(一角夢主の四席も登場します。名前変換不可です。)「
姐さん!」
非番の日に十一番隊隊舎にお邪魔し、鍛錬で十一番隊の方々が使った手拭いや死覇装、足袋を洗濯していると今日の天気のように雲一つない快晴を彷彿とさせる溌剌とした元気いっぱいな声で呼ばれた。
振り向くとやちるちゃんを肩に乗せたなっちゃんが大きく手を振りながらこちらへ駆け寄って来ていた。その数メートル後ろを剣八さんがゆっくり歩いている。
なっちゃんは私の目の前でしっかり立ち止まると、歯を見せてにこっと笑う。そして、背中に回していた手を正面に持ってくる。
「
姐さん、いつもありがとう!」
ふわっと花の香りと共に目の前に赤い花──カーネーションの花が広がった。
「
姐さんの作る料理が大好きだし、撫でてくれる
姐さんの優しい手も大好きだし、優しい声も大好きだし、あとあと! ブッ!」
「くるくる、長い! もう終わりー!」
なっちゃんの肩に乗っていたやちるちゃんがなっちゃんの両頬を手のひらでベチッと音を立てて挟み、言葉を遮った。たくさんの好きを伝えてくれていたが、まだ言い足りなかったのか今なっちゃんは眉を寄せて不満そうにしていた。
やちるちゃんがなっちゃんの肩から軽やかに飛び降り、私の足に抱きついて可愛らしく見上げた。
「
優ちゃん、今日は母の日なんだよ! いつもありがとう!
優ちゃんのこと、大大だーい好きだよ!」
「それでお花を用意して下さったんですね。ありがとうございます」
やちるちゃんの頭を撫でると「えへへ」と可愛らしい声が聞こえてくる。
「このお花ね、あたしが選んだの!」
「えー!? 副隊長、あたしと一緒に選んだじゃん!!」
「忘れた~。知らな~い」
「ひどっ!」
まるで姉妹のように仲が良い二人の会話に癒され、自然と笑みが溢れる。
今日は母の日。わざわざお花を用意し、気持ちを伝えてくれたことがとても嬉しい。
彼女たちのことが大好きで自分から進んでやっていることだが、こうしてお礼の気持ちが返ってくると幸せな気持ちになる。
「ふふ、二人ともありがとうございます。とっても嬉しいです……。なっちゃん、やちるちゃん。私も大好きですよ」
カーネーションの花束を受け取り、やちるちゃんとなっちゃんを抱き締めると、二人もまた幸せそうに笑い声をもらした。
「
優紫」
また、名前を呼ばれて目を移した。そこには剣八さんが少し気恥ずかしそうに立っていた。目が合うと背中に隠されていた右手を差し出される。違う花の香りがふわりと漂い、薔薇の花が視界いっぱいに広がった。
「まあ……剣八さんまで……」
「剣ちゃんも一緒にお花買いに行ったんだよ」
「そうなんですね」
三人でお花を買いに行った光景が頭に浮かび、可愛らしくて癒されてしまった。どんな話をしながらこのお花たちを選んでくれたのだろうか。そこに私も居られれば良かったのに、と思った。
「
優紫は俺の、母親じゃねぇけど……その、いつもの礼だ。いつも、ずっと……ありがとう、
優紫」
頬をほんのり赤くしながら私へ差し出す赤い薔薇の花束を受け取ると、剣八さんは嬉しそうに頬を緩ませた。そんな彼に私もつられて、同じように頬が緩む。
「こちらこそ、ありがとうございます。綺麗な赤い薔薇ですね」
「薔薇の花束は本数で意味が変わるらしい」
剣八さんにそう言われ、一つ一つ薔薇の花を目で数えていく。
「一、二、三、……全部で十一本ありますね。十一本の薔薇の花束は、どういう意味でしたっけ……」
本当はそれが表す意味を知っていたけれど、剣八さんの言葉で聞きたいと思ってしまった。首を傾げて尋ねると、先程より顔を赤らめた剣八さんに少し意地悪をしてしまっている気分になった。
剣八さんは私を抱き寄せて耳元へ顔を寄せた。そして、私だけに聞こえるように小さな低い声で囁いた。
「──最愛」
終