戦国BASARA
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風涙
(風魔小太郎)
びゅるん、と強い風が吹いた。その刹那、己に迫ってきていた刺客を遮るようにして小さな背が眼に映った。
どくり、心臓が跳ねる。
ぞわり、嫌な汗が背を撫でた。目の前で起こっている現実に脳の処理が追いつかない。ゆっくりと倒れる彼女に無意識に手が伸びた。地面に倒れる前に抱き止める。
じわり、彼女に贈った桜色の着物が赤い鮮血で染まっていく。彼女が好きだと言った小田原城に咲き誇る桜と同じ色の着物が赤く、紅く、朱く、緋く。
「こ、た……ろ」
ぬるり、背中に回した手が血液で濡れるのがわかった。襲ってきた刺客達は気が付けば息をしていなかった。自分がいつ仕留めたのかも分からないほど気が動転してしまっている。
「…………」
何故だ、何故。彼女が。
「……こた、ろ」
彼女が震える手で懸命に己へ手を伸ばす。
その手を取り、力強く握った。
行かないでくれ、離れて行くな。
「……名は?」
「…………」
「あな……たの、ほんとう、の……名は……?」
「…………」
己は黙した。
ふるり、頭を横に振る。
本当の名など無い、と彼女に告げた。
『風魔小太郎』とは風魔一族の頭に与えられる名である。己の名ではない。しかし、己は『風魔小太郎』という名前を受け継ぐ以前の名を知らない。名があったのかすら分からない。物心が付いた時には、『風魔小太郎』と呼ばれていた。
幼い頃から暗殺の術を叩き込まれ、自分は『風魔小太郎』を作る為に生まれてきたようなものだった。それであるのにも関わらず周りの奴らは、命令とあらば淡々と人を殺す己を心を持たぬ人形だと罵った。己をそう育てたのは、己を作ったのはというのは貴様らだというのに。
「こたろう……」
暗い暗い闇から手を引いてくれるような慈しみが溢れる優しげな声だった。
そっと己の頬に手をやり、撫でる。そして微笑む。
「かわいそうに……」
ぱくぱく、口を開閉する。こたろう、と音にならなかった言葉を最後に残して、呆気なく彼女は事切れた。
「…………」
ぽたぽた、彼女の微笑んだ死に顔に雫が落ちる。
ああ、彼女はいってしまった。遠い、遠いところへいってしまった。
己はその瞬間、只の虚無の塊となった。
和田竜先生の『忍びの国』にインスピレーションを受けて書いた話です。
(風魔小太郎)
びゅるん、と強い風が吹いた。その刹那、己に迫ってきていた刺客を遮るようにして小さな背が眼に映った。
どくり、心臓が跳ねる。
ぞわり、嫌な汗が背を撫でた。目の前で起こっている現実に脳の処理が追いつかない。ゆっくりと倒れる彼女に無意識に手が伸びた。地面に倒れる前に抱き止める。
じわり、彼女に贈った桜色の着物が赤い鮮血で染まっていく。彼女が好きだと言った小田原城に咲き誇る桜と同じ色の着物が赤く、紅く、朱く、緋く。
「こ、た……ろ」
ぬるり、背中に回した手が血液で濡れるのがわかった。襲ってきた刺客達は気が付けば息をしていなかった。自分がいつ仕留めたのかも分からないほど気が動転してしまっている。
「…………」
何故だ、何故。彼女が。
「……こた、ろ」
彼女が震える手で懸命に己へ手を伸ばす。
その手を取り、力強く握った。
行かないでくれ、離れて行くな。
「……名は?」
「…………」
「あな……たの、ほんとう、の……名は……?」
「…………」
己は黙した。
ふるり、頭を横に振る。
本当の名など無い、と彼女に告げた。
『風魔小太郎』とは風魔一族の頭に与えられる名である。己の名ではない。しかし、己は『風魔小太郎』という名前を受け継ぐ以前の名を知らない。名があったのかすら分からない。物心が付いた時には、『風魔小太郎』と呼ばれていた。
幼い頃から暗殺の術を叩き込まれ、自分は『風魔小太郎』を作る為に生まれてきたようなものだった。それであるのにも関わらず周りの奴らは、命令とあらば淡々と人を殺す己を心を持たぬ人形だと罵った。己をそう育てたのは、己を作ったのはというのは貴様らだというのに。
「こたろう……」
暗い暗い闇から手を引いてくれるような慈しみが溢れる優しげな声だった。
そっと己の頬に手をやり、撫でる。そして微笑む。
「かわいそうに……」
ぱくぱく、口を開閉する。こたろう、と音にならなかった言葉を最後に残して、呆気なく彼女は事切れた。
「…………」
ぽたぽた、彼女の微笑んだ死に顔に雫が落ちる。
ああ、彼女はいってしまった。遠い、遠いところへいってしまった。
己はその瞬間、只の虚無の塊となった。
End.
和田竜先生の『忍びの国』にインスピレーションを受けて書いた話です。