綾瀬川弓親と桜餅
二〇二四年 四月
※弓親と妹。現パロ。
「ただいま」
玄関の扉を開くといつも今か今かと自分の帰りを待っている
名前の姿はなかった。『仕事が終わったから今から帰るよ』と連絡を入れた際にはすぐに『お疲れ様! 待ってるね』と返事は返ってきたから家に入るはずだ。それに玄関には
名前の靴もあるし、部屋の明かりもついていた。
僕は
名前の靴の隣に脱いだ靴を並べ、リビングへと向かう。リビングへと繋がる扉を開くと何やら真剣に取り組んでいる
名前の姿があった。両耳にイヤホンをしてタブレットで講師が授業を行う動画を見ている。このイヤホンをしていたから僕の帰りに気づかなかったようだ。真剣な横顔が可愛らしく、それだけで仕事の疲れが癒やされた。
「……わ! ちかちゃん!」
僕の視線に気付いた
名前はいつの間にかすぐ近くに立っていた僕を見て、大きく驚いた。
「ごめんね、あまりにも真剣だったから邪魔したら悪いと思って。ごめんね、びっくりさせちゃったね」
「ううん。わたしも気付かなくてごめんなさい」
お互い謝った後に顔を見合わせて笑う。
「あっ!」
名前は僕の手に持っていた紙袋を見るとまた大きく驚いた。
「どうかした?」
名前はキッチンの方へと向かい、すぐに戻ってきた。僕が持っている紙袋に入っている物と全く同じ物を手に持っている。
「わたしも買ったの……桜餅……」
僕も紙袋から取り出す。外箱も、中に仲良く並んでいる二つの桜餅も全く同じ物だった。最寄駅でワゴン販売されていた桜餅。
名前と一緒に食べようと買ったものだ。どうやら
名前も同じ気持ちでこれを買ったようだ。
「被っちゃったね」
「そうだね」
また二人で顔を見合わせて笑う。
「わたし、ちかちゃんの食べてもいい?」
「いいよ。じゃあ僕はそっちを食べようかな」
隣にいない時もお互いを想っているという事実である四つの桜餅が僕の心を春の陽気のように温めた。
End.