東京リベンジャーズ
名前変換
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それでもお前に俺の名前を呼んで欲しい
(場地圭介)
(場地圭介は出てきません。場地圭介を忘れられない男夢主が女の子とヤッてます。)
「このゴム、伸び切っちゃってるよ?」
そんな言葉が横から聞こえて来て、視線だけをそこへ持って行く。そこには衣服で身を隠さず、生まれたままの状態で白い寝具に白い肌を包んでいる女。彼女が身に付けていた衣服はベッドの下に乱雑に転がっている。俺が身に付けていた衣服も同様に。適当にそこら辺を歩いている見ず知らずの十人を集めて、この状況を見せても十人全員が『俺達が何をヤったか』。そんな簡単な問題は正解できるだろう。お察しの通り、先程俺とこの女はこの白いシーツの上でセックスをした。
行為後の気怠さから俺が呆けて天井を眺めていると女が先程の言葉を放った。女が言った『ゴム』は避妊具ではない。この女を抱く前に外してベッドサイドに置いたヘアゴムのことだ。それがいつの間にか女の小さい手の中にあった。細い指で弄ばれている、そのヘアゴムは俺がいつも鎖骨ほどの長さの髪を纏める時に使っているもの。長年使っているせいでもうゴムの伸縮性は無くなり、ただの紐ようになっている。
「勝手に触るな」
女の手からそれを奪う。乱雑に取り上げたため、赤いネイルが施されている長い爪が俺の甲を軽く引っ掻く。
「そんなに怒らないでよ。倫汰朗の大切な物なの?」
「………」
女の言葉を背に受け、上体を起こして女の手が届かないところへそれを置く。
「元カノの、とか?」
「違ぇーよ」
「わたしの勘では倫汰朗がフラれて、それでその元カノが未だに忘れられなくて大好きで未練タラタラ~っていうところなんだけど」
問い詰める口調ではなく、面白がっているようなどこか間延びした話し方。俺達が恋人同士ならば、こんな会話は相当な修羅場だ。だが、生憎そんな関係ではない。女も先程の行為で疲れたのか、眠そうに欠伸を一つ溢した。
「図星でしょ?」
欠伸のせいでうっすらと浮かんだ涙で潤ませた瞳を細めて、悪戯顔で笑っている。口角を上げたことで、女の八重歯がよく見えた。
「………そんなんじゃねーよ」
「そう? じゃあ何で倫汰朗はわたしに髪の毛はこれぐらいにしろとか、髪の毛染めるなとか、名前を呼ぶ時は呼び捨てで呼べとか指図してくるわけ?」
自分の髪の毛を指先で遊びながら尋ねられる。怒っているわけでもなく、拗ねているわけでもない。ただ単純に理由が気になっている。そんな印象だった。
「そういうのが俺のタイプだからだ」
「ふーん。わたし、染めようかなって思ってるんだよね。春になるし、髪の毛もボブぐらいに──」
「やめろ」
低い声で女の言葉を遮る。言葉と同時に毛先を弄っていた女の手首に手が勝手に伸びた。女は目を丸くして驚いたが直ぐに先程のように目を細めて愉快そうに笑った。
「ほら、必死。鏡持ってこようか?」
「いらねーよ」
女の手首を離し、背を向ける。
「わたしは強いお酒飲んで何でもないような顔してたり、タバコを吸ったりする男の人が好きなんだけどなあ。タバコを吸ってる男の人の色気って良いと思わない?」
俺の背中に身を寄せる。誘っているのか知らないが背中に女の柔らかいものが当たっている。
「知らねーよ。そんな事、男に聞くな。お前今日うぜーぞ」
「ねえ、なんで倫汰朗はお酒とタバコしないの? 人に言えない犯罪いっぱい犯してる人がお酒とタバコはやってないって、どこ探してもそんな人いなくない?」
「だから、うぜーって。黙れ」
「ひどーい」
女はケラケラと笑い、全く傷付いていない。
──アイツは所謂『不良』だったが酒とタバコはお袋が泣くから、という理由で手を出していなかった。じゃあ、人を殴るのは良いのかよ、と何度か思った事がある。何が良くて、何が悪いのか、アイツの線引きは俺には理解出来なかった。だけど何となくアイツがしないなら俺もしなくて良いや、という考えだった。酒もタバコもやらなかった。誰に誘われても一度も飲んだ事も、吸った事もない。
浴びるように酒を飲んだり、ニコチンで脳みそを興奮させれば少しはこの胸のモヤモヤも楽になるのかもしれない。この胸に渦巻くそれは、喪失感、焦燥感、不安感。一体何なのか名前を付ける事が俺には出来ない。その事実にどうしようもなく苛々する。酒とタバコを使ってこの現実から逃げたくなる。でも今もそれをしないのは、きっと、アイツが知らない俺になるのが嫌だからだ。
「わたし、倫汰朗がタバコ吸ってるところみたいかあ。煙吐いてるの絶対似合いそう。あ、もちろん電子タバコとかじゃなくてー、紙のタバコね」
「んだよそれ」
「褒めてるの。ねえ。わたし、倫汰朗の言う事をちゃーんと聞いてあげてるんだから、いーじゃん」
睨んでも、低い声で冷たく突き放しても、態度で怒りを露わにしても女のお喋りは終わらない。女に向き直って、肩を掴んで力任せにうつ伏せする。そのまま両手首をシーツに押さえつけて、身動きが取れないように自分の下に組み敷く。
「するの? さっきもバックだったじゃん。わたしは正常位が良いんだけど。あ、騎乗位でもいいよ」
「お前が俺に抱かせてやってるんじゃなくて、俺がお前を抱いてやってんだ。お前に提案する権利なんかねーよ」
「ケチ。倫汰朗ってバック好きだよね。もしかして、わたしの顔が見えないから?」
「喋んな」
顎に手をやり、無理矢理に唇を重ねて言葉を遮る。舌を絡めて、息を奪う。女の思考を止め、意識を快楽に持っていく。
「んぅ……ん」
物欲しそうな甘い声が聞こえ始めたところで唇を離し、無意識に黒い髪がかかる首筋に顔を埋めた。深く息を吸う。鼻腔に女の匂いが充満した。
違う。
アイツの匂いは、
もっと、もっと──
そこで思考を止めた。
俺は一体何をしているんだ。
「………」
背も伸びた。手もでかくなった。声も低くなった。髪の毛も伸びた。女を覚えた。人も殺した。昔の俺が考えつかないほどの悪に手を染めた。もう戻れない。振り返れない。
アイツの知っている俺はもうどこにもいないっていうのに。それでも俺は、この現実でアイツを探している。
目を閉じれば、そこに現れるアイツはあの時と変わらない姿と声で俺の名前を呼ぶ。
「ん、あ……倫汰朗っ……」
その顔が今の俺には目が眩むほど眩しくて、眩しくて、いつも俺は目を開く。
「あんッ……あ!」
目の前でくねっている白くて柔らかい背中に一つ、水滴が落ちた。
(場地圭介)
(場地圭介は出てきません。場地圭介を忘れられない男夢主が女の子とヤッてます。)
「このゴム、伸び切っちゃってるよ?」
そんな言葉が横から聞こえて来て、視線だけをそこへ持って行く。そこには衣服で身を隠さず、生まれたままの状態で白い寝具に白い肌を包んでいる女。彼女が身に付けていた衣服はベッドの下に乱雑に転がっている。俺が身に付けていた衣服も同様に。適当にそこら辺を歩いている見ず知らずの十人を集めて、この状況を見せても十人全員が『俺達が何をヤったか』。そんな簡単な問題は正解できるだろう。お察しの通り、先程俺とこの女はこの白いシーツの上でセックスをした。
行為後の気怠さから俺が呆けて天井を眺めていると女が先程の言葉を放った。女が言った『ゴム』は避妊具ではない。この女を抱く前に外してベッドサイドに置いたヘアゴムのことだ。それがいつの間にか女の小さい手の中にあった。細い指で弄ばれている、そのヘアゴムは俺がいつも鎖骨ほどの長さの髪を纏める時に使っているもの。長年使っているせいでもうゴムの伸縮性は無くなり、ただの紐ようになっている。
「勝手に触るな」
女の手からそれを奪う。乱雑に取り上げたため、赤いネイルが施されている長い爪が俺の甲を軽く引っ掻く。
「そんなに怒らないでよ。倫汰朗の大切な物なの?」
「………」
女の言葉を背に受け、上体を起こして女の手が届かないところへそれを置く。
「元カノの、とか?」
「違ぇーよ」
「わたしの勘では倫汰朗がフラれて、それでその元カノが未だに忘れられなくて大好きで未練タラタラ~っていうところなんだけど」
問い詰める口調ではなく、面白がっているようなどこか間延びした話し方。俺達が恋人同士ならば、こんな会話は相当な修羅場だ。だが、生憎そんな関係ではない。女も先程の行為で疲れたのか、眠そうに欠伸を一つ溢した。
「図星でしょ?」
欠伸のせいでうっすらと浮かんだ涙で潤ませた瞳を細めて、悪戯顔で笑っている。口角を上げたことで、女の八重歯がよく見えた。
「………そんなんじゃねーよ」
「そう? じゃあ何で倫汰朗はわたしに髪の毛はこれぐらいにしろとか、髪の毛染めるなとか、名前を呼ぶ時は呼び捨てで呼べとか指図してくるわけ?」
自分の髪の毛を指先で遊びながら尋ねられる。怒っているわけでもなく、拗ねているわけでもない。ただ単純に理由が気になっている。そんな印象だった。
「そういうのが俺のタイプだからだ」
「ふーん。わたし、染めようかなって思ってるんだよね。春になるし、髪の毛もボブぐらいに──」
「やめろ」
低い声で女の言葉を遮る。言葉と同時に毛先を弄っていた女の手首に手が勝手に伸びた。女は目を丸くして驚いたが直ぐに先程のように目を細めて愉快そうに笑った。
「ほら、必死。鏡持ってこようか?」
「いらねーよ」
女の手首を離し、背を向ける。
「わたしは強いお酒飲んで何でもないような顔してたり、タバコを吸ったりする男の人が好きなんだけどなあ。タバコを吸ってる男の人の色気って良いと思わない?」
俺の背中に身を寄せる。誘っているのか知らないが背中に女の柔らかいものが当たっている。
「知らねーよ。そんな事、男に聞くな。お前今日うぜーぞ」
「ねえ、なんで倫汰朗はお酒とタバコしないの? 人に言えない犯罪いっぱい犯してる人がお酒とタバコはやってないって、どこ探してもそんな人いなくない?」
「だから、うぜーって。黙れ」
「ひどーい」
女はケラケラと笑い、全く傷付いていない。
──アイツは所謂『不良』だったが酒とタバコはお袋が泣くから、という理由で手を出していなかった。じゃあ、人を殴るのは良いのかよ、と何度か思った事がある。何が良くて、何が悪いのか、アイツの線引きは俺には理解出来なかった。だけど何となくアイツがしないなら俺もしなくて良いや、という考えだった。酒もタバコもやらなかった。誰に誘われても一度も飲んだ事も、吸った事もない。
浴びるように酒を飲んだり、ニコチンで脳みそを興奮させれば少しはこの胸のモヤモヤも楽になるのかもしれない。この胸に渦巻くそれは、喪失感、焦燥感、不安感。一体何なのか名前を付ける事が俺には出来ない。その事実にどうしようもなく苛々する。酒とタバコを使ってこの現実から逃げたくなる。でも今もそれをしないのは、きっと、アイツが知らない俺になるのが嫌だからだ。
「わたし、倫汰朗がタバコ吸ってるところみたいかあ。煙吐いてるの絶対似合いそう。あ、もちろん電子タバコとかじゃなくてー、紙のタバコね」
「んだよそれ」
「褒めてるの。ねえ。わたし、倫汰朗の言う事をちゃーんと聞いてあげてるんだから、いーじゃん」
睨んでも、低い声で冷たく突き放しても、態度で怒りを露わにしても女のお喋りは終わらない。女に向き直って、肩を掴んで力任せにうつ伏せする。そのまま両手首をシーツに押さえつけて、身動きが取れないように自分の下に組み敷く。
「するの? さっきもバックだったじゃん。わたしは正常位が良いんだけど。あ、騎乗位でもいいよ」
「お前が俺に抱かせてやってるんじゃなくて、俺がお前を抱いてやってんだ。お前に提案する権利なんかねーよ」
「ケチ。倫汰朗ってバック好きだよね。もしかして、わたしの顔が見えないから?」
「喋んな」
顎に手をやり、無理矢理に唇を重ねて言葉を遮る。舌を絡めて、息を奪う。女の思考を止め、意識を快楽に持っていく。
「んぅ……ん」
物欲しそうな甘い声が聞こえ始めたところで唇を離し、無意識に黒い髪がかかる首筋に顔を埋めた。深く息を吸う。鼻腔に女の匂いが充満した。
違う。
アイツの匂いは、
もっと、もっと──
そこで思考を止めた。
俺は一体何をしているんだ。
「………」
背も伸びた。手もでかくなった。声も低くなった。髪の毛も伸びた。女を覚えた。人も殺した。昔の俺が考えつかないほどの悪に手を染めた。もう戻れない。振り返れない。
アイツの知っている俺はもうどこにもいないっていうのに。それでも俺は、この現実でアイツを探している。
目を閉じれば、そこに現れるアイツはあの時と変わらない姿と声で俺の名前を呼ぶ。
「ん、あ……倫汰朗っ……」
その顔が今の俺には目が眩むほど眩しくて、眩しくて、いつも俺は目を開く。
「あんッ……あ!」
目の前でくねっている白くて柔らかい背中に一つ、水滴が落ちた。
End.
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