俺はいつでもソーシャルディスタンス

 四人以上での食事は慎んでください。
 ソーシャルディスタンスを保ちましょう。
 密集密接密閉三つの密を避けましょう。
 それが感染症対策だからと、毎日テレビが声高に叫ぶ。
 俺には無関係な話さ。ハハッ。

 いつでもひとりで佇む。
 友だちなんていやしない。
 連絡先なんて登録されていない。
 並んでくれる友だちが欲しかったよ。


 だって、俺は公衆電話。
 スマホが普及した今、俺を使うやつなんてほとんどいないのさ。
 今日俺に触れてくれたのは、腰の曲がったばあさん一人。もう日も暮れるし、このままずっとぼっちかな。

 午後六時を回った頃、男子高校生が電話ボックスに入ってきた。
 震える手で、大きな分厚い封筒を抱えている。
 俺にはられた使い方説明のシールをじっと読んで、受話器を取り、小銭を入れて、はやるきもちを抑えきれない様子で番号をプッシュする。

 三回目のコールで大人の女の声が家の名を応えた。

「母さん! ユウスケだよ。やったよ。俺、受かってた!」
「まぁ……!! 良かったね、本当に。あんたがんばったもんね。今日はごちそうにするから、早く帰ってきなさいね」
「ううん、母さんのおかげだよ。女手一つでここまで育ててくれて、本当に、ありがとう」

 高校生は泣きながら受話器を置いた。
 くっ。俺は電話だから涙なんて流せない。けど、心は泣いているんだぜ。
 これだから公衆電話はやめられない。

 いつだって一人ぼっちだけど、たまにこういういいこともある。
 ああ、今日はいい一日だったな。
 明日はどんな人と出会うんだろう。
  

END


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