《シャッフルウエディング》


五月の終わり。
俺たちわんにゃんに仕事の話がやってきた。
仕事内容はアイドル雑誌のウエディング特集の撮影とインタビューらしい。
そしてその企画にはTwilightの二人も参加することになっていた。
「きーちゃんたちと一緒に仕事って……ライブ以外では初めてだよね。なんかしんせーん! 」
ウィレプロが主催とするライブやレギュラー番組に出ることはあっても、俺たちはあまりその他での仕事というのは正直そこまでの頻度ではなく、久しぶりのお仕事に胸が高鳴っていた。

さらに詳しい詳細を聞くまでは。

六月に入って早々、俺たちは打ち合わせに訪れた。
慣れない俺たちと違って当たり前のような顔をして振る舞っているきーちゃんとあゆむんを見て、やっぱりTwilightはすごいよなー、なんて思ったりした。
俺たちよりも後に2期生としてデビューした二人は、俺たちよりもずっと輝いていたし佇まいからもう比較のしようがなかった。
それくらいにすごい人たちだったんだ。
そんなすごい人たちと一緒に仕事をするのだからワクワクするというものだ。
しかし打ち合わせの時に知らされた企画内容にその気持ちは一瞬にして消え去ってしまった。
「わんにゃんとTwilightはパートナー同士の仲の良さが共通した魅力のひとつだと思っているのですが《新しい一面をお見せする》というのがこの雑誌の一番の売りでもありまして……」
そういって担当の人がサラリと言ったんだ。
「今回のウエディング企画はお互いのパートナーを交換、という言い方をしてもいいのかな? ……シャッフルウエディングをしていただこうと思います」
瞬間で頭が真っ白になった。
そんな俺とは逆にひなちは「おー、おもしろそうですねー」なんて乗り気でいた。
その後に続いた説明を俺は半分聞いて半分聞き流してしまっていたと思う。
それどころではなくなっていた。
「では、当日はよろしくお願いします」
担当の人のその言葉と同時にきーちゃんとあゆむんが立ち上がり「よろしくお願いします」と頭を下げていた。
遅れて俺たちも勢いよく立ち上がり頭を下げる。
去っていったのを確認してから、ふー、と深く息を吐いて座り込んだのは一番冷静な対応をしていたきーちゃんだった。
「あっはは。おつかれ、きーちゃん。ほんともうこのシチュエーション何十回とやってんのにまったく慣れないねー」
へらへらと笑うあゆむんにつられるようにしてきーちゃんも笑った。
そして俺の方をみると彼女ははにかんだ。
「アイドル歴もそこそこでそれなりに場数を踏んでいるはずなんだけど……初対面の人とお話をするの……すごく緊張しちゃって、正直苦手なんだ」
「なんか意外……。きーちゃんてなんでもさらっとこなしちゃうイメージなのに」
俺が言うとあゆむんときーちゃんは顔を見合わせて笑った。
「最高の褒め言葉をありがとう、ゆずちん」
語尾にハートがつく勢いであゆむんが声を弾ませてそんなことを言う。
「きーちゃん、それを悟られたくなくていい感じに立ち回るのが上手になってきてね。だからゆずちんみたいな感想はきーちゃんには最高の褒め言葉」
まるで自分が誉められたかのように嬉しそうに語ってくれる。
「それにしてもまさかパートナー交換ときたかぁ……」
大きく伸びをしながらあゆむんが呟く。
「大丈夫? みんな」
あゆむんのひとことにその場に沈黙が流れる。
「どーなんっすかねぇ……」
ひなちがちらりと俺の方を見て小さくつぶやいた。
「うーん……。あ、そうだ。今日はもうこれでお仕事も終わりだし……女の子は女の子同士、男の子は男の子同士……デートなんて、どうかな? 」
きーちゃんの唐突な提案に一瞬変な間が出来たが彼女の意図を汲み取ったらしいあゆむんが「いいね、それ! 」と笑顔を浮かべた。
続くように「じぶんも特に用事はないので」とひなちも返事をする。
なにゆえにあゆむんとデートをしなければならないのかよくわからないが断る理由も特にないし俺もそれに乗っかることにした。

満場一致で決まり、ひなちときーちゃんはどこかで甘いものでも食べて帰りたいねー。なんて話をしながら帰っていき俺たちだけが残される。
「不安? 」
あゆむんの問いかけに俺は言葉が詰まる。
「隣にひなちがいないから不安? それとも隣が……きーちゃんだから不安? 」
「わからない……」
「わからない……? 」
あゆむんがオウム返しする。
「……当たり前のように俺の花嫁さん役はひなちだと思っていたから……ちょっと変な感じがするんだ」
「その気持ちはわかるよ。きっと……みんなもそうだから。僕も……ちょっとだけそうだから」
困ったような表情。
きーちゃんそっくりなその表情は、彼に出会ってから初めて見る表情だった。
「学校でも事務所でもずっと一緒で、レッスンもステージもずっと一緒で、嬉しいことも悔しいことも苦しいことも全部一緒に感じてきたから……なんか変な感じなんだよねえ」
チーム公演は別なのに不思議だよね、とあゆむんが笑う。
「俺さ、本当は……きーちゃんの隣に立つ自信がないんだよ。……だってきーちゃんは……すごい子だから。……すごく、すごい子だから…」
「それはゆずちんがまだまだきーちゃんのことを知らないからだよー」
あの子はみんなが思ってるより不器用で、みんなが思ってるより頑固者で、みんなが思ってるより緊張しぃで、みんなが思ってるよりずっと臆病者なんだよ。
なんだか楽しそうな嬉しそうな……そんな顔をして声を弾ませているあゆむんを見て俺は「そっか」と呟く。
確かに俺はきーちゃんのことを知らなさすぎるんだ。
さらに不安になってきたなあ。
そんなことを言ったらあゆむんを困らせてしまうからその言葉を飲み込んで俺は「ほんとあゆむんはきーちゃんのこと大好きだよね」と精一杯声を弾ませて笑った。


……To be continued


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