没落令嬢アビーの未来開拓記 〜お父様が夜逃げしましたが、知恵とえんぴつで幸せになります〜

 元伯爵令嬢アビゲイルは森の中にいた。
 父が残ったお金を持って夜逃げして、家も財産も失ったので、野宿しているのだ。
 こんな状態になっても、幼少期から一緒のメイド、スーはついてきてくれた。
 スーと二人なので落ち込みもせず、野宿を満喫して二週間経っていた。
 趣味で狩りをしていたので、食料を得るのもお手の物。
 初日にコモンカウを仕留めて解体、日持ちするよう燻製にした。それをスーが料理してくれるので、食べ物に困っていなかった。
 飲み水になる川も近くにある。
 現在焚き火の明かりで、えんぴつと紙を手にいそいそと何か書いている。

「アビー様、なにをなさっているのです?」
「この生活をしたためるのよ。いいところのお嬢様が野良ぐらしに落ちるなんて、国民たちは興味津々のネタでしょう。だからこれを出版社に売り込むの。本になれば印税も入るし、スーと住むアパルトメントを借りられるでしょう」
「あぁ、うちのお嬢様がたくましすぎる……。スーめが一緒に来なくてもお嬢様は大丈夫だったのではないかと思ってしまいました」

 嘆くスーにアビゲイルは言った。

「そんなことなくてよ。わたくし狩りと計略の天才を自負してますけれど、それだけ。スーがいてくれないと生きていけません。一生ついてきてくれる?」

 まるでプロポーズのような台詞に、スーは笑顔になった。
 家が潰れたのでお給料がもらえるわけではない。けれど、アビゲイルといるのが生き甲斐だからここにいる。

「お嬢様が望んでくださるなら、いつまでもお供します」

 アビゲイルの予想通り、「家長が夜逃げして残された娘はメイドと二人きりで野宿していた」という手記に出版社は飛びつき、翻訳までされ国内外で人気を博すベストセラーとなった。

 ついでに、実名で本が出たせいで父親は針のむしろ。
 娘を捨てて一人で逃げたクズだと後ろ指をさされながら、ひもじい暮らしをすることになったらしい。

「うふふ。チェックメイトですわ、お父様」

 父はアビーとチェスをして勝ったことがない。ポーカーもブラックジャックも全敗していた。

 一躍人気のエッセイストとなったアビゲイルは、スーと一緒にアパルトメントで暮らしている。そして今日もオリジナリティーあふれる生活をつづっている。

 END



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