《星空を見上げて》


事務所から最寄りの駅から電車に乗って一時間弱。
たどり着いたのは海だった。
ちょうどいい感じに茜色に染まっていた空は真っ暗になり星が光り輝いていた。
風が吹く度に潮の香りが漂ってくる。
頬を撫でる風はだいぶ冷たくなってきた。
「うーん! やっぱり海はいいねぇ! 」
「……そうだな。ははっ。そういえばあさ、なにかあるとすぐ海に行くーって騒いでたもんなぁ」
「見て、にぃに! 星も綺麗だよ」
「ほんとだな」
「光り輝く……。にぃにの名前と一緒だね」
そう言えば、にぃにはははっと擽ったそうに笑って「なんだそれ」と呟いた。
「私ねー、小さい頃からずーっとアイドルが好きだったにぃにがだいすきだったんだぁ。そして、アイドルになっても少しとも手を抜かずに一番のアイドルでい続けるにぃにのことも大好きだよ」
「ありがとう」
「でもね、にぃに。忘れないで? 私もFloral Roseだよ。そしてこれでも一応、私もウィレプロの顔と言われてるんだなぁ 」
にぃには目を丸くすると何かを言おうと口を開いて固まる。
「ふふ。もう昔みたいにどうして私を頼ってくれないの?とか 置いていかないでよ、なんて言うつもりはないけど……その代わり私はいやだって言われてもにぃにの隣から離れるつもりないので! ……だから、いまさら難しそうな顔して隣にいてくれてありがとうなんて言わないでよ。私が隣にいたいからいるだけなんだし。それにいまはFloral Roseっていうユニットのパートナーなんだからさっ!」
「……ありがとう、あさ」
そう言って微笑む彼の表情が幾分か柔らかくなったのを見てほっと胸を撫で下ろす。
するとわしゃわしゃと乱暴に頭を撫でられた。
「わーっ!? なになににぃに! 」
「かっこいいこと言いやがってぇ。泣き虫なくせに」
「今はもう泣き虫じゃありませんー!」
「うそつけー! 」
声をあげて笑うにぃにを久しぶりに見た気がする。
それがなんだかうれしくて勢いよく抱きつけば、にぃには楽しそうに笑ったあと「ありがとう」と小さく呟いた。
だからそういうのはいらないって言ってるのに。
そう言おうと顔をあげれば優しく微笑むにぃにと目が合う。
「楽しかったよ」
「ん? 」
「デート」
くくくっと笑うにぃににつられて私も笑う。
楽しそうに笑うにぃにを見て、ほっとしたのかなんなのか、泣きそうになる。
でもバレたらきっとまた「泣き虫だ」と言われるから、ぐっと堪えて私はもう一度星空を見上げた。

to be continued…
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