「剣八さん、やちるちゃん。お疲れ様です」
昼飯を摂ろうと思い、やちるを肩に乗せて食堂へ向かおうと一歩踏み出したところで声を掛けられた。死覇装の黒では無く、桜色の着物に身を包んだ
優紫だった。
「お昼まだでしたか?」
「これから行くところだったよ」
優紫の問い掛けにやちるが肩から乗り出して応えた。
「間に合って良かったです」
そう言うと庭にある桜の木を眺め、
優紫は微笑んだ。
「十一番隊も綺麗な桜が咲いてますね」
やちるがすんすんと鼻を鳴らし、俺の肩から降りると
優紫が手に持っている物を指差した。
「良い匂いがする!」
「みんなでお花見しながら食べようと思って、買ってきたんです」
優紫は手に持っていた物を俺たちに見えるように差し出した。
「桜餅だー!」
「美味しそうなちらし寿司のお弁当もあったので買ってきました」
「かわいいー! 桜が咲いてるみたーい!」
桜でんぶが散らしてあるちらし寿司の弁当が三つと、食後にちょうど良い大きさの桜餅が三つ。春らしい品々に胸がふわりと温かくなる。
「縁側に座ってお昼にしませんか?」
俺が頷くと
優紫は縁側に弁当と桜餅を置いた。それを間に挟むように
優紫が腰掛けた横に座るとやちるは俺の膝の上によじ登ってきた。
お弁当と桜餅がそれぞれ三つずつ並んでいることが嬉しくて、手を付けずにそのまま眺めてしまう。
「目で見て楽しむだけではなくて、味や匂いからも春を楽しめるから桜は素敵ですよね」
優紫の言葉に相槌を打って同意する。
「あ! 私、飲み物をご用意してきますね」
急に立ち上がると
優紫は部屋の奥へと消えていく。
「あたしも!」
いつものようにやちるはその後を追っていく。俺も手伝うために給湯室で飲み物の用意をしている二人の元へと向かった。
「剣八さんも温かいお茶でよろしいですか?」
優紫の楽しそうに弾んでいる声に耳からも春を楽しさを感じた。
終