どっちを『むく』の?(銀時)

  • ゆで卵を作った時、生卵と間違えないようにと殻に落書きをする。

  • これが割と楽しくて、いつも色々と遊ぶのだけれど、今日はふと悪戯心が生まれた。

  • まどか

    ……これで良しっと

  • 我ながら上手く描けた、銀さんの顔。

  • あのやる気の無い『死んだ魚のような目』を見事に表現でき、私は満足気に頷いた。

  • まどか

    こういう落書きも楽しいな。これからは皆の顔を描いてみるのも……

  • と、そこまで言った時、はたと気付く。

  • まどか

    ……卵って、割るよね

  • 考えてみたら、卵ってのは割って食べるものなわけで。

  • そうなるとこの顔もバリバリになっちゃうって事だ。

  • まどか

    銀さんの顔を割るのって、何か嫌だな……

  • 別に本人をどうこうするって訳じゃないのに、無駄に浮かんでくる罪悪感。

  • でもだからと言って、使わないで置いておくなんて事はできない。

  • まどか

    余計な事をするんじゃなかったー!

  • 銀時

    なァにが余計な事だって?

  • そこに都合良く現れたのは銀さん。

  • 私が頭を抱えているのを呆れ顔で見ていた彼は、作業台に視線を移した。

  • 銀時

    食べ物で遊ぶなって習わなかったのかよ

  • まどか

    遊んでないもん。それどころか人生の選択を迫られてるわよ

  • 銀時

    卵で人生って何ッ!? その卵にどんだけの影響力があんだよ

  • そう言って銀さんは卵を掴むと、まじまじと私の落書きを見る。

  • 銀時

    何だよこのぶっさいくなツラは

  • まどか

    いやソレ銀さんの似顔絵なんだけど

  • 銀時

    え? このイケメンが誰だって?

  • まどか

    手の平返すの早すぎるわっ!

  • あまりにも分かりやすい反応がおかしくて、私が笑って突っ込むと、銀さんは小さくため息を吐いた。

  • 銀時

    ったく、勝手に人の顔を描いて、わけの分かんねー悩み方してんじゃねェっての

  • そう言ってゆで卵を自らの額にぶつけた銀さんは、私の笑いが驚きに変わる間に殻を剥いてしまう。

  • まどか

    ああっ! 銀さんが……

  • 銀時

    あのなァ、銀さんは俺。これはただの卵だっつーの

  • まどか

    だって顔が……

  • 無残な姿となった銀さんの殻に手を伸ばすと、ペシリと軽く叩かれた私の手。

  • まどか

    何すんのよ。痛いでしょ

  • 銀時

    だから気にすんなっつったろ

  • まどか

    でも……

  • どうしても気にして殻を見てしまう私に腹を立てたのか、銀さんは両手で私の頬を挟み込むと、強引に銀さんの方に向けて言った。

  • 銀時

    目の前に本物がいるんだから、こっち向いてろってんだよ。

  • 銀時

    でなきゃ……

  • まどか

    ……え?

  • 不意に目の前が暗くなる。

  • 銀時

    卵の次は、お前を剥いちまうぞ

  • 唇が重なる直前に聞こえた銀さんの囁きは、少しだけ拗ねていた。

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