綾瀬川弓親とチューリップ
二〇二四年 五月
※弓親と妹。現パロ。
「
名前」
名前を呼ぶと、背中を向けていた
名前はすぐにこちらを振り返った。
「なあに、ちかちゃん」
首を傾げながら微笑んで僕を見ている。名前を呼んだ時に
名前にこう返されるのが僕は好きだ。
「こっちおいで?」
手招きをすると花が咲いたように笑顔になって、こちらへ駆け寄ってくる。僕が座っているソファーの隣を数回軽く叩くと、またにっこり笑って
名前はそこへ腰掛けた。
「目閉じて?」
「目?」
「うん」
少し不思議そうにしながら
名前は、僕の言う通りに目を閉じた。その顔に思わずキスをしたくなるが、別の目的がある今は我慢。
手に持っていた小袋から今日買ってきたイヤリングを取り出す。台紙から外して、イヤリングの留め具を調節する。
名前の右耳朶へ触れると、ぴくっと
名前は小さく肩を揺らした。シリコンのクッションが付いたものを選んだが、慎重にそっとイヤリングの留め具を閉じる。
「痛くない?」
「うん、痛くないよ」
右耳から
名前の顔へ目を移すと、
名前の双眸と目が合った。
「まだ目を開けちゃダメだよ?」
「あ、ごめんなさい!」
急いで瞼を閉じる
名前が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「何も見えなくて、ちかちゃんの声しか聞こえないから何だか恥ずかしい……」
僕の笑い声に
名前はほんのり頬を染めていく。どうして
名前はこんなに僕の心を掴むことばかりするのだろうか。
「恥ずかしくても、まだじっとしててね」
「う、うん……」
左耳朶へ触れると、
名前はまた肩を小さく揺らした。右耳へ付けたようにイヤリングの留め具を調節して、そっと耳朶に付ける。
「はい。目を開けても良いよ?」
ゆっくり、
名前は瞼を開く。
両耳のイヤリングに触れ、こてんと可愛らしく首を傾げる。
「イヤリング、だよね?」
僕は返事の代わりににっこり笑って見せ、手鏡を手渡した。
名前は手鏡を受け取ると左耳、右耳と順番にイヤリングを鏡に写して見ていた。
「チューリップのイヤリング! かわいい……!」
名前の両耳で揺れているイヤリングは、ゴールドのワイヤーで一重咲きのチューリップと葉が型取られており、葉は淡い黄緑色に、丸みを帯びた大きな花弁は丁寧に一枚ずつ淡い紫色に染められている。
名前が顔を動かすたびに、左右二本ずつのチューリップが揺れる。
「今週末にチューリップ畑に行くからそれをつけて行ったらどうかな?って思ってね」
「嬉しい……! ありがとう、ちかちゃん!」
彼女は目を細めて幸せそうに顔を綻ばせた。
「どういたしまして」
名前はチューリップのイヤリングに触れながら、何度も何度も鏡に映してイヤリングを見ていた。口元を緩ませて笑っている
名前に癒される。
「紫色のチューリップの花言葉は知ってる?」
手鏡から目を離した
名前と目が合う。
名前は目をぱちぱちと瞬かせている。
「チューリップって花の色で花言葉が違うの?」
「そうだよ」
「そうなんだ! 紫色のチューリップはどういう意味があるの?」
「うーん……」
ここで素直に伝えるのも良いがどうせなら、と思いながら
名前へ僕のスマートフォンを手渡した。
「調べてご覧?」
名前は僕のスマートフォンを受け取り、両手で文字を打ち込む。『チューリップ』『紫色』『花言葉』の三つの単語をネットで検索し、検索画面の一番上をタップする。開いたページをスクロールし、紫色のチューリップについて書いてあるところで指を止めて、
名前は文字を目で追っていた。読み終えたところで
名前がスマートフォンから僕に目を移した。頬を染めて、目は少し見開いている。
名前が手に持っているスマートフォンの画面の下の方に、『本数別のチューリップの花言葉』と書いてあるのが見えた。
「チューリップの数は覚えてる?」
手を伸ばして、画面をスクロールする。
名前はまたスマートフォンへ目を戻して、イヤリングの四つのチューリップが表す意味を探している。そこに書かれてある言葉を読んだ
名前は勢い良く僕の胸に飛び込んできた。
「ちかちゃん、わたしも。わたしも……ずっとずっと、愛してる……大好き」
僕は胸に広がっていく甘い幸福感を噛み締めながら、僕の胸へ抱き付く愛おしい彼女の唇へキスを一つ落とした。
紫色のチューリップの花言葉は、『永遠の愛』
四本の花束は、『あなたを一生愛します』
End.