一章 セツカと時の鎖

 目の前に優しそうなお兄さんがいた。
 栗色のくせ毛、空色の瞳のお兄さんだ。


「ここ、は? ぼく、は」

 ここはどこで、僕は、誰。
 なんで僕は、一人なの?
 僕の声は、数年ぶりに声を出したような、たどたどしくて、小さくて、かすれた声だった。

 お兄さんはひざまずくと、両手を伸ばして僕を抱き上げる。

「おいで、セツカ」

 そう言って、泣きそうな表情をくずし微笑んだ。
 どうして、そんなに悲しそうなんだろう。

      には笑顔が似合うのに。

「セツ、カ?」
「きみの名前だ。名前がないのは、寂しいだろう」

 僕はセツカというらしい。
 そして短い会話から、このお兄さんはとても優しくて、信頼できる人だということがわかる。
 ぽかぽかあたたかい、太陽の光のような人。

「俺はアーノルドだ。一緒に行こう、セツカ」
「ん」

 お兄さんーーアーノルドに手を引かれて、僕の時間は始まった。

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