《HELLOWEEN PARTYをみんなで》


きさちゃんが浮かない顔をしている。
誰かとばちりと目が合えば慌てて笑顔を浮かべて、気付かれないように小さなため息をついていた。
理由はなんとなく察している。

「今日の夕飯当番ってー……」
お腹すいたぁと項垂れながら咲蘭が呟いた。
「あー、俺だぁ。オムライスでいいっしょ? っていうか俺それくらいしか作れないし。すぐ準備するね。……っと、ケチャップケチャップ……」
冷蔵庫を開けてみると残りわずかなケチャップが転がっている。
「だよねー。……きさちゃーん。悪いんだけど、お買い物付き合ってくれない?」
「うわ、こんな時すら口説こうとしてる」
ゆいがヘラヘラと笑った。
「うん、別にいいよ」
浮かべられた笑顔は疲れきっていた。

「ねー、きさちゃん」
「なあに?」
「俺たちに、隠してることあるでしょう?」
ケチャップを買った帰り道、なんとなく寄ってみた少し大きめの公園。
人目のつかないそこに着いた時、俺は笑いながらきさちゃんに言った。
「……やっぱり、バレてたんだ……」
苦しそうな表情。
「話してくれない? もちろん誰にも言わないって約束する。……二人だけの秘密ってやつだね」
いつもの様にヘラヘラと笑いながら言っても曖昧に笑って誤魔化すだけだった。
「ハロウィンパーティー」
「……あー」
「聞こえちゃって。……サポートしなければならない立場の私が、みんなに気遣わせてしまうなんて……。社長代理失格ですね……」
そんなことだろうと思った。
「俺たちは好きでやってるんだ。好きにやらせてよ。……気遣うとかそんなんじゃないよ。俺たちはただただきさちゃんを笑顔にしたいだけなんだ。いつもファンのみんなにそうするように。……だって俺たちのことを一番に想ってくれてるファンはきっときさちゃんでしょう? それをみんなわかってるから、なにかしたいんだよ。アイドルとして」
だから気にしないでよ。
ポンっと頭を撫でればようやくきさちゃんが笑った。
「俺さー……研究生時代から歌でみんなを笑顔にしたいって。そんなヒーローになりたいってずっと言ってるでしょ?」
「そうだね」
「アイルたちとの圧倒的な差に挫けそうになって、どう頑張っても上手くいかなくて諦めそうになって……それでもずっと頑張れたのはさ、きさちゃんのおかげなんだよ。……きさちゃんが笑うと俺も嬉しくなる。きさちゃんの笑顔を守りたいって思ったんだ。……ってのが、アイドル・氷月花楓の原点なんだよ? へへっ」
「HEROSの原点が……私。……ふふっ。光栄です」
「だから守らせてよ。きさちゃんの笑顔。きさちゃんのヒーローでいたいからさっ」
「……ありがとう、ひつくん」
「さて、と。帰ろう、きさちゃん。……みんなが待ってる」
手を差し出せば、そうだね、ときさちゃんがその手を握ってくれた。
今日イチの笑顔を浮かべて。
少しはきみのヒーローになれたかな?


to be continued…
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