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戯れで作った、銀八先生名義のTwitterアカウント
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鍵垢にしておけばどうせ誰にも見られないしと思い、一人で遊んでみることにした
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二人きりの意味深な会話をイメージして、アカウントを切り替えながらDMでやり取りをする
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まどか
銀八先生に質問です
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坂田銀八
何だこのヤロー
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まどか
先生は彼女いない歴何年ですか?
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坂田銀八
いないの前提で聞くんじゃねーよ
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まどか
では、女性に触れてない歴何年ですか?
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坂田銀八
ふざけんな。昨日コンビニのねーちゃんから釣り銭もらう時に手が触れたわ
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まどか
最後にキスをしたのはいつ、誰とですか?
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坂田銀八
あー……確かあれはーー
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そこまで書いて、手が止まった
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全部私の勝手な想像だし、あの童貞代表みたいな先生に、そんな経験あるはずない
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だらしなくて、やる気もなくて
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いつだって死んだ魚のような目をしてて
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あんなどうしようもない男なのにーー
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まどか
好き
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……になっちゃったんだよなぁ……
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でもこの気持ちを伝える事は許されない
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教師と生徒の恋愛なんて、漫画やドラマの世界だけの話だもん
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だったらせめて、この場所くらいは……
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自作自演の世界でなら……
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坂田銀八
最後のキスは……今、かもな
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まどか
え……?
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坂田銀八
まどかとキスすりゃ今になるだろ?
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まどか
それって……
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坂田銀八
そんじゃ、目ェ瞑れ。先生が大人のキスを教えてやっから
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まどか
……はい
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坂田銀八
そーそー。素直な子はだいすfpv。9l;r
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妄想をそのまま文字にして打ち込んでいると、突然掴まれた手
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驚いて顔を上げれば、そこには本物の銀八先生が立っていた
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まどか
せ……んせ……い……
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坂田銀八
何やってんだお前。もうとっくに下校時間過ぎてんぞ
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まどか
あ、いえ、その……
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まどか
すみません! すぐ帰りますっ!
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打ち込むことに夢中で、周りが見えていなかったことを後悔する
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さすがに気まずいと慌てて立ち上がり、この場を離れようとした
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ところがーー
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坂田銀八
ちょっと待った
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まどか
……え?
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目の前で、信じられないことが起きている
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いつの間にか、私のスマホが銀八先生の手の中にあったのだ
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まどか
それ、私のスマホ……!
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坂田銀八
何だよ。別に盗んだわけじゃねェぞ
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坂田銀八
お前が立ち上がった時に、滑り落ちそうになったのをキャッチしただけだ
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まどか
あ、ありがとうございます
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そんなはずは無いんだけれど……とは思いながらも、実際銀八先生の手の中にあるのだから仕方ない。私はおずおずと手を差し出した
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まどか
それじゃあ返してください
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坂田銀八
んにゃ、ちょっと待て
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まどか
何でですか? 学校はスマホ持ち込み禁止じゃないですよね
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坂田銀八
別に違反したとかじゃねェよ
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坂田銀八
この画面、どういうことだ?
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まどか
……っ! 勝手に見ないでくださいっ!
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妄想の会話を読まれてしまった事が確定し、恥ずかしさで真っ赤になった
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坂田銀八
俺はTwitterのアカウントなんざ作った覚えねェんだけど
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まどか
それは……
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当たり前の疑問に、答える勇気はない
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恥ずかしさと軽率な行為への後悔で固まっていると、銀八先生が言った
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坂田銀八
随分と勝手なこと書いてくれちゃってんなァ。先生を何だと思ってるんだっつーの
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まどか
……ごめんなさい
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何も言えず、俯きながら謝罪する
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きっと呆れられただろう。ずっと秘めていた恋心も知られ、立場がない
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頭が真っ白になった私は、零れ落ちそうになる涙をただ堪えることしか出来なかった
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そんな私を見てため息を吐いた先生は、私のスマホを操作し始める
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坂田銀八
悪いが、消させてもらうぞ
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まどか
え……? あ、はい……
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消したところで意味でもあるんだろうか?
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理由は分からないけれど、何も言える立場では無いから。私は素直に頷いた
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それから数分後
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坂田銀八
ほらよ
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まどか
……はい
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スマホを返され、受け取る
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坂田銀八
もう勝手に人のアカウントなんざ作るなよ
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まどか
すみませんでした
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改めて謝った私は、アカウントが消えているかを確認するためTwitterを確認した
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まどか
……あれ? 消えてない
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画面に大きな変化は無い。しかも会話の内容も残っている
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まどか
先生、データを消したんじゃ……?
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先生は私のスマホに一体何をしたんだろう?
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坂田銀八
ばァか、よく見ろよ
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まどか
見る?
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わけも分からず、促されるまま改めて内容を確認した私は、ようやく気づいた
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まどか
先生、これ……!
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それは、さりげなく書き換えられた会話
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まどか
銀八先生に質問です
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坂田銀八
おう、何でも答えてやらァ
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まどか
先生は彼女いない歴何年ですか?
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坂田銀八
この質問の答えは後回しな
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まどか
では、女性に触れてない歴何年ですかー?
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坂田銀八
触れるだけならしょっちゅうあるに決まってるだろーが。っていうか何でコンビニのねーちゃんのこと知ってんだ?
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まどか
最後にキスをしたのはいつ、誰とですか?
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坂田銀八
それはこれからお前が決めてくれんじゃねェの?
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会話はそこまでで途切れていた
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思わず先生を見る
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まどか
子供だからって……からかってるんですか?
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坂田銀八
んなこたァしねェよ
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坂田銀八
大体こんな冗談、言えるはずねェだろ
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坂田銀八
それよかお前に聞きてェ
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坂田銀八
教師と生徒ってなァ、茨の道確定だ。それでも俺の胸に飛び込んでくる勇気はあるか?
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そう言った先生の目は、いつもの死んだ魚の目とは違い、とても真剣だった
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ならば、迷いはない
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私は先生の目をまっすぐ見て答えた
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まどか
はい!
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坂田銀八
……そうか
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フッ……と優しく微笑んだ先生が、私の頬に触れる
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坂田銀八
そんじゃ、さっきの質問の答えをもう一度な
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指で頬を撫で、最後に唇をなぞった先生は、ゆっくりと私に顔を近づけた
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坂田銀八
彼女いない歴は0日。女性に触れてない歴も0日。そんでもってーー
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様子を伺うようにそっと触れた唇は一度離れ、その後は安心したように深く何度も重ねてくる
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坂田銀八
最後にキスをしたのは今。教師と生徒ってタブーを犯してでも手に入れたいと思っちまった、まどか……お前とだよ
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そう言って私を抱きしめた先生は大人の余裕を見せていたけれど
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胸に押し当てた耳に聞こえていた鼓動の早さを隠せてはいなかった
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