更木剣八
名前変換
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素直に言え
ドスン、と腰に衝撃を感じた。
振り返ると俺の腰回りに腕を回して抱き付き、顔を埋めている奴がいた。頭頂部しか見えないが、すぐにコレが誰なのかは察しが付いた。
最近、虚討伐任務で助けた奴だ。助けた、と言っても本当に偶然だった。他の個体より図体が巨大で斬るのが随分と愉しそうな虚が視界に入り、考えるよりも先に体が動いた。久しぶりに卍解も出来るかもしれないと、嬉々としていたが一振りでその虚は呆気なく消滅してしまった。始解すら出来なかったことにうんざりした。憂さ晴らしの為に早く次の獲物を探そうと辺りを見渡している時に今と同じように腰に衝撃を感じた。振り返ると、これまた同じようにコレに抱き付かれていた。
『じゃらぎだいぢょう、あいがどう、ごじゃいまじだ』
『はあ? 何言ってんのか分かんねえよ。ちゃんと喋れ。後早く放せ』
『ごのごおんは、いっじょう、わずれまじぇん』
『だから何言ってんのか分かんねえよ。良いから放せ』
『はなじまじぇん!』
『おい、鼻水付けんじゃねえよ』
大泣きしながら発した言葉は何一つ聞き取れなかったが、その三日後ぐらいにコイツ──名前が十一番隊へ異動してきた。元は八番隊だったらしい。
『先日は助けて頂いてありがとう! ございました! このご恩は一生忘れません! なので! 更木隊長をお守りするために十一番隊に来ました!』
『俺を守るって……強いのか、お前は』
『いえ! へなちょこです! なので、更木隊長、私を強くして貴方を守れるようにしてください! 弟子にしてください! あと好きです!』
随分と滅茶苦茶な願い出と告白だった。今思い出しても意味が分からない。いや、俺を守りたいなら俺より強くなる必要があるから合理的ではあるか。俺が好きだということについては何も理解できないが。
馬鹿なコイツは、異動理由にも俺に言った同じことを述べたのだろう。そんなことが許されるのか、と思う。名前が元々籍を置いていた八番隊はそれが罷り通ってしまうらしい。京楽が一番隊へ異動して、空いた隊長と副隊長の座にはどちも女が就いた。顔は何となくぼんやり思い出せるが名前は忘れてしまった。強ければ性別なんざ関係はないが、あの二人は可笑しな格好をしていた気がする。きっと、名前のようにまともでは無い奴らということは何となく分かる。
すぐに飽きて八番隊に帰るだろうと思っていたが、俺を守るから稽古をつけろと言った通り俺に毎日手合わせを申し出てくる。どこへ行くにも俺の後を毎日追いかけてくる。毎日べらべらと話しかけてくる。やちるがいなくなったかと思えば、突然現れたコイツ──名前のせいで日常の騒々しさは消えることはなかった。
それからもう一年が経つ。
少しの間、過去のことを思い出していたが名前は依然として俺の腰へ抱き付いている。いつも喧しいほど俺に語りかけてくるが、今日はまだ何も言葉を発しない。
「何だ」
問いかけても何も言葉は返ってこない。腰に回っている腕がきつく締まり、前頭部を押し付けてくる。
「どうした」
返答が無い為、もう一度問いかけるが今度も返答はなかった。
「何かあったのか」
やはり何も帰ってこない。いつも一方的に名前に話しかけられるが今日は立場が逆だ。
このまま歩き出して引きずってやろうかと思ったが、名前はそれでも離さないだろう。
「言葉を忘れちまったのか?」
名前の頭へ手を乗せて、数度撫でてみた。すると勢いよく顔を上げて、嬉しそうに笑った。
そういえば、名前は現世へ数週間ほど任務で駆り出されていた。束の間の静かな日常が終わってしまったのか、と深く息をついた。
「構って欲しいなら素直に言え」
もう一度、頭を撫でてやると、満足そうな顔で俺の手へ頭を押し付けていた。
ドスン、と腰に衝撃を感じた。
振り返ると俺の腰回りに腕を回して抱き付き、顔を埋めている奴がいた。頭頂部しか見えないが、すぐにコレが誰なのかは察しが付いた。
最近、虚討伐任務で助けた奴だ。助けた、と言っても本当に偶然だった。他の個体より図体が巨大で斬るのが随分と愉しそうな虚が視界に入り、考えるよりも先に体が動いた。久しぶりに卍解も出来るかもしれないと、嬉々としていたが一振りでその虚は呆気なく消滅してしまった。始解すら出来なかったことにうんざりした。憂さ晴らしの為に早く次の獲物を探そうと辺りを見渡している時に今と同じように腰に衝撃を感じた。振り返ると、これまた同じようにコレに抱き付かれていた。
『じゃらぎだいぢょう、あいがどう、ごじゃいまじだ』
『はあ? 何言ってんのか分かんねえよ。ちゃんと喋れ。後早く放せ』
『ごのごおんは、いっじょう、わずれまじぇん』
『だから何言ってんのか分かんねえよ。良いから放せ』
『はなじまじぇん!』
『おい、鼻水付けんじゃねえよ』
大泣きしながら発した言葉は何一つ聞き取れなかったが、その三日後ぐらいにコイツ──名前が十一番隊へ異動してきた。元は八番隊だったらしい。
『先日は助けて頂いてありがとう! ございました! このご恩は一生忘れません! なので! 更木隊長をお守りするために十一番隊に来ました!』
『俺を守るって……強いのか、お前は』
『いえ! へなちょこです! なので、更木隊長、私を強くして貴方を守れるようにしてください! 弟子にしてください! あと好きです!』
随分と滅茶苦茶な願い出と告白だった。今思い出しても意味が分からない。いや、俺を守りたいなら俺より強くなる必要があるから合理的ではあるか。俺が好きだということについては何も理解できないが。
馬鹿なコイツは、異動理由にも俺に言った同じことを述べたのだろう。そんなことが許されるのか、と思う。名前が元々籍を置いていた八番隊はそれが罷り通ってしまうらしい。京楽が一番隊へ異動して、空いた隊長と副隊長の座にはどちも女が就いた。顔は何となくぼんやり思い出せるが名前は忘れてしまった。強ければ性別なんざ関係はないが、あの二人は可笑しな格好をしていた気がする。きっと、名前のようにまともでは無い奴らということは何となく分かる。
すぐに飽きて八番隊に帰るだろうと思っていたが、俺を守るから稽古をつけろと言った通り俺に毎日手合わせを申し出てくる。どこへ行くにも俺の後を毎日追いかけてくる。毎日べらべらと話しかけてくる。やちるがいなくなったかと思えば、突然現れたコイツ──名前のせいで日常の騒々しさは消えることはなかった。
それからもう一年が経つ。
少しの間、過去のことを思い出していたが名前は依然として俺の腰へ抱き付いている。いつも喧しいほど俺に語りかけてくるが、今日はまだ何も言葉を発しない。
「何だ」
問いかけても何も言葉は返ってこない。腰に回っている腕がきつく締まり、前頭部を押し付けてくる。
「どうした」
返答が無い為、もう一度問いかけるが今度も返答はなかった。
「何かあったのか」
やはり何も帰ってこない。いつも一方的に名前に話しかけられるが今日は立場が逆だ。
このまま歩き出して引きずってやろうかと思ったが、名前はそれでも離さないだろう。
「言葉を忘れちまったのか?」
名前の頭へ手を乗せて、数度撫でてみた。すると勢いよく顔を上げて、嬉しそうに笑った。
そういえば、名前は現世へ数週間ほど任務で駆り出されていた。束の間の静かな日常が終わってしまったのか、と深く息をついた。
「構って欲しいなら素直に言え」
もう一度、頭を撫でてやると、満足そうな顔で俺の手へ頭を押し付けていた。
End.
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