堵の息をついた。二人が集会所の方に行き、レイと村長が肉の分配に行く。

 オレとビリーは作業場にこもって、さっそくジョウロ作りをはじめた。
 ビリーが手桶にカラカラの枝の切り口を当てて、墨をつけた筆で印をつけていく。

「へぇ〜! ものを作るときは設計図を書いてからするのかと思ってた」
「ったりまえだろ。この枝は1本1本太さが違うんだから、枝を使う時点で固定された数値なんてねーんだよ」
「それもそうか」

 手桶も手作りだから、固定サイズじゃない。工場の量産品とはわけが違うんだ。

「ほれ、見惚れてねーで印つけたとこ、これで穴を開けてくれ」
「はいよ!」

 ミノとトンカチで、印の位置を大まかに削り取る。
そこから補正していくビリー。接着剤だという樹液を接合部に塗ると、枝がピッタリはまり込む。

「おお、すげぇ!」
「そうだろスゲーだろ、キムラン! もっと俺を褒めていいんだぞ。オリビアさんに俺の良さを売り込んでくれ」
「う〜ん、そのブレないところ、ある意味すげぇ。オリビアさんに直接言えよ」
「ビリーさん素敵。とても助かりました、結婚してください、なーんて、なーんて! ふへへへへ!」

 ビリーが妄想の世界に旅立った。これがなけりゃイイ男なのにな……。夢見る乙女の表情をするビリーは、手元がお留守になっている。

「おー、キムランかえったか」

 ドゴ! と勢い良く作業場の扉が開かれた。ドアノブが妄想中のビリーの後頭部に直撃する。

「ミミ。ただいまー。ミミもジョウロ作りを手伝ってくれ。ほら、いいとこまでできてきてんだよ」
「よかろう」

 ミミが腕まくりしてオレの隣に座る。

「ところでビリーはどうした。おけをもったまんまヨダレたらしてる」
「どうしたんだろうねー。それよりちゃっちゃと削って接着剤塗ろう」
「おー」

 数分後にビリーが復活して、三人でジョウロの筒部分接着までやった。この接着剤は乾くまで半日かかるらしいから、今日できるのはここまでだ。

 気づけばだいぶ集中していたみたいで、もう夕方だ。コトリさんがポットを持って作業場に入ってくる。

「キムラン殿、ミミもここにいたか。君たちの家の分だ」
「おお、なんか芳ばしい匂い。何作ったんです?」
「このにおい、そんちょのオクサンが、まえにもつくってくれた。カンポーチャという」
「へー」

 カンポーってなんか保険の名前みたいだ。
 受け取って、ミミと顔を見合わせる。

「今飲んでみてもいいです?」
「ああ。熱いから気をつけてくれよ」
「はーい」

 作業場にあったカップを借りて、ミミとオレ、ビリーとコトリさんの分を注ぐ。なぜかミミは自分のコップをオレの方に押して寄こす。

「のめ、わたしのぶんものめ。キムラン」
「よくわかんないけど、そこまで言うならもらうわ〜。ズズッ。おおお……黒豆茶よりなお芳しく、独特な風味の残る飲み口。って、にっがーーーー!!」

 むせた。のどにくる苦味。なにこれマズ……いや、うん、うま……ま………。

「まずい」

 ビリーが言っちまった。

「すまない。マンドラゴラ茶とはそういうものだからな……。これは、魔封じをくらった魔法使いが飲むための薬膳茶なんだ。煎って水分を完全に飛ばし、香草とともに煮だす」

 コトリさんは申し訳なさそうに、自分の分のお茶に口をつける。ミミがオレにお茶を押し付けた理由がよくわかったよ。

「そっか、カンポー茶って漢方茶か! うん、良薬は口に苦しって言うもんな。道理で苦い」
「このお茶は疲労回復の効果もあるから、濃いめに淹れたんだ。キムラン殿は一番重たいものを運んだから、疲れていただろう」
「うん。ありがとな。気を遣ってくれて。めっちゃ元気出た」

 お茶だけでなく、余ったマンドラゴラで作ったという、マンドラゴラの蜜漬けもくれた。良い人。めっちゃ良い人……!
 これは喉の風邪に効くらしい。

「うむ。キムランはまいにち、よくさけぶからな。おちゃも、みつづけも、ちゃんと飲め」

 ミミのトドメが、疲れたハートに刺さった。 



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