《いつか見た未来 想い重ねて》


泣きそうになるみおを見て少しだけ胸が痛んだ。
他人の心にずかずかと入り込むというのはこういうことだろう。
俺はいま、みおを傷つけている。
その自覚はじゅうぶんにあった。
あったけど、きっといまここでちゃんとわからせないと、この仕事もこれからの彼女も上手くいかない。
そしてなによりわからせないといけないことがあった。

「なんでみおは、他人の俺と無謀な夢を追いかけてんの? 」

投げかけたそれにみおは困ったように視線をさまよわせた。
「お前がいちばんよくわかってるはずだ。Krieg Liedの実力を。そんなあの人たちすら少しだって歯が立たないふろろずを超えるなんて無謀だろう? 2期生だって俺らよりずっとすごい。それでもあの人たちを前にしたら少しも相手にならないんだよ。なのにおまえは少しだってあきらめない。……それはなんで? 」
「なんでって……だって……私たちはアイドルで、妥協はゆるされなくて……それで……」
一生懸命自分の感情を整理している様が見える。
「努力しても報われないかもしれないよ? それを他人の俺と追いかけるの? 」
「何が言いたいのよ……っ! はっきりいいなさいよ! 」
ついに涙を浮かべた彼女をみて、俺は小さくため息をつく。
「ふろろずを超えることは、現実的でも効率的でもない。自分の無力さに何度も傷つくだろうさ。それでも追いかけようと思うのは……小難しい事じゃなくて純粋にアイドルが好きだからだろ? 」
みおがハッと顔をあげる。
「臆病者のみおちゃんはいつも傷つかないように言い訳を並べて目をそらす。それでも本当にすきなアイドルだけはそうは出来なかった。……数え切れないほど傷ついてきただろうよ。……それでもアイドルをやめなかった。……叶わない夢を追いかけるのはばかばかしいなんて言ってるお前は、叶わないかもしれない夢を追いかけてる」
みおがなにかを言いかけて言葉を飲み込んだ。
「結婚なんておれもわかんねーし、ここにいるやつらはだれもわかんねーよ。ってか、結婚したやつにしかわかんねーだろ。けど……一生とは言わないけど、自分の人生を少しでも一緒に歩んでくれるパートナーがいるってどういうことかは、なんとなくわかる……」
へ? と間の抜けた声が聞こえて、俺は苦笑いを浮かべる。
「だってそうだろう? みおちゃんという一人の女の子としては……わかんないし、なんか……すんごいめんどくさそうだけど……。俺はさ、妃澪麗というアイドルの隣を一緒に歩む……唯一無二のパートナーじゃん? 」
目を丸くしたみおをみてふっと笑う。
「ちょっと意地悪がすぎたかな? ……でもこれだけはわかってもらわないと困るからさ。……BluE RosEは、みおひとりじゃない。俺もいる。だから俺にも背負わせてよ、いろいろ」
「あなたのこと……忘れてた」
みおがぼそっと呟く。
「うっそ!? ひど……。え、ひど……」
「ちがう。忘れてたわけじゃない。でも……私は自分のことしか見えてなかった。隣をあなたも歩いていることを忘れてた。……でもこれだけは言わせて。叶わないってわかってて無謀な夢を追いかけられてるのは……あなたが一緒にいるから。私ひとりだったら簡単に諦めてた。咲輝とならうまくいくかもしれないと思ったから、研究生のときから……ここまで諦めずに来れた。それだけは……信じて」
「信じるもなにも……俺はその言葉を吐き出させるために心を鬼にしてみおちゃんに意地悪な言葉をぶつけたんだ。悪かったね……」
「……ほんとに。殴ってやろうかと思った……」
口をとがらせたみおが呟く。
「それで? 結婚とはなにか!! ってのは解決した? 」
「そうね、あなたのおかげで……」
「そっかそっか! そりゃぁよかった」
「ありがと、咲輝。あと……」
これからもよろしく。
少しの物音でかき消されてしまうほど小さな声で呟かれる。
それを俺は聞き逃さなかった。
「こちらこそ。……改めて絆が深まった俺たちの最初の仕事がウエディング……! いいねぇ。しっかりエスコートしますよ、花嫁様」
はっはっは、と笑う。
なんともむずがゆいこの空気を変えるためだった。
みおのことだ。絶対「なにバカ言ってるの。調子に乗らないで」なんて言うに決まってる。
そう思っていたのに……
みおは「ええ、お願いね」なんて綺麗に微笑んだ。

END

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