戦国BASARA
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
君の隣が僕だったら
ホームルームが終わり、大人しく席に座っていたみんなが一斉に騒ぎ出す。部活に向かったり、帰宅するために荷物を片付けたり、勉強するために図書室に向かったり、友達と談笑を始めたり。それぞれが自分の好きなことを始めた。俺も後ろの席の子と話すために、くるりと真後ろを振り返った。
「絃ちゃん」
「慶ちゃん、どうしたの?」
俺の後ろの席の女の子──絃は鞄に荷物を詰める手を止め、俺を見た。黒い瞳に俺が映る。それだけで俺は小躍りしたくなるほど嬉しくなってしまう。
「実はさ、絃ちゃんが前に『行きたい』って言ってたカフェのパフェ割引券をあるんだけどさ」
「うそ!」
「ほら」
ポケットから二枚の割引券を取り出し、絃の机の上に置いた。
「期限は今日まで! どうだい? 帰りに寄っていかない?」
「あー……ごめん。今日は無理なんだ」
申し訳なさそうにしている絃の目が俺から離れ、教室の扉に移る。視線の先に立っているのは、一人の男子生徒。
「ごめん、慶ちゃん。じゃあ、私帰るね! ばいばい、また明日!」
絃は残りの荷物を手早く片付け、鞄を肩から提げた。笑顔を向けて、俺へ手を振る絃へ俺もまた笑顔を向ける。小走りで絃が向かった先は、俺から絃の目を奪った男子生徒の元。ソイツは、絃が最近付き合い始めた彼氏さん。暫く廊下で談笑し、二人は仲良く手を繋いで帰って行った。その光景に胸が締め付けられる。
痛い。痛いよ、絃。
絃の机に置いた割引券をグジャと片手で丸め、スラックスのポケットへと深く突っ込む。
「はあ、」
教室の窓から校庭でサッカー部やら野球部が部活に励んでいる姿が見える。
「何で、上手くいかないのかね」
まだ、ざわざわと騒がしい教室にその声は掻き消された。また一つ溜め息を零し、瞼を閉じる。暗闇に絃の笑顔が浮かぶ。思い出すのは絃が嬉しそうに先程のアイツと付き合うことになったと俺へ報告してきた時の顔。とても嬉しそうで、とても幸せそうだった。
始めは絃が幸せならそれで良いと思っていた。しかし、人間の欲とは歯止めが効かず大きくなるばかり。
俺も触れたい。
俺も抱きしめたい。
俺も、その唇に口付けを落としたい。
自分のものだけにしたい。
けれど、もうそれは叶わない。俺たちは幼い頃からずっと側にいた。俺はずっと、ずっと彼女のことを見ていた。想っていた。彼女と過ごす時間が何よりも宝物だった。
「……そっか」
彼女の隣にずっといたいと思っていた。だから、俺は変わることを恐れてしまった。俺は怖かったんだ。ただ変化を恐れてしまっただけ。拒絶されて彼女を失うのが怖かっただけ。ただ、それだけなんだ。今更気付くなんて俺は本当にどうしようもないな。だから俺は選ばれなかったのかな、なんて弱気になる。
「……帰ろ」
つう、と流れてきた涙をゴシゴシと腕で拭い。教室の窓から橙色に染まっていく空を眺めた。綺麗なその色が俺の心を優しく抱擁してくれているような気がした。
ホームルームが終わり、大人しく席に座っていたみんなが一斉に騒ぎ出す。部活に向かったり、帰宅するために荷物を片付けたり、勉強するために図書室に向かったり、友達と談笑を始めたり。それぞれが自分の好きなことを始めた。俺も後ろの席の子と話すために、くるりと真後ろを振り返った。
「絃ちゃん」
「慶ちゃん、どうしたの?」
俺の後ろの席の女の子──絃は鞄に荷物を詰める手を止め、俺を見た。黒い瞳に俺が映る。それだけで俺は小躍りしたくなるほど嬉しくなってしまう。
「実はさ、絃ちゃんが前に『行きたい』って言ってたカフェのパフェ割引券をあるんだけどさ」
「うそ!」
「ほら」
ポケットから二枚の割引券を取り出し、絃の机の上に置いた。
「期限は今日まで! どうだい? 帰りに寄っていかない?」
「あー……ごめん。今日は無理なんだ」
申し訳なさそうにしている絃の目が俺から離れ、教室の扉に移る。視線の先に立っているのは、一人の男子生徒。
「ごめん、慶ちゃん。じゃあ、私帰るね! ばいばい、また明日!」
絃は残りの荷物を手早く片付け、鞄を肩から提げた。笑顔を向けて、俺へ手を振る絃へ俺もまた笑顔を向ける。小走りで絃が向かった先は、俺から絃の目を奪った男子生徒の元。ソイツは、絃が最近付き合い始めた彼氏さん。暫く廊下で談笑し、二人は仲良く手を繋いで帰って行った。その光景に胸が締め付けられる。
痛い。痛いよ、絃。
絃の机に置いた割引券をグジャと片手で丸め、スラックスのポケットへと深く突っ込む。
「はあ、」
教室の窓から校庭でサッカー部やら野球部が部活に励んでいる姿が見える。
「何で、上手くいかないのかね」
まだ、ざわざわと騒がしい教室にその声は掻き消された。また一つ溜め息を零し、瞼を閉じる。暗闇に絃の笑顔が浮かぶ。思い出すのは絃が嬉しそうに先程のアイツと付き合うことになったと俺へ報告してきた時の顔。とても嬉しそうで、とても幸せそうだった。
始めは絃が幸せならそれで良いと思っていた。しかし、人間の欲とは歯止めが効かず大きくなるばかり。
俺も触れたい。
俺も抱きしめたい。
俺も、その唇に口付けを落としたい。
自分のものだけにしたい。
けれど、もうそれは叶わない。俺たちは幼い頃からずっと側にいた。俺はずっと、ずっと彼女のことを見ていた。想っていた。彼女と過ごす時間が何よりも宝物だった。
「……そっか」
彼女の隣にずっといたいと思っていた。だから、俺は変わることを恐れてしまった。俺は怖かったんだ。ただ変化を恐れてしまっただけ。拒絶されて彼女を失うのが怖かっただけ。ただ、それだけなんだ。今更気付くなんて俺は本当にどうしようもないな。だから俺は選ばれなかったのかな、なんて弱気になる。
「……帰ろ」
つう、と流れてきた涙をゴシゴシと腕で拭い。教室の窓から橙色に染まっていく空を眺めた。綺麗なその色が俺の心を優しく抱擁してくれているような気がした。
End.