夢を見た。
幼い頃の夢だった。
父親も母親も知らず、毎日全てのものに怯えながら生きていた頃の夢。
怖いものたちに恐れ、泣き叫びながら助けを求めても誰も助けてはくれない。
絶望し、恐怖で震えながら彼女は泣きながら目を覚ます。
生きていくために、真央霊術院を目指した。無事に入学し、ようやく衣食住を確保できても、彼女はその夢に苦しまされた。
強くなるために、護廷十三隊へ入隊した。十一番隊へ配属され、強さを夢中をなって追いかけた。大切な仲間もできた。毎日が楽しめるようになった。
けれど、その夢を見るたびに彼女は苦しまされた。
お前は弱い。
お前は幸せになれない。
お前を愛する者などいない。
頭の中でそんな声が聞こえた。
だが、ある日。彼女の夢にある男の子が現れた。
何度夢に見ても結末を変えることができなかった彼女を庇うようにその男の子は立ち塞がった。恐れることなく、怖いものへと立ち向かう。傷だらけになりながらも追い払った。
怖いものが何もなくなり、彼女と男の子だけになると振り返って笑った。その笑顔がまるで太陽のように眩しくて、あたたかくて、思わず涙が溢れた。
涙を流しながら目を覚ますことは今までと同じだった。だが、幸せな気持ちで目を覚ますのは初めてだった。
それからというもの、あの悪夢が彼女を苦しめることはなくなった。
しかし、今度は違う夢を見るようになった。
自分と同じように成長した男の子が今度は彼女を恐ろしい目に合わせる。
彼女が何を言っても彼は止めてはくれなかった。
彼女が泣けば、愉快そうに笑った。
あの時の太陽のような眩しさも、あたたかさも、どこにもなかった。
けれど、怖くはなかった。
しかし、「それは嘘だ」と言われてしまうだろう。
彼女の身体と声は震え、頬には涙が伝っていたから。
それでも、怖くはなかった。
彼にならば、壊れる程に求められたとしても怖くない。
例え壊れたとしても、優しい彼がきっとまた直してくれる。
だって彼は、暗闇で泣いていた自分の手を引っ張り、救い出してくれたのだから。
いつも、どんな時も自分を護ってくれている。そんな彼のことが何よりも一番大好きで、愛おしい。
彼を嫌う理由なんて、何処を探してもありはしない。
彼がどんな感情を持っていようが、彼が持っているのならばそれはすべて愛おしく感じてしまう。
だから、もう自分を責めないで欲しい。
もう何も怖がらないで欲しい。
──どうかあたしの想いが伝わりますように。
彼女はそう願いながら、彼の名を呼んだ。
続
【朝真暮偽】
真実とうその定めがたいこと。
朝と夕で真実とうそが入れかわる。