《追いかける背中 あこがれと誓い》



とある日、アイドルたちは希咲たちに呼び出されて一室に集められた。
そこにいたのは一期生と三期生、そして二期生の香月冬哉と咲真喜佑だった。
そしてその場に座って待機しているアイドルたちの前に現れたのは希咲とダンスコーチであり希咲がやってくるよりも前から元祖一期生とともにウィレプロを守ってきたマネージャー・城東桜華だった。
前列に座っていた葵と晃、唯都は一瞬顔をしかめた。
彼女が前に出てきていい話を聞いたことなどなかったからだ。
今回はどんな無茶振りをされるのだろうか。
いったいその犠牲となるのは誰なのだろうか。
そんな事を考えては小さくため息を付いた。
まるでそれを合図にしたかのようにそれまで表情を変えなかった桜華がくすりと微笑んで「はーいちゅうもーく」と気だるそうに口を開いた。
「日向ー。TAKEは今年で何年? 」
葵と隣で膝を抱えていた麻香が「へ? 」と間の抜けた声を出してから「今年の四月で二年になるけど……」と首を傾げた。
「二年。……うん。いい頃合いね」
桜華の思わせぶりな発言にざわつく。
「はいしずかに。……今年の4月1日。ちょうど二年前TAKEがデビューした日ね。……TAKEのライバルユニットをデビューさせる。ユニット名はRISE。ユニットメンバーはもう決まっている」
「俺らのライバル? 」
喜佑がはんっと鼻で笑い「きーくん」と麻香が窘めている。
「そうそれよ。あんたたちは何を勘違いしているのか自分たちが無敵だと思いこんでいる」
特に日向。
そう言われて一瞬にして場の空気が凍った。
「へー。私が天狗になってる、ってそういうこと? 」
いつもと変わらない柔らかい声色で、しかし桜華に向ける視線は鋭く冷たかった。
そんな麻香の様子を隣で見ていた葵はこの子だけは絶対に敵に回したくないなー、なんて他人事のように思って小さく身震いをした。
「そうよ。三連覇をとった。それは誇るべきことで私も誇らしく思う。でもそれとは別にあんたの言動の節々に《誰も私に追いつけるわけがない》という感情も見え隠れしてる。あんたや高谷が思ってるよりもずっと下も能力を開花しているのよ」
麻香は何かを言おうと口を開きかけてギュッと唇を噛む。
「下は育ってる。……それを見せつけてやりなさい」
桜華はぐるっとアイドルたちを見回してふぅっと息をつく。
「じゃぁ発表するわよ」

緊張感が室内に漂う。
誰もができることなら敵に回したくないのだ。
現在無敵とも言える日向麻香も、未来のウィレプロに必要不可欠と言われる喜佑と冬哉を。
態度には出さないがアイドルたちは祈っていた。
どうか、自分ではありませんように、と


1/5ページ
スキ