ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜
今日も今日とて、目覚ましにしては物騒なレクサスの啼き声で起こされた。せめて目覚めはコケトリスの鳴き声であってほしいが、コケトリスは夜にしか鳴かないらしい。残念無念。
うんと背伸びして日課の水やりをする。
この世界に転移してきてけっこうな日数が経ったから、いいかげん慣れてきたけど……手桶に汲んだ井戸水をカップで撒くのってすごく効率悪いよなぁ。
「おはようございます、キムランさん。どうしたんです? さっきからじっと地面を見て手が止まっていますよ」
「おはようナルシェ」
お隣のナルシェも、畑の水やりに出てきた。同じように井戸水をたっぷり汲んだ桶をさげている。
「もっと楽に、広範囲に水を撒きたいなーと思って」
「な〜に言ってんだキムラン。大きな都市の農園をやっているようなところなら、雨魔法で広範囲の水やりをできるが、こんなド田舎にそんな便利魔法具あるわけないだろ」
ビリーが話に入ってきた。
「まじかよ魔法便利すぎぃ!」
大都市は魔法使いがたくさんいるから魔法文化が発達したんだとさ。
見渡す限りの広い農地を毎日手作業でなんて、人が何人いても手が足りるわけがない。だから魔法で広範囲に雨を降らせる。
この村は自給自足。自分たちが食べる分だけ作るから、庭先に手作業で水やり。
「とにかく、水撒きの農具があれば農作業が楽になるし、その分他に時間を使えると思うんだよな」
「それはそうですね。でも、雨魔法の水撒き魔法具はとんでもなく高価だって聞きますよ?」
「この農地だからそこまで大層なもんは必要ないんだよ。ジョウロくらいの……、そうだ、ジョウロを作ればいいんじゃん!」
思い立ったら即行動。
朝食後、ドロシーばあちゃんのところで板とチョークを借りて、イメージ図を描いた。
広場にある丸太テーブルに板を出して、ビリーに頼み込む。
「ジャーーン! ビリー。こういう道具を作って欲しいんだ。桶に細い筒をつけて、その先に細かい穴の開いた蓋をつけて、雨みたいに水が出てくる。オレの世界だとジョウロって呼ばれてた水やりの農具なんだけど」
これまで何人も異世界転移してきてるなら、都市部あたりにはとっくに存在してそうだけど。この村にはまだ無い。無いものは作ろう。ユーチューバーとして。
ビリーは俺の描いたイメージ図を片手に唸る。
「う〜ん。キムランのいた国にあったなら作れるってことだよな。手桶を本体に使うとして、筒の部分がな」
「俺が矢筒に使っているカラカラ木の、細めの枝なら使えるんじゃねぇか? この木は枝の中が空洞になってんだよ」
レイも横から覗き込んで提案してくれる。良い材料になりそうなものとわかっているようだが、ビリーは渋い顔だ。
「簡単に言うなよレイ。カラカラ木は森の最奥にしか生えてないんだぞ。レイの矢筒を作るのだって良い枝を採取するのに苦労したんだ」
「そんなに採りに行くのが難しい場所なのか? ん〜、なら他の材料で代用できないか。採取してきたオーパーツの中にパイプでもあれば」
森に慣れている村人に言われるなんてよっぽどだ。オレのワガママで無理をしないといけないなんてのも申し訳ないし、あり物でなんとか……。
膝を突き合わせて議論するも、オーパーツ倉庫の中にめぼしい代用品はなかった。森の奥地まで採りに行くか、諦めて桶にコップで頑張るか。
「つかぬことをうかがうが、貴殿たちはこの村の民だろうか」
ウンウン悩むオレたちに声をかけて来る人がいた。村の人間の、スキルを通した言語ではない。最低限のオレでもなんとか理解できるくらいのウェストワース語だ。
振り返ると、鎧に身を包んだ女性がいた。オレと同じくらいの年頃で、長い髪をポニーテールに結っている。
「そうだけど、どうしたんだい旅人さん。困りごとか?」
「私はコトリ。このあたりはウェストワースでも特に強いモンスターが多いと聞いてきた。しばらく剣術の修行のため身を置きたいんだが、宿はあるだろうか」
ビリーの質問に、コトリさんが凛々しく答える。
武者修行する流浪の女剣士!? なにそれすんごくカッコイイ!
「あいにくこの村に宿はないんだ。行商人が来るときは、うちに泊まってもらってるけど……俺がいるとお嬢さんは困らないかい」
若い男がいる家に居候するなんて、年頃の女性は躊躇するだろう。ビリーが言葉尻を濁した。
「住めるなら空き家でも何でもいいんだ。訳あって郷には帰れなくて」
コトリさんは何か武者修行の他に事情があるようだ。唯一の宿になりそうなところは男がいるからオススメできないと聞いても、言い募る。
そんなコトリさんに助け舟を出す人がいた。
ドロシーばあちゃんである。
「そんなに困っているのなら家に来な、お嬢さん」
「い、いいのか?」
「ああ。わしはドロシー。うちはばばあのひとり暮らしの家じゃ。若いおなごが喜ぶもんはなーんも用意できんがそれでも構わんかの」
「世話になるのに文句なんて言わない。恩に着る、ドロシー殿」
ようやく、くもっていたコトリさんの表情が晴れた。
こうして、村に新たな住人が増えたのである。
うんと背伸びして日課の水やりをする。
この世界に転移してきてけっこうな日数が経ったから、いいかげん慣れてきたけど……手桶に汲んだ井戸水をカップで撒くのってすごく効率悪いよなぁ。
「おはようございます、キムランさん。どうしたんです? さっきからじっと地面を見て手が止まっていますよ」
「おはようナルシェ」
お隣のナルシェも、畑の水やりに出てきた。同じように井戸水をたっぷり汲んだ桶をさげている。
「もっと楽に、広範囲に水を撒きたいなーと思って」
「な〜に言ってんだキムラン。大きな都市の農園をやっているようなところなら、雨魔法で広範囲の水やりをできるが、こんなド田舎にそんな便利魔法具あるわけないだろ」
ビリーが話に入ってきた。
「まじかよ魔法便利すぎぃ!」
大都市は魔法使いがたくさんいるから魔法文化が発達したんだとさ。
見渡す限りの広い農地を毎日手作業でなんて、人が何人いても手が足りるわけがない。だから魔法で広範囲に雨を降らせる。
この村は自給自足。自分たちが食べる分だけ作るから、庭先に手作業で水やり。
「とにかく、水撒きの農具があれば農作業が楽になるし、その分他に時間を使えると思うんだよな」
「それはそうですね。でも、雨魔法の水撒き魔法具はとんでもなく高価だって聞きますよ?」
「この農地だからそこまで大層なもんは必要ないんだよ。ジョウロくらいの……、そうだ、ジョウロを作ればいいんじゃん!」
思い立ったら即行動。
朝食後、ドロシーばあちゃんのところで板とチョークを借りて、イメージ図を描いた。
広場にある丸太テーブルに板を出して、ビリーに頼み込む。
「ジャーーン! ビリー。こういう道具を作って欲しいんだ。桶に細い筒をつけて、その先に細かい穴の開いた蓋をつけて、雨みたいに水が出てくる。オレの世界だとジョウロって呼ばれてた水やりの農具なんだけど」
これまで何人も異世界転移してきてるなら、都市部あたりにはとっくに存在してそうだけど。この村にはまだ無い。無いものは作ろう。ユーチューバーとして。
ビリーは俺の描いたイメージ図を片手に唸る。
「う〜ん。キムランのいた国にあったなら作れるってことだよな。手桶を本体に使うとして、筒の部分がな」
「俺が矢筒に使っているカラカラ木の、細めの枝なら使えるんじゃねぇか? この木は枝の中が空洞になってんだよ」
レイも横から覗き込んで提案してくれる。良い材料になりそうなものとわかっているようだが、ビリーは渋い顔だ。
「簡単に言うなよレイ。カラカラ木は森の最奥にしか生えてないんだぞ。レイの矢筒を作るのだって良い枝を採取するのに苦労したんだ」
「そんなに採りに行くのが難しい場所なのか? ん〜、なら他の材料で代用できないか。採取してきたオーパーツの中にパイプでもあれば」
森に慣れている村人に言われるなんてよっぽどだ。オレのワガママで無理をしないといけないなんてのも申し訳ないし、あり物でなんとか……。
膝を突き合わせて議論するも、オーパーツ倉庫の中にめぼしい代用品はなかった。森の奥地まで採りに行くか、諦めて桶にコップで頑張るか。
「つかぬことをうかがうが、貴殿たちはこの村の民だろうか」
ウンウン悩むオレたちに声をかけて来る人がいた。村の人間の、スキルを通した言語ではない。最低限のオレでもなんとか理解できるくらいのウェストワース語だ。
振り返ると、鎧に身を包んだ女性がいた。オレと同じくらいの年頃で、長い髪をポニーテールに結っている。
「そうだけど、どうしたんだい旅人さん。困りごとか?」
「私はコトリ。このあたりはウェストワースでも特に強いモンスターが多いと聞いてきた。しばらく剣術の修行のため身を置きたいんだが、宿はあるだろうか」
ビリーの質問に、コトリさんが凛々しく答える。
武者修行する流浪の女剣士!? なにそれすんごくカッコイイ!
「あいにくこの村に宿はないんだ。行商人が来るときは、うちに泊まってもらってるけど……俺がいるとお嬢さんは困らないかい」
若い男がいる家に居候するなんて、年頃の女性は躊躇するだろう。ビリーが言葉尻を濁した。
「住めるなら空き家でも何でもいいんだ。訳あって郷には帰れなくて」
コトリさんは何か武者修行の他に事情があるようだ。唯一の宿になりそうなところは男がいるからオススメできないと聞いても、言い募る。
そんなコトリさんに助け舟を出す人がいた。
ドロシーばあちゃんである。
「そんなに困っているのなら家に来な、お嬢さん」
「い、いいのか?」
「ああ。わしはドロシー。うちはばばあのひとり暮らしの家じゃ。若いおなごが喜ぶもんはなーんも用意できんがそれでも構わんかの」
「世話になるのに文句なんて言わない。恩に着る、ドロシー殿」
ようやく、くもっていたコトリさんの表情が晴れた。
こうして、村に新たな住人が増えたのである。