メンズバレンタイン(銀時)

  • 銀時

    ギリギリになっちまったけど、コレ

  • そろそろ日付が変わろうとする頃、突然銀さんが家に来た。

  • 真っ直ぐに突き出した手には、小さな手提げ袋を持っている。

  • まどか

    こんな時間にいきなり何?もう寝るんだけど

  • 銀時

    とりあえず受け取れよ

  • まどか

    何で?って言うか、そもそもコレ何?

  • 銀時

    だァから、開けてみりゃ分かんだろ

  • まどか

    もう、強引なんだから……

  • 押し付けられた袋を渋々開けて見てみれば、中に入っていたのはブラとショーツ。

  • しかも上下共に、私のジャストサイズだった。

  • まどか

    ねえ銀さん、これってどう言う事?

  • 銀時

    どうもこうも、見たまんま

  • まどか

    そうね、見たまんま下着だわね。新手のセクハラ?

  • 銀時

    ちげーよ!今日9月14日はメンズバレンタインっつって、男が女に下着を送る日なんだってよ

  • まどか

    何それ、初耳

  • 銀時

    マジかよ!

  • 銀時

    ……そんじゃ、この日に下着を贈られた女は、もらった相手にその下着を着けて見せてやんなきゃいけないっつー、厳しい掟があるのも知らねーのかよ

  • まどか

    はい?

  • 冗談だと思って流そうとしたけれど、目の前にある銀さんの顔は真剣だった。

  • まどか

    嘘だよね?そんなの私、聞いた事ないもん

  • 銀時

    あるんだよ!ってな訳で、今すぐ着替えろよな

  • まどか

    え……本気?

  • さすがに今着替えるのは抵抗がある。だってここはワンルームだし、バスルームの扉は磨りガラスだから、ボンヤリとは言え、着替える姿が見られてしまう。

  • まどか

    いくら何でもそれは……

  • 恥ずかし過ぎるからと拒否の姿勢を示した私に、銀さんは鋭い視線で言った。

  • 銀時

    着替えなかったら、真選組に捕縛されちまうぜ?

  • まどか

    そこまでの強制力!?

  • 銀時

    そーそー。ほら、今日中に着替えねーと違反になっちまう。あと5分!

  • まどか

    わ、分かったわよ!あっち向いててよね!

  • 銀時

    へーへー

  • 追い立てられながらバスルームに駆け込む私に、少し不満げな顔をしながらも、銀さんは素直に後ろを向いてくれた。

  • ーーそれにしてもそんな掟、いつ決まったんだろう。新聞で見た記憶も無いけどなぁ。

  • 銀時

    あと4分。着替えたか?

  • モタモタと着替え始めた私を、銀さんが急かす。

  • まどか

    ちょ、ちょっと待って!ホックが……

  • 銀時

    そんじゃ、俺が止めてやっから

  • まどか

    え?あ、でも……

  • 焦る私をよそに、スルリとバスルームに入り込んできた銀さんが、私の後ろに回った。
    しかも、だ。

  • まどか

    やっ、バカ!触るとこ違うってば!

  • 銀さんの手は、私の胸を鷲掴みにした。

  • 銀時

    寄せて上げただけだろーが。大事な作業だろ

  • まどか

    それはそうだけど……じゃなくて!自分でやれるから大丈夫!

  • 飛び跳ねるように銀さんから離れ、急いでブラを着ける。

  • 銀さんに触れられた驚きと、大きな手から伝わって来た熱は、私の心臓の鼓動を早めていた。

  • まどか

    ほんと、一体何なのよ、メンズバレンタインって

  • 赤くなった頬を誤魔化すように、怒りながら言う。

  • 銀時

    結構昔からあったみたいだぜ。下着メーカーの陰謀だけどな

  • まどか

    じゃあこの変な掟とやらも、そんな昔からあったんだ?

  • 銀時

    あ、それは俺が今作ったから

  • まどか

    ……

  • まどか

    ……はぁ!?

  • まさかの答えに、一瞬時が止まった。

  • まどか

    って事は、私を騙したわけ!?

  • 銀時

    騙しちゃいねーよ。お前に着て欲しくて買って来たわけだしな

  • まどか

    私のために買って来てくれた事自体は一応感謝したとしても、このやり方は無いよね?

  • 驚きと恥ずかしさとで、頭がパニックになっている。

  • まどか

    もうアッタマ来た!さっさと帰っ……!

  • そう怒鳴りかけた時ーー。

  • まどか

    ……っ!

  • 銀さんが突然私を抱きしめた。

  • 銀時

    帰らねェよ

  • それは、普段聞いたことのないような、切なげな声。

  • まどか

    銀さん……?

  • 銀時

    今日は強引に告白して良い日だからね。銀さんはイベントを大事にするわけよ

  • まどか

    ちょっと銀さん、強く抱きつき過ぎ!苦し……

  • 抱きつく力があまりにも強くて、抗議しようとした私に、銀さんはどうしたか。

  • まどか

    ん……っ!

  • 何の予告もなく重ねられた唇は、私の言葉を全て飲み込んでしまった。

  • 銀時

    まどか

  • 下唇を付けたまま、銀さんが私の名を呼ぶ。

  • 銀時

    お前が好きだ

  • まどか

    銀……さん……

  • 囁くように言われた告白は、嘘偽りの無い物だと、何故か確信があった。

  • 銀時

    まどかがババアの店にバイトで入った日から、ずっと気になってた

  • 銀時

    毎日顔を突き合わせてんのに、告白するキッカケが見つけらんなくてよ

  • 銀時

    このメンズバレンタインとやらが、強引に告白して良いっつーのを聞いて、便乗しちまった

  • 銀時

    ……迷惑だったか?

  • 不安そうに私を見る、赤い瞳。

  • いつもは意地悪ばかりしてくる癖に、まるで叱られている子犬のような眼差しに、思わず笑みが溢れた。

  • まどか

    迷惑なんかじゃないよ

  • 銀時

    本当に?

  • まどか

    こんな状況で、嘘ついてどうすんのよ

  • 銀時

    マジか……あ〜良かったァ

  • 心からホッとした表情を見せた銀さんは、再び私に口付けてきた。

  • 銀時

    そんじゃ、今この瞬間から俺たち、恋人同士って事だよな

  • まどか

    え?あ、うん……そうなるね

  • 改めて言われると照れ臭くて、目が合わせられなくなる。

  • 銀時

    ……まどか

  • そんな私に、銀さんは優しい声で言った。

  • 銀時

    お前からも、好きだって言ってくんない?

  • 銀さんの吐息と共に、耳元で囁かれたおねだりは、私の心を熱くする。

  • まどか

    私も……銀さんが好きだよ。多分、初めて会った時から

  • 銀時

    そっか

  • 私の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った銀さんは、先ほどまでとは違う深いキスを求めてきた。

  • それは、想像もしていなかった快感を私に与えるもので。

  • まどか

    は……っん……

  • 全身が、熱を帯びていく。

  • 銀時

    悪ィ、まどか。せっかく下着を着けてくれたんだけどよ

  • 息の上がった私を見ながら、銀さんは言った。

  • 銀時

    そろそろ日付も変わるし、今度は下着の代わりに、銀さんを着けてくんない?

  • 銀時

    まどかの全てを、俺で包みてェんだわ……

  • その表情は、今までに見たことのない艶を秘めていて……。

  • 私が答える間も無く、背中に回された銀さんの手がホックに触れるのを感じた私は、何も言わずに銀さんを見上げ、まずは口付けをせがむように目を閉じた。

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