付き合い始めて一カ月ほど経ったある日、ふと気付いた。

ちょっと前までは、暑苦しいくらいにベタベタと触れて来てたのに。いつも通りおばかな会話はしていながらも、奇妙な余所余所しさがあった。

――何で触れてくれないの？

なんて事、言えるはずがないじゃない。銀時のバカ！

悶々としながら一人寂しく外出すると、通りすがりに出会った土方さん。

話を始めて二言三言。その直後に土方さんに抱き締められている私に、一体何が起きているのか。

強い力で私の頭は土方さんの胸に押し付けられる。

初めて触れた土方さんの体は想像以上にガッシリとしていて。なるほど、真選組副長だけの事はあるなと素直に感心した。

そう言いながら頭に口付けてくる土方さん。

この人の場合、この行動にも何か真意があるんだろうけれど、それを読み取れない私の頭は疑問符で一杯だった。

土方さんの言葉に耳を澄ましてみれば、遠くから聞こえる慌てたような足音。これはもしかして――。

怒鳴り声と同時に土方さんは突き飛ばされ、私は強引に引っ張られる。

あまりの勢いにクラクラしてしまったけれど、倒れ込むように抱きしめられた腕はとても安心できる物だった。

土方さんに冷静に言われ、ハッとする。

全く気付いてなかったけど、今の私は銀時に後ろからしっかりと抱き締められていた。

その事実に、さっきまで悶々としていた感情が一気に爆発する。

自分でも驚くほどに大量の涙が溢れ出て、止まらなくなってしまった。

慌てる銀時。でも土方さんは相変わらず冷静だった。

次から次へと涙は溢れてくる。

この状態で私がきちんと答えられるはずも無く、ポケットから取り出したハンドタオルを顔に押し付けながら、ただ泣く事しか出来なかった。

焦りなのか、それとも怒りか。多分両方なのだろう。私を抱きしめた腕を離さず、土方さんに怒鳴る銀時。

そんな銀時を見て、呆れたようにため息を一つ吐いた土方さんは言った。

土方さんの話に驚き、涙が止まる。

銀時が慌てて止めようとしても、土方さんは少し意地の悪い笑みを浮かべて話を続けた。

例のごとくの突っ込みが銀時から入る。

思わず吹き出してしまった私は、土方さんを見て言った。

それはいらないとばかりに手を振りながら立ち去っていく土方さん。

頭の上から聞こえる、拗ねた声。

それでも私を腕から離そうとせず、しっかりと抱きしめている銀時は、私の頭に顔を埋めた。

私が答えると、銀時の体が小さく震えたのが分かった。

顔は見えていないけれど、相当なダメージを受けた事は間違いない。
それならば、と私は話を続けた。

まるで囁くように小さな声で、銀時は言う。
これまでにも銀時は、何度か私に同じ質問をして来た事があった。

あの時は答えが分かっているからこその、自身に満ち溢れた表情によって紡がれていたけれど。

今私の耳に届いたのは、弱々しくて不安しか感じられない声。
私は小さく口の端を上げると、私を抱きしめている銀時の腕にそっと手を当てて言った。

銀時の胸にもたれかかり、目を瞑る。

温かくて優しい銀時の腕の中は、本当に心地良くて。凄く幸せな気持ちになれた。

クスクスと笑えば安心したのか、銀時の声のトーンが戻ってくる。

そう言って銀時は私の顎に手をかけると、少し強引に持ち上げて唇を重ねて来た。

息が上がるほどに濃厚なキスは、いかに銀時が本気かを伝えてくる。

疑問に答える事なく私を強引に抱き上げた銀時は、そのまま走り出した。

笑いながら走る銀時の顔は明るい。
目指す方向にあるのは、万事屋。

ニヤリとイタズラっぽく笑う銀時に、恥ずかしさで

とは言ったものの、本当は期待に胸を膨らませてしまっている自分がいる。

――この事は、銀時には秘密にしておこう

そう思った私は、少し拗ねたふりをしながらも、銀時に身を任せる事にしたのだった――。