「あ゛ーッ!!」
この世の終わりとでも言いたげな叫び声が十一番隊隊舎に響いた。突然のことに驚いてしまい、口に含んでいた桜餅を咀嚼することなく飲み込んでしまった。慌てて近くにあった茶で流し込んだ。なんとか喉に詰まらせずに済んだ。
「脅かすんじゃねェよッ!」
声の主へ怒声を浴びせるが、悪びれる様子もなく俺と同じように怒りを露わにした表情を見せた。
「だって、それ!」
「なんだよ」
桜餅が入っていた外箱を指差すと今度は眉を下げて今にも泣き出しそうな顔になった。
「あたしが食べようと思って買ったのに!」
なるほど、そういうことかと納得した。
「名前書いてないお前が悪いだろ」
「書いてたもん! ほら、ここ!」
なつめが指差したのは外箱の裏面だった。そこに大きく
なつめの名前が書かれてある。
「もっと分かりやすいところに書けよッ! 裏面に書くやつがあるかッ!」
「うるさい! なんで全面確認してから食べないの! だから一角はハゲなんだよ!」
「ハゲは関係ねェだろッ! 後ハゲじゃねェよ!」
「これから食べようと思ってたのに……!」
目に涙を溜める姿に罪悪感がじわじわと募っていく。
「ほら」
立ち上がり、
なつめへ向かって右手を差し出す。俺の意図が掴めてない
なつめは素っ頓狂な表情を浮かべている。
「買ってやるから行くぞ、一緒に」
「うん!」
なつめはすぐに目を輝かせて、春の日差しのような朗らかな笑顔で笑った。俺の手を握って益々顔を綻ばせている。
これだけのことで俺の失態を忘れて幸せそうな表情を浮かべる
なつめを単純だと思いつつも、そんな
なつめの姿に機嫌が良くなってしまう自分も至極単純であると気付かされた。
終