現世で可愛い服を買ったから見て欲しいと言った
なつめは、俺が返事をする前に奥の部屋へと消えて行った。
程なくして、軽い足音と共に自分の元へ帰って来た
なつめは上下が繋がっている衣服を身に纏っていた。衣服の一面に橙色の花が描かれている。袖は短く、肩から下の腕が露出され、下半身の布は膝下までの丈の長さで死覇装や着物を着ている時よりも足が覗いている。つい凝視してしまった。
「ね、可愛いでしょ?」
俺の前に立つと、くるりと軽やかに一回転する。布の素材が薄いため、筒状で下半身を覆っている布は
なつめが作った風にふわりと広がった。余計に足が見えて、
なつめは溌剌と笑っているというのに艶かしく感じてしまった。
鼻で息を深く吐いて、一旦その自分を落ち着かせる。胡座をかいて、片腕を広げると
なつめは嬉しそうに笑って俺へ近付く。
「どっこいしょ」
そう言いながら
なつめは、俺の胸を背もたれにするようにして座った。
「可愛く座んねえのか、お前は」
「彼氏なら彼女の行動全部に可愛いって肯定しないとダメだよ」
「へーへー。かわいい、かわいい」
「気持ちがこもってなさすぎるんだけど」
不満そうに眉へ皺を寄せて、仰け反りながら俺を見ている
なつめの鼻を摘むと手首を掴まれて無理矢理引き剥がされた。今度は鼻の付け根にまで皺を寄せて俺を見ている。
「この花、チューリップだったか?」
「うん、そう! チューリップのワンピース! 今の季節にピッタリだなあって思って」
話題を逸らすように言うと、すぐに
なつめは笑顔に戻った。
愛嬌のある
なつめの笑顔に温かな陽気の中で咲き連なるチューリップ畑の中で楽しそうに笑っている姿が頭に浮かんだ。
「一角、チューリップ知ってたんだ」
可憐に笑う
なつめへ「好きだ」とつい口に出しそうになった。流石にそれは返答になって無さ過ぎる。
「チューリップの足袋履いてただろ、この前」
「足袋じゃなくて靴下ね」
「どっちでも同じだろ」
「確かにそうかも」
ふと、
なつめの首元から長方形の小さな紙が覗いているのが見えた。
「値札付いてんぞ」
「早く一角に見て欲しかったから、取る時間なかったのー」
値札を引っ張ると、橙色のチューリップの絵が描かれていた。その絵の下にとある言葉が書いてあった。その言葉に自然と口角が上がる。
「どうしたの?」
仰け反りながら俺の顔を不思議そうに覗き込んでいる
なつめの顎に逃げられないように右手を添えた。
「
なつめ、橙色のチューリップの花言葉知ってるか?」
「店員さんが色々教えてくれたんだけど……えっと、何だったけ……」
考え込んでしまった
なつめを他所に俺は唇を重ねた。ゆっくり唇を離すと、顔を真っ赤にした
なつめが目を丸くして俺を見つめていた。
「これでもっと可愛くなったな。よく似合ってるぞ」
「っ、ばーか!」
照れ隠しだとすぐに分かる発言をし、
なつめは両手で俺の目を塞いだ。
「馬鹿とは腑に落ちねえなァ。彼女には可愛いって言えって言ったのは、
なつめだろ」
「確かに言ったけど……不意打ち禁止っ」
両目が塞がれたまま、背中にあるだろものを手探りで探す。
「それ着てどこへ行きたいか考えておけよ」
目当ての物が見つかり、下へ引っ張って降ろしていく。
「ねえ、それ脱がしながら言うことじゃないってば……!」
身を捩って逃れようとする
なつめの腰へ手を回して捕まえる。視界が塞がれている中、
なつめの輪郭から顎に手を添わせ、親指で唇を探す。ふにっとした柔らかい感触を捕え、そこへ唇を落とした。薄く開いている唇に舌を滑り込ませる。驚いて引っ込んでいく舌を追いかけて捕まえ、
なつめの小さくて柔らかい舌の感触を楽しむ。
唇を離すと力が抜けてすっかり元気がなくなってしまった
なつめの両手は俺の顔から離れ、宙を浮いていた。その手に自分の指を絡めて捕まえる。
「俺の為に着たなら、俺が脱がしても何も可笑しくねえだろ?」
顔を赤らめている
なつめの瞳は、すっかり蕩けてしまっている。
なつめの反応によって満たされていく感覚に口角が自然と上がってしまう。
「本当によく似合ってんじゃねえか」
値札を掴み、
なつめの視界に持っていく。そこへ書かれてある言葉を見た
なつめは、赤い顔のまま少し眉を釣り上げ、俺の鼻を掴んだ。
「ばーかっ!」
オレンジ色のチューリップの花言葉は、『照れ屋』
終