戦国BASARA
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二人だけの世界
空が茜色に染まる夕刻時、幸村と絃は上田城の縁側に居た。庭師によって綺麗に整えられた風情のある庭か眺められるこの場所は、幸村と絃にとってお気に入りの場所だった。幸村の隣に座している絃の膝上をすやすやと気持ちよさそうに眠る猫が陣取っている。絃は目を細めて、優しげな顔でその猫の頭を撫でる。幸村と絃はお互いに沈黙。しかし、そこにあるのは気まずい空気ではなかった。絃にとっても、幸村にとっても、心地の良い静寂だった。
「わたくしが、もし、猫だったら」
絃は、そんな突飛な言葉で沈黙を破ると再び口を噤んだ。幸村はその言葉の意味をゆっくり脳内で噛み締める。しかし絃の意図が汲み取れず、今度は幸村が沈黙を破る。
「猫だったら?」
実の所、こうして絃が突飛なことを言い出すのは初めてではなかった。時々、絃は、急に"もしもの話"を始める。
ある日は鳥、その別の日は魚。太陽、月。幸村の記憶では最近の"もしもの話"は、雲だった。
──もしも、わたくしが雲であるなら。風にこの身を任せ、何も気にすることなく、のんびりと生きることができます。
しかし、自分で向かう方法を決められないのでしょうね。その事にきっと、わたくしは飽き飽きするのです。
そう、言っていた。
「もしも猫であるならば、わたくしは自由奔放に、のらりくらりと生きていきます」
「……絃は自由になりたいのか?」
「憧れませぬか? 決まり事も何もない世界で、自由に、自分のやりたい事をして生きるのです」
絃がまた猫の頭を撫でると、ごろごろと気持ち良さそうな猫の鳴き声が聞こえてきた。
「自由に生きて、誰にも知られずに死んでゆくのです」
目覚めた猫が背を伸ばし、絃の膝から軽やかに地面に飛び降りた。絃は、その猫を追いかけるように立ち上がる。猫は短く、にゃあと鳴いて何処かへと走って去って行った。猫の姿が見えなくなるまで見つめていた絃が幸村の方へと振り向く。幸村は、絃へと視線をやったが絃の背には夕日があり、逆光で表情は伺えなかった。淡々とそれを述べた絃がどんな心持ちでそれを言ったのかは、幸村には分からなかった。
「幸村様は如何なさいますか?」
それは、幸村が人間の場合なのか。
それとも、幸村が猫の場合なのか。
意図はわざと曖昧に、幸村へと問い掛けた。幸村は顎に手をやり、腕を組み少し吟味した。幸村は地面に目線を落とした。草履の裏で地面を撫でると、砂利が音を立てた。
「……そうだな。もしも、絃が猫で、俺が人間であるならば」
顔を上げて、絃へ夕日のように温かい顔で笑う。
「そなたが独りで寂しくないように、一緒にいる。俺が、有らゆるものから守る」
「では、幸村様が猫であるのならば?」
「其の時は、野垂れ死ぬまで」
相変わらず逆光で絃の表情は伺えなかったが、幸村は口角を上げ、目を細め柔らかく微笑んだ。
「もちろん、意図の隣で」
「それはとても楽しそうにございます」
人によっては嫌味に聞こえてしまいしうな絃の返答だったが、その声色は幸村の応えに満足したのか嬉々としたものだった。
「幸村様が猫で、わたくしが人間であるのならば、幸村様が寂しくならないうに、お傍に居ります」
絃は再び幸村の隣に腰を下ろし、そう呟いた。ようやく絃の表情が伺えた。その顔は幸村のように温かなものだった。
幸村はくすりと小さく笑みを零した。
夕日に照らされ、淡い橙色に染まる絃の髪を撫でる。
「それはとても楽しそうだな」
絃は幸せそうに微笑んだ。
空が茜色に染まる夕刻時、幸村と絃は上田城の縁側に居た。庭師によって綺麗に整えられた風情のある庭か眺められるこの場所は、幸村と絃にとってお気に入りの場所だった。幸村の隣に座している絃の膝上をすやすやと気持ちよさそうに眠る猫が陣取っている。絃は目を細めて、優しげな顔でその猫の頭を撫でる。幸村と絃はお互いに沈黙。しかし、そこにあるのは気まずい空気ではなかった。絃にとっても、幸村にとっても、心地の良い静寂だった。
「わたくしが、もし、猫だったら」
絃は、そんな突飛な言葉で沈黙を破ると再び口を噤んだ。幸村はその言葉の意味をゆっくり脳内で噛み締める。しかし絃の意図が汲み取れず、今度は幸村が沈黙を破る。
「猫だったら?」
実の所、こうして絃が突飛なことを言い出すのは初めてではなかった。時々、絃は、急に"もしもの話"を始める。
ある日は鳥、その別の日は魚。太陽、月。幸村の記憶では最近の"もしもの話"は、雲だった。
──もしも、わたくしが雲であるなら。風にこの身を任せ、何も気にすることなく、のんびりと生きることができます。
しかし、自分で向かう方法を決められないのでしょうね。その事にきっと、わたくしは飽き飽きするのです。
そう、言っていた。
「もしも猫であるならば、わたくしは自由奔放に、のらりくらりと生きていきます」
「……絃は自由になりたいのか?」
「憧れませぬか? 決まり事も何もない世界で、自由に、自分のやりたい事をして生きるのです」
絃がまた猫の頭を撫でると、ごろごろと気持ち良さそうな猫の鳴き声が聞こえてきた。
「自由に生きて、誰にも知られずに死んでゆくのです」
目覚めた猫が背を伸ばし、絃の膝から軽やかに地面に飛び降りた。絃は、その猫を追いかけるように立ち上がる。猫は短く、にゃあと鳴いて何処かへと走って去って行った。猫の姿が見えなくなるまで見つめていた絃が幸村の方へと振り向く。幸村は、絃へと視線をやったが絃の背には夕日があり、逆光で表情は伺えなかった。淡々とそれを述べた絃がどんな心持ちでそれを言ったのかは、幸村には分からなかった。
「幸村様は如何なさいますか?」
それは、幸村が人間の場合なのか。
それとも、幸村が猫の場合なのか。
意図はわざと曖昧に、幸村へと問い掛けた。幸村は顎に手をやり、腕を組み少し吟味した。幸村は地面に目線を落とした。草履の裏で地面を撫でると、砂利が音を立てた。
「……そうだな。もしも、絃が猫で、俺が人間であるならば」
顔を上げて、絃へ夕日のように温かい顔で笑う。
「そなたが独りで寂しくないように、一緒にいる。俺が、有らゆるものから守る」
「では、幸村様が猫であるのならば?」
「其の時は、野垂れ死ぬまで」
相変わらず逆光で絃の表情は伺えなかったが、幸村は口角を上げ、目を細め柔らかく微笑んだ。
「もちろん、意図の隣で」
「それはとても楽しそうにございます」
人によっては嫌味に聞こえてしまいしうな絃の返答だったが、その声色は幸村の応えに満足したのか嬉々としたものだった。
「幸村様が猫で、わたくしが人間であるのならば、幸村様が寂しくならないうに、お傍に居ります」
絃は再び幸村の隣に腰を下ろし、そう呟いた。ようやく絃の表情が伺えた。その顔は幸村のように温かなものだった。
幸村はくすりと小さく笑みを零した。
夕日に照らされ、淡い橙色に染まる絃の髪を撫でる。
「それはとても楽しそうだな」
絃は幸せそうに微笑んだ。
End.
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