記憶の問題
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朝五時過ぎに目覚ましが鳴った
早起きにも慣れたものでアラームを止めた後、サクッと起き上がる
着替える為にクローゼットへ向かうと
途中、テーブルの上に見覚えの無い物が何個か目に入った
見た事無いぬいぐるみ、見た事無い花瓶、見た事無い小さな箱
その小さな箱を開くと、中には見た事無いネックレスや指輪が出て来た
そのアイテム達を手に取ろうとした所、あたしの左手薬指に指輪があるのに気が付く
「なんだこれ…」
よく確認してみたけど、全く見た事無い指輪だ
それにこれらも誰の物かも検討が付かない
でもこの指輪も含めて、あたし好みの物であるという事は分かる。
だとすればプリンとナナからのプレゼントかな? ぬいぐるみはナナっぽいし。
…この後会ったら聞いてみようと思う
先に一人で朝ごはんの準備をしていたら、何時も通りプリンとナナがやって来た
「おはようユズちゃん」
「おはよう。ねぇ二人に聞きたい事があるんだけど」
「おう、なんだ」
「なんかあたしにいっぱいプレゼントしてくれた? 例えばこれとか」
そう首を傾げていた二人に、薬指の指輪を見せてあげる
好みピッタリな指輪だから、多分二人が買ってきてくれたとかだと思ったのだけど
二人の表情は驚いてるような呆れているような疑っているような、複雑な感じだった
「その指輪はロイからのプレゼントだろ、何を言ってんだお前は。」
「えっ? ロイ?」
「うん、何か付き合い始めて間もなく貰ったって聞いたと思うけど」
「えっ? 誰が?」
「誰がってロイさんとユズちゃんだよ? ユズちゃんが言ってたけど?」
「?」
ナナの言ってる意味が分からず目を細めると
二人は顔を見合わせてまた首を傾げていた
「どうしたユズちゃん、頭打ったのか?」
「いや打ってないないと思うけど…。
ちょっと待って、あたしはロイと付き合ってるの? あたしそんなの知らないんだけど」
「えぇっ?! ユズちゃん一か月前くらいに付き合う事になったって言ってただろう?!」
「えっ?! あたしが?! 記憶に無いんだけど…」
「え、でも私、昨日とかも普通にロイさんと楽しそうに過ごしてるの見たんだけど」
「??」
昨日は何時もみたいにプリン達と大乱闘をエンジョイして、何時もみたいに過ごした記憶しかない
勿論ロイどころか、エムブレム組とろくに喋った記憶すらないのだけど
そもそもあたし達はエムブレム組とそこまで仲良しというわけでも無いし
今までそんなに関わった覚えが無いのですが…。
「えっ? あたし、ロイと何してたの?」
「確かゲームやってたかなー、休憩スペースで遊んでたのを見たけど」
「…。」
全く何を言われているのか分からない、そんな記憶は無い
これは他の人に聞いてみたり、ミュウツーに相談した方が良いな。
プリン達の言ってる事がおかしいのか、それともあたしの頭がおかしいのか
突然な話に、気持ちは朝ごはんを作ってる所じゃないんですけども。
「ミュウツー!」
「どうした騒がしいな…」
朝ご飯の片付けを急いで済ませて、駆け足で中庭に飛び込んだ
何時もみたいに木の下で本を読んでいたミュウツーは、こちらに目を向ける事無く口を開く
「プリン達があたしとロイは付き合ってるって言ってるんだけど、何で…?!」
「実際にそうだろう。
………ん? 記憶喪失か?」
こちらに目もくれず淡々と答えていたけど、途中彼はハッとした感じでこちらに顔を向けた
「お前、ロイとのやり取りの記憶が一切無いようだな」
「そ、そうなんだよ…、あたし皆が言ってる事、よく分からないんだよ」
本を閉じると、テレポートでこちらにやってきたミュウツー
あたしの頭をポンポンと叩くと、そのまま頭の上に手が置かれた
「プリン達は一か月前から付き合ってるって言ってるんだけど、あたしそんなの知らないよ」
「確かに一月前くらいから、そういう仲になったと私はお前から聞いた。…言われなくても知っていたが」
「えっ?! そ、そうなの…?!
というかあたし達ってエムブレム組とろくに関わった事無いと思ったんだけど…」
「まぁお前は不意打ちみたいなものだった。
ロイの方が気になっていて、思い切って打ち明けたという感じだ」
「そ、それであたしはOKの返事をしたって事…?」
「そうだな。お前はよくロイの事を知らないが、折角の機会だからと受け取った
…という感じだった。お前は特にその時好きだという感情は無かった。どれかと言われれば「情」だろうな。」
「…。」
まぁ…、ミュウツーが言うなら本当なんだろうけど…
じゃぁなんであたしはその記憶が無いんだろう?
…昨日の夜とか、あたしは頭を強打したとかかな?
「ちなみに昨晩、お前等はつまらん喧嘩して、それっきりだ。
…たかがゲームでのごちゃごちゃで現実逃避したのか?」
「分からない…」
もう昨日の事どころか、あたしはロイとのやり取りが全部抜けてしまってるのか?
例の一か月前から今まで、ロイと仲良くした記憶は一つも無い
「何故ロイの事のみ綺麗に消え去っているのか、強く頭でもぶつけたのか?」
「いや、それは流石に無いよ。頭痛いとかも無いし怪我も無いし。
まさか誰かがあたし達の仲を邪魔しようとしてるとか?」
「それは無いな、私に見通せない感情は無い筈だ。
お前等の仲を悪く思ってる者は居ない」
「…」
「ユズ!」
「!」
ともに口を閉じていると、中庭に別の人の声が響いた
驚いてそちらを確認すると、ロイとプリン達が駆け寄ってきていた
部屋の外ではルキナ達が何か話をしながらこちらを見ている
「ミュウツー、ユズちゃんは結局なんなんだ?」
「分からない。特にぶつけたわけでもなさそうだから
もしかしたら昨日の小さな喧嘩がよっぽどダメージだったのかもしれない」
すぐ側までやって来たロイは凄い心配そうな表情をしているけど
あたしから見たら他人の位置の人なので、何とも言えない…
昨日まで「こんにちはー」とか「一騎打ち強過ぎない?」とか、そんな程度の話しかした覚えが無い
しかし彼的にはそれ以上の存在らしく、あたしの顔を触ろうとする
それに少し驚くと彼は手を止めた
「どーすんだー! せっかく色無し干物ユズちゃんが色付いたと思ったのにー!」
「お前は何時でも余計な事ばかり言う。」
「本当に覚えてないのか?! ほら見ろ、同じ指輪してるだろ?!」
そうプリンはロイの左手を取るとあたしに見せつけてきた
その薬指には指輪がある
あたしのと見比べてみたけど、言う通り似たような指輪をしていた
「ほ、本当にロイさんとの事を忘れちゃったの?」
「…。」
「おいお前、つまらん喧嘩をしたからって
まさか記憶飛ぶほどユズちゃんをボコボコに殴ってないよな?!」
「そんな事するわけないだろ…!」
「まぁ落ち着けお前等。お前等がピリピリするのは分かるが
一番困惑してるのはユズだろう、お前等が乱れていてどうする」
「「「…。」」」
ミュウツーの言葉に大人しくなったプリンとロイ
自分で言うのもなんだけど、確かにそちらで荒れてても仕方ないだろうに
「ユズ、記憶喪失の理由は分からないが
何か記憶でも感覚でも思い出すかもしれない、少しロイと一緒に過ごしてみるのはどうだ?」
「う、うん…、そうだね…」
ミュウツーに言われたら確かにって感じになるよ
確かにちょっとお喋りをしたら、何か思い出すのかもしれない
…記憶喪失した人って凄い大変なんだな
メンバーはそのままなのに、いきなり知らない環境に投げ出された感じだ。
中庭を後にしてプリンナナの後をついていくと、転送部屋のある方向へ進んでいる
そしてやっぱり一緒にエムブレム組もついてきていた
あたしの事を喋っているプリンやルキナ、ロイだけど
それにしても何で二人はとても仲良しそうにルキナと話してるんだ…?
あの三人のお喋りのノリは、とても一日二日で成る物ではない。
本当あたしと二人の仲をまんまルキナにした様な感じだ
「プ、プリン…、何時の間にルキナと仲良くなったの…?」
「へ?」
正直に疑問をプリンにぶつけると、彼女は間抜けな声を上げて固まっていた
代わりに隣にいたナナが笑いながら口を開く
「私とプリンがというよりも、ユズちゃんがロイさんと付き合ってるから
そこから私達もルキナさん達と喋る様になったんだよ?」
「…。」
ナナの衝撃発言に言葉を失う
確かにその理由はあり得る物なのだけど、あたしは過程を知らないので。忘れているので。
そこまで関わった覚えの無いエムブレム組の方へ視線を向ける
あたしからすると凄い他人なグループなのだけど、彼らは「どうした?」と言わんばかりの表情で、首を傾げている人も居る
「どうしたの?」
「こ…、こんにちは…」
「え? そんなかしこまらなくても良いよ?」
そう爽やかに笑っているイケメンズだけど、今まではこういうレベルの距離感だったでしょ。
でも再び記憶喪失について喋り出したプリンとルキナを見て
「あたしがおかしい」という錯覚に陥った
「ちょっとプリン達は何時もみたいに大乱闘してるから、ユズちゃんはロイとお喋りしてみてくれ」
慣れた感じで部屋を作っていくと、プリン達やエムブレム組は機械の中へ入っていった
取り残されたあたしとロイ
突然「他人とお喋りをしてくれ」って言われても…。難しいよ…。
「本当に僕の事忘れたの?」
「!」
あたしと違って、彼は親密な関係の記憶があるみたいだから
何も躊躇いも無く話し掛けてきた
仮にあたしがマジの記憶喪失だったとしたら、残された彼は可哀想だ
何も答えられずに彼の顔を見ていると、別の所から黄色い声が近づいて来た
「ちょっとー、こんな所でまたイチャイチャしてー」
「本当に二人って仲が良いのね」
冷やかし顔のデイジーと、ニコニコしているピーチ
この二人の言葉を考えると、やっぱりあたしと彼はそういう仲だったのかもしれない
「…というか昨晩喧嘩してたけど、もう仲直りしたの?! 早くない?!」
「う、うん…」
「………どうしたの?」
冴えない返事をしていると、代わりにロイが二人に事情を説明し始めた
「えっ!? 記憶喪失?!」
「僕との記憶が丸々無くなってるらしいんだ」
「な、なんで…」
凄い驚いている二人を見ると、記憶喪失は意図的にやったわけではないけど
凄く申し訳ない気持ちになる
「全く覚えてないの…?!」
「う、うん…、ごめん…」
「謝る事は無いわ、きっと一時的な物よ。その内パッと思い出すわ」
桃色ハーモニーだと大変ウザ迷惑なピーチだけど
こういう時って優しいんですね。
「ロイ、一回抱きしめてみたら? 今までも何回か抱きしめた事はあるんでしょ?
なんか感覚で思い出したりしないかしら?」
「あ、あぁうん…。…良い?」
こちらに向いたロイは、軽く腕を広げて首を傾げる
ちょっと抵抗はあったけど、拒否してても何も変わらないだろうし、一応首を縦に振った
誰も何も話さずの中、違和感しかない感覚に包まれる
漫画とかアニメで見る物だったらこういう事をすると
懐かしいとか、慣れたような感覚が来る描写が多いけど、そんなの全くない
別に不快とかは無いけど、やっぱりあんまり親しくないイケメンに抱きしめられているだけだった。
「…どう? 何か変わった?」
「いや…、何も無いかな…」
そう答えると、二人は残念そうな声をあげた
ピーチとデイジーがどうしようこうしようとお喋り始めたのだが
何時まで経ってもロイが離れない
どうしたんだ、と顔を見上げると物凄く悲しそうな表情で目を瞑っていた
背中をポンポンと叩いてアピールとすると、彼はゆっくりと離れた
「だ、大丈夫…?」
「…うん」
「な、なんかごめんね…。悲しい思いをさせるつもりはないんだけど…」
「…」
なんでこんなにも罪悪感にやられなければならないのか?
あたしが何をしたってんだ? どうして記憶喪失になったんだ?
何とも言えない感情でロイを見つめていると、彼はあたしの手を取って握る
「何か僕が悪い事したのかな…、そんなに昨日の喧嘩がショックだったのかな…」
「そ、そんな事ないと思うよ…?」
と、答えたとしても、あたしは何も覚えて居ないから説得力が無い。
見かねたピーチとデイジーが同じように「大丈夫よ」と慰めているが、ロイの表情は変わらない
少しの間、手を握っていただけだったけど、突然強く抱きしめられた
驚いて声が漏れたけど、さっきよりも断然強くて何も言葉が出なかった
「諦めたくないなぁ…」
そう彼は絞り出した様な声で呟く
なんて悲しい人なんだろう。
その言葉に、その声に、その行動に、あたしの迷いは一気に吹き飛んだ
正直、皆の言ってる事は信じられないけど
様子を見れば、とてもじゃないけど嘘を吐いてるとは思えない、誰もふざけてる感じじゃない。
ミュウツーだってあぁ言ってたし。
もしかしたら本当にあたしは記憶が無くなっちゃってるだけかもしれないし
彼の気持ちを考えると、拒絶なんて出来ないよ…。
むしろここは、大変な手間も無くイケメン彼氏をゲットしたとポジティブに考えよう。
もしかしたらその内、何かを少しずつでも思い出すかもしれないし
「ロイ、もう大丈夫だよ」
「ユズちゃん、何か思い出したの…?!」
「違うよ。別に記憶喪失になったからって別れようとは言わないし、大事にしてくれてるのは分かるし。
…まぁ最初はちょっと噛み合わない所が出てくるかもだけど。
何を思い出すか、いつ思い出すかは分からないけど、これからもよろしくね」
「…」
物凄い力で抱きしめられてるもので、彼の表情は確認できない
この言葉に何を思ったかは分からないけど、彼はそのまま動かなかった
ピーチやデイジーが「私達も何かあったら協力するから」と意気込んでるのを見ると
まぁ何とかなりそうだし、あたしも早々に順応できそうだ。
時刻は午前1時
今だ眠らないミュウツーの所にロイがやってきた
「……初日の割には随分と馴染んでいるな」
そう呟くとミュウツーは木の上からロイの目の前にテレポートした
「はは、どういう意味?」
「そのままの意味だ。お前もユズの事を知らない割には随分と慣れた様子だな。
雑談も違和感無いし、スキンシップも普通に出来ている」
「それは君のお陰でしょ? 記憶喪失という理由があるから、違和感は無くなるんだ。
そういえばプリンに聞いたら君は渋い木の実が好きだってね。ポケトレから渋い味の木の実を譲ってもらったよ」
「…。」
ロイは手に持っていた黄色と青色の混ざった木の実を差し出すと、ミュウツーは黙って受け取って口にする
「ちゃんとお礼をしなくちゃと思ってね。
本当にここまでの事が出来るなんて思ってもなかったけどさ、皆の記憶操作出来るなんて」
「別に良い、私の興味に付き合ってくれたのだから。Win-Winだ」
「とても感謝してるよ。本当にユズと付き合えるなんて夢にも思って無かった。
ライバルが多くてさ、色んな人と仲良くしてるし。何度さらってやろうと思ったか」
「…まぁ良い意味でも悪い意味でもお前が一番想っているから、お前に提案しただけだ。」
「あはは、それでミュウツーの望むものは見れたの?」
「そうだな、あっさりとユズは適応した。
むしろ苦労無くお前と付き合えた事を幸運と思おうともしていた」
「そう、幸運なのは否定しないけど」
「全く凄いな、違うと思っていても周りがそうなら本当に受け入れるものだ。
後はお前との関わりでどう心情が変化するのか、それを見たいな。現状はお前への情で付き合っている様なものだから」
「分かってるよ、君のお望み通りなるべく早く見たい物を見せてあげるから」
「えらい自信があるのだな…。まぁ愚問か…」
「あはは、当たり前だろ。
僕、本当にユズが好きなんだよ。…本当に。」
「…まぁ、ユズに引かれない様、嫌われない様に頑張る事だな」
そうミュウツーは残りの木の実を口に入れた
記憶の問題
「今、僕の部屋でユズが寝てるんだけど、寝顔が凄く可愛くてさ、ずっと眺めてたら30分くらい経ってたんだ」
「…お前は少し変わってるな。」
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