婚約者にベタぼれな僕に、自称乙女ゲームの主人公だという男爵庶子がすり寄ってきた
僕、ベリアル・サルディニには婚約者がいる。
クラウディア・クレイヴ伯爵令嬢、年齢は僕と同じ十七。
第三王子である僕の支えとなるようにと、父上様のはからいで婚約に至った。
クラウディアはとても素敵な女性だ。
まずは知性。日頃から読書を欠かさず、見識が深い。
僕がなにか質問するとすぐ的確な答えを返してくれる。まるで歩く図書館だ。
僕も頼ってもらえる男になりたくて、経営学を読むようになった。
二つ目は優しい心根。
学校がない日はクレイヴ領内にある孤児院に赴き、子どもたちに語学を教えている。
大人と違い遠慮なく物を言ってくれるから、領内で不足していることに気付けるのだという。
孤児院で暮らしている男の子が野の花を摘んできて「俺の嫁になれ」とプロポーズしているのを見たときには、大人気なくも横槍を入れてしまった。
侍女が食事を運んで来たりコートを持ってきたりするとき、いつも「ありがとう」と礼を言う。
仕えてもらえるのは当たり前ではないのだと気付かされた。
三つ目は愛らしい笑顔。
ふわふわしたピンクの髪を揺らして、空のような澄んだ青の瞳をやわらげて僕を見つめてくる。
兄上や貴族の子息たちは、やれ目つきが悪いだの悪人面だのと笑うが、目が腐っているんだろう。
可愛い、素敵だと思うままに褒めると照れて縮こまる。それがまた可愛い。
できたらひと目を気にせずクラウディアを抱きしめてキスの一つでもしたいものだが、まだ婚前だ。
こんな天使のようなかわいい子を穢してはならん。
クラウディアは僕のような華もない平凡な見た目の男と並んで嫌じゃないだろうか。
運動はあまり得意ではないようだが、運動オンチというのもかわいいだろう?
父の影響で乗馬は嗜むけど、自分の足で走るのは苦手なのだと恐縮している。
と、クラウディアの素敵なところをあげるときりがないし、あと三日は語っていられるが、最近困っていることがある。
今年になって、カロウ男爵の庶子だという少女が学院に入学してきた。僕と同じクラスだ。
ユカリという。
黒髪で小柄、体格は横に広い。
「ベリアル、勉強を教えて。あたし庶民育ちだからわからないことが多くて」
これが僕と出会ったときの第一声だ。
図書室で帝王学を読んでいたら、いきなり呼び捨てにしてきた。敬語を使う様子もない。
僕の名を呼んでいいのは家族と、婚約者であるクラウディアだけだ。
勉強なら男爵が家庭教師をつけているだろう。なぜこの子は僕に聞くんだ。
他にも生徒はいくらでもいるし、なんなら教師に聞くのが一番いいだろう。それを指摘してもすり寄ってくる。
「あたしは主人公なのに! なんで? ゲームのベリアルはやさしく教えてくれたのに!」
ゲームがなんなのかわからないが、勉強ができないだけではなく空気を読めないんだな。彼女の妄想の中で、僕は婚約者がいるのに他の女に手取り足取り勉強を教えるアホな男らしい。
不憫に思ったのか、図書室にいた新任教師ゲイルがユカリに勉強を教えてあげていた。
次の日にはところどころ焦げたクッキーらしきものを持ってきた。
「あたしの手作り、ベリアル様に食べてほしくて。レモンクッキーがお好きでしょ。どうぞ」
何が入っているかわからないものなんか口にできるわけがない。
レモンクッキーが好きなんていう身近な人間しか知らない超個人的な情報どこから仕入れた。城のメイドの中にスパイでもいるのか。
側近のディビットが毒見したら、いきなり頬を赤らめユカリをべた褒めしはじめた。
この女、魔女かなにかか?
食べ物を粗末にするのは気が引けるが処分した。
またある日には昼食の席に現れ、許可していないのに勝手に同席しはじめた。
「やっぱりゲームと同じね。ベリアル様学院の食堂舎では窓から遠い席に座るの」
スパイというよりストーカーか。正直気持ち悪い。
さらに、スカートを膝までたくし上げるという淑女にあるまじきことをしながら涙目で訴えてくる。
「階段でクラウディア様に突き飛ばされて怪我しちゃったんです。昨日は教科書を破かれたし、しくしく」
優しいクラウディアがそんなことするわけがない。
取り合わなかったら「なんで!? ゲームだと本当に突き飛ばされるし、信じてくれたのに!」と地団太踏んでいた。
ゲームだと本当に突き飛ばしたということは、実際は突き飛ばされていないということ。
何なんだろうこの妄想暴走女は。
「なら嫉妬イベントを起こすもん!」とわけのわからないことを言いながら、生徒会長ヨーゴのもとに走っていった。
ユカリがつきまとってくるせいで、クラウディアとの時間がなかなかとれない。
そのせいだろう、クラウディアは最近うつむきがちだ。
あの女に絆されるつもりはないし僕の一番はクラウディアだけだとハッキリ伝えた。
僕は決意した。
学園祭の社交パーティーで決着をつけようと。
クラウディア・クレイヴ伯爵令嬢、年齢は僕と同じ十七。
第三王子である僕の支えとなるようにと、父上様のはからいで婚約に至った。
クラウディアはとても素敵な女性だ。
まずは知性。日頃から読書を欠かさず、見識が深い。
僕がなにか質問するとすぐ的確な答えを返してくれる。まるで歩く図書館だ。
僕も頼ってもらえる男になりたくて、経営学を読むようになった。
二つ目は優しい心根。
学校がない日はクレイヴ領内にある孤児院に赴き、子どもたちに語学を教えている。
大人と違い遠慮なく物を言ってくれるから、領内で不足していることに気付けるのだという。
孤児院で暮らしている男の子が野の花を摘んできて「俺の嫁になれ」とプロポーズしているのを見たときには、大人気なくも横槍を入れてしまった。
侍女が食事を運んで来たりコートを持ってきたりするとき、いつも「ありがとう」と礼を言う。
仕えてもらえるのは当たり前ではないのだと気付かされた。
三つ目は愛らしい笑顔。
ふわふわしたピンクの髪を揺らして、空のような澄んだ青の瞳をやわらげて僕を見つめてくる。
兄上や貴族の子息たちは、やれ目つきが悪いだの悪人面だのと笑うが、目が腐っているんだろう。
可愛い、素敵だと思うままに褒めると照れて縮こまる。それがまた可愛い。
できたらひと目を気にせずクラウディアを抱きしめてキスの一つでもしたいものだが、まだ婚前だ。
こんな天使のようなかわいい子を穢してはならん。
クラウディアは僕のような華もない平凡な見た目の男と並んで嫌じゃないだろうか。
運動はあまり得意ではないようだが、運動オンチというのもかわいいだろう?
父の影響で乗馬は嗜むけど、自分の足で走るのは苦手なのだと恐縮している。
と、クラウディアの素敵なところをあげるときりがないし、あと三日は語っていられるが、最近困っていることがある。
今年になって、カロウ男爵の庶子だという少女が学院に入学してきた。僕と同じクラスだ。
ユカリという。
黒髪で小柄、体格は横に広い。
「ベリアル、勉強を教えて。あたし庶民育ちだからわからないことが多くて」
これが僕と出会ったときの第一声だ。
図書室で帝王学を読んでいたら、いきなり呼び捨てにしてきた。敬語を使う様子もない。
僕の名を呼んでいいのは家族と、婚約者であるクラウディアだけだ。
勉強なら男爵が家庭教師をつけているだろう。なぜこの子は僕に聞くんだ。
他にも生徒はいくらでもいるし、なんなら教師に聞くのが一番いいだろう。それを指摘してもすり寄ってくる。
「あたしは主人公なのに! なんで? ゲームのベリアルはやさしく教えてくれたのに!」
ゲームがなんなのかわからないが、勉強ができないだけではなく空気を読めないんだな。彼女の妄想の中で、僕は婚約者がいるのに他の女に手取り足取り勉強を教えるアホな男らしい。
不憫に思ったのか、図書室にいた新任教師ゲイルがユカリに勉強を教えてあげていた。
次の日にはところどころ焦げたクッキーらしきものを持ってきた。
「あたしの手作り、ベリアル様に食べてほしくて。レモンクッキーがお好きでしょ。どうぞ」
何が入っているかわからないものなんか口にできるわけがない。
レモンクッキーが好きなんていう身近な人間しか知らない超個人的な情報どこから仕入れた。城のメイドの中にスパイでもいるのか。
側近のディビットが毒見したら、いきなり頬を赤らめユカリをべた褒めしはじめた。
この女、魔女かなにかか?
食べ物を粗末にするのは気が引けるが処分した。
またある日には昼食の席に現れ、許可していないのに勝手に同席しはじめた。
「やっぱりゲームと同じね。ベリアル様学院の食堂舎では窓から遠い席に座るの」
スパイというよりストーカーか。正直気持ち悪い。
さらに、スカートを膝までたくし上げるという淑女にあるまじきことをしながら涙目で訴えてくる。
「階段でクラウディア様に突き飛ばされて怪我しちゃったんです。昨日は教科書を破かれたし、しくしく」
優しいクラウディアがそんなことするわけがない。
取り合わなかったら「なんで!? ゲームだと本当に突き飛ばされるし、信じてくれたのに!」と地団太踏んでいた。
ゲームだと本当に突き飛ばしたということは、実際は突き飛ばされていないということ。
何なんだろうこの妄想暴走女は。
「なら嫉妬イベントを起こすもん!」とわけのわからないことを言いながら、生徒会長ヨーゴのもとに走っていった。
ユカリがつきまとってくるせいで、クラウディアとの時間がなかなかとれない。
そのせいだろう、クラウディアは最近うつむきがちだ。
あの女に絆されるつもりはないし僕の一番はクラウディアだけだとハッキリ伝えた。
僕は決意した。
学園祭の社交パーティーで決着をつけようと。
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