東京リベンジャーズ
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口に広がったのは友との記憶
(場地圭介)
俺はパンが嫌いだ。
それを言えば大体は「パサパサしてるから?」と聞かれる。確かにあのパサパサも嫌いだ。アレを食って空腹を満たすくらいなら他の物で腹を満たしたい。でも、理由は別にある。話せば長くなる為、省略するが簡単に言うと幼い頃に心底嫌になるほどパンを食べたからだ。俺は母親からまともな食事を与えて貰えなかった。俺の腹が鳴れば、食パンが入った袋を投げつけられた。他の物が食べたいと泣けば顔に拳が飛んでくるし、文句を言えば腹に足が飛んでくる。大人しく与えられたソレを食うしかなかった。だから、俺はパンが嫌いだ。あんな物、一生食ってやるか。パンを頭に浮かべるだけでもあの部屋の温度、匂い、母親の顔が連想されて吐き気をもよおす。
「#倫太郎#、本当にそれだけで良いのか? さっきまで、お前も腹が減ったって言ってたじゃん」
場地が俺の目の前でハンバーガーに齧り付き、俺の手に持っているジュースを指差しながら、そう言った。コイツとは古い付き合いだ。幼少期は場地と同じ団地の同じ建物、同じ階に住んでいた。だから勿論、俺はパンが嫌いな事も嫌いな理由も知っている。それを忘れているのか、ハンバーガーの肉を挟んでいるソレがパンじゃねえと思っているのか知らねえが俺にそんな言葉を投げ掛けてきた。まあ前者だろう。コイツ、バカだからな。知ってたらこんな店を選ばないだろう。俺はお前の嫌いなものをちゃんと覚えてるっていうのに。
「いい。財布見たら、金無かったし」
「ふーん。そっか」
現在俺は爺ちゃんと暮らしている。足が悪い爺ちゃんの代わりに俺が買い出しや料理、家事の大部分をやっているからだ。だから、そこら辺の中学生より財布は常に潤っている状態だ。その事にも気が付かねえバカな場地は俺の適当な嘘に納得してハンバーガーにまた齧り付いた。
「俺だけ食ってなんか悪りぃな」
「別に」
ストローを吸うといつの間にか飲み干してしまっており、溶けた氷から出た水と空気が混ざり合う音がした。
やっぱりMサイズじゃなくてLサイズにすれば良かったな。
そう思いながらストローを奥歯で噛んでいると、目の前に食べかけのハンバーガーが広がった。
「ホラ」
「なに?」
「食えって」
「はあ? いらねぇって」
「遠慮すんなよ」
「遠慮してる訳じゃねぇし」
「じゃあ食えよ。美味ぇぞ! 期間限定らしくてそろそろ終わるらしいから、今日食わねぇともう食えなくなるぞ」
余計な世話を焼いてくる場地は無邪気に白い歯を見せて笑っている。
俺がパン嫌いって事を忘れたか?
そう言ってやろうと思ったが、言葉を飲み込む。ため息を一つつき、 場地が差し出しているハンバーガーを凝視する。パンに挟まれた中の肉は美味そうだった。ソースが明かりに照らされてキラキラと輝いている。場地に目を向けると同じようにキラキラと目を輝かせていた。コイツって本当に自分が美味えと思ったものとか楽しい、面白いと思った事を誰かと共有したがるよな。構ってちゃんな彼女かよ。
口に含んだ後にトイレへと駆け込む俺を見て、自分のしでかした事に気付いて焦り出す場地を見て笑ってやろう。そう思いながら、胃から込み上げるものをなんとか抑えて意を決してハンバーガーに小さく齧り付く。
「………」
ついに口に中へと入れてしまった、パンもといハンバーガーをゆっくりゆっくり咀嚼する。
「………?」
可笑しい。俺はもう一口、さっきより少し多く口に含んで咀嚼した。
「どうだ? 美味えだろ」
「………美味え」
「だろ!」
今までパンを見たり、匂いを嗅いだだけでも胃から熱いものが込み上げてきた。冷や汗さえかいていた。さっきまで同じようにいつもの症状が出ていたが、今はそれが一切無い。綺麗さっぱりなくなってしまった。そして純粋に美味いと思ってしまった。肉の味で誤魔化されているんだろうか。いや、そんな訳がない。俺、カツサンドも食えねえもん。
「#倫太郎#の分も買ってやりてぇけど、俺ももう金ねぇんだわ。だから半分コな」
「……」
あれだけ大嫌いだったパンを食べられた事が信じられず、呆けてしまう。
「お前は魔法使いか何かか?」
「は?」
きっとお前がくれたもんだから。
お前と分けて食ってるから、きっと平気なんだ。
自分が思っている以上に俺はコイツのことを特別な存在だと思っているらしい。ソレが何なのかは全く分からない。
今俺がコイツから貰ったコレを美味しいと感じて、お前と一緒に「美味え、美味え」と言いながらもっと食いてぇと思っている事は確かだ。
(場地圭介)
俺はパンが嫌いだ。
それを言えば大体は「パサパサしてるから?」と聞かれる。確かにあのパサパサも嫌いだ。アレを食って空腹を満たすくらいなら他の物で腹を満たしたい。でも、理由は別にある。話せば長くなる為、省略するが簡単に言うと幼い頃に心底嫌になるほどパンを食べたからだ。俺は母親からまともな食事を与えて貰えなかった。俺の腹が鳴れば、食パンが入った袋を投げつけられた。他の物が食べたいと泣けば顔に拳が飛んでくるし、文句を言えば腹に足が飛んでくる。大人しく与えられたソレを食うしかなかった。だから、俺はパンが嫌いだ。あんな物、一生食ってやるか。パンを頭に浮かべるだけでもあの部屋の温度、匂い、母親の顔が連想されて吐き気をもよおす。
「#倫太郎#、本当にそれだけで良いのか? さっきまで、お前も腹が減ったって言ってたじゃん」
場地が俺の目の前でハンバーガーに齧り付き、俺の手に持っているジュースを指差しながら、そう言った。コイツとは古い付き合いだ。幼少期は場地と同じ団地の同じ建物、同じ階に住んでいた。だから勿論、俺はパンが嫌いな事も嫌いな理由も知っている。それを忘れているのか、ハンバーガーの肉を挟んでいるソレがパンじゃねえと思っているのか知らねえが俺にそんな言葉を投げ掛けてきた。まあ前者だろう。コイツ、バカだからな。知ってたらこんな店を選ばないだろう。俺はお前の嫌いなものをちゃんと覚えてるっていうのに。
「いい。財布見たら、金無かったし」
「ふーん。そっか」
現在俺は爺ちゃんと暮らしている。足が悪い爺ちゃんの代わりに俺が買い出しや料理、家事の大部分をやっているからだ。だから、そこら辺の中学生より財布は常に潤っている状態だ。その事にも気が付かねえバカな場地は俺の適当な嘘に納得してハンバーガーにまた齧り付いた。
「俺だけ食ってなんか悪りぃな」
「別に」
ストローを吸うといつの間にか飲み干してしまっており、溶けた氷から出た水と空気が混ざり合う音がした。
やっぱりMサイズじゃなくてLサイズにすれば良かったな。
そう思いながらストローを奥歯で噛んでいると、目の前に食べかけのハンバーガーが広がった。
「ホラ」
「なに?」
「食えって」
「はあ? いらねぇって」
「遠慮すんなよ」
「遠慮してる訳じゃねぇし」
「じゃあ食えよ。美味ぇぞ! 期間限定らしくてそろそろ終わるらしいから、今日食わねぇともう食えなくなるぞ」
余計な世話を焼いてくる場地は無邪気に白い歯を見せて笑っている。
俺がパン嫌いって事を忘れたか?
そう言ってやろうと思ったが、言葉を飲み込む。ため息を一つつき、 場地が差し出しているハンバーガーを凝視する。パンに挟まれた中の肉は美味そうだった。ソースが明かりに照らされてキラキラと輝いている。場地に目を向けると同じようにキラキラと目を輝かせていた。コイツって本当に自分が美味えと思ったものとか楽しい、面白いと思った事を誰かと共有したがるよな。構ってちゃんな彼女かよ。
口に含んだ後にトイレへと駆け込む俺を見て、自分のしでかした事に気付いて焦り出す場地を見て笑ってやろう。そう思いながら、胃から込み上げるものをなんとか抑えて意を決してハンバーガーに小さく齧り付く。
「………」
ついに口に中へと入れてしまった、パンもといハンバーガーをゆっくりゆっくり咀嚼する。
「………?」
可笑しい。俺はもう一口、さっきより少し多く口に含んで咀嚼した。
「どうだ? 美味えだろ」
「………美味え」
「だろ!」
今までパンを見たり、匂いを嗅いだだけでも胃から熱いものが込み上げてきた。冷や汗さえかいていた。さっきまで同じようにいつもの症状が出ていたが、今はそれが一切無い。綺麗さっぱりなくなってしまった。そして純粋に美味いと思ってしまった。肉の味で誤魔化されているんだろうか。いや、そんな訳がない。俺、カツサンドも食えねえもん。
「#倫太郎#の分も買ってやりてぇけど、俺ももう金ねぇんだわ。だから半分コな」
「……」
あれだけ大嫌いだったパンを食べられた事が信じられず、呆けてしまう。
「お前は魔法使いか何かか?」
「は?」
きっとお前がくれたもんだから。
お前と分けて食ってるから、きっと平気なんだ。
自分が思っている以上に俺はコイツのことを特別な存在だと思っているらしい。ソレが何なのかは全く分からない。
今俺がコイツから貰ったコレを美味しいと感じて、お前と一緒に「美味え、美味え」と言いながらもっと食いてぇと思っている事は確かだ。
End.
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