幸せにするよ「俺と結婚して欲しい」
夕食を食べた後にいつものようにソファに並んで座り、テレビを見ていた。番組がCMに入った時に名前を呼ばれた。テレビから剣八へと視線を移すと、そんな剣八らしいストレートな言葉と共に指輪を差し出された。
「いいか?」
付き合う時から結婚を前提に、という話だったからいつかは来る未来だと頭では分かっていた。
けど、いざその場面に出くわすと直ぐには現実だと信じられず言葉が出なかった。答えはイエスに決まっているのに。
剣八は私の左手を取り、今度は小首を傾げて伺うように尋ねた。仕草は子供みたいで可愛らしかったが、私を見つめる深緑の瞳は真剣そのものだった。
なにが? なんて、そんな無粋な事は聞くまでもない。私が頷くと指輪を剣八は私の薬指に沈めた。もしかしたら夢かもしれない。そう思っていたが、肌にしっかり感じるそれにゆっくりと私の中に喜びと愛おしさが拡がる。そっと右手で指輪に触れた。ひんやりとした金属の冷たさ。でも暖かいと感じてしまうのはどうしてだろうか。
私の目から涙がこぼれ落ちて自分の手の甲に落ちた。
「まだ答え聞いてねェ」
剣八は私の頬を伝う涙を優しく拭う。
「結婚しよう、剣八。私が幸せにするよ」
私の頬に添えられている手に自分の手を重ねた。
私の言葉に剣八は呆れたように鼻で笑った。そしてゆっくり瞬きをし、幸せに溢れた笑顔を見せた。
「それは俺の台詞だ」
剣八の骨張った大きな手が優しく私の頭を撫でた。
終